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12月5日

やっちまった……!

更新出来ませんでした泣


一日遅れで申し訳ありません。12月5日よろしくお願いします~




 ギィーーーー……パタン




 コツ、コツ、コツ、コツ





 ―――クラウン家地下3F


 


「ここに来るのは久々だな~」

 僕は誰に言うわけでもなく呟いた。

 この場所は代々のサンタクロースとその跡継ぎしか入ることの許されない領域。例え配偶者と言えどもここだけは絶対不可侵。


 【手紙保管庫】


 世界中から届いたサンタクロース宛の手紙が眠る場所だ。

 図書館のような作りのそこはこの村丸っと一つ飲み込めるくらいの広さがあり、10m近くある高い天井まで伸びる本棚の代わりにキャビネットが等間隔に並んでいる。

 光の差し込まないところではあるが、不思議と暗くはない。


 コツ、コツ、コツ


 ゆっくりと目的の場所まで歩く。

 通り過ぎるウォルナット材のキャビネットには無数の引き出しがびっしり付いているが取っ手はない。ただ引き出し一つ一つにはラベルが貼ってある。


(この辺、でいいかな……)


 立ち止まった僕はぐるりを周囲を見回して村に届いたサンタクロース宛の手紙が詰まった山盛りの籠を床に置き、その中から一通取り出した。


 12月に入ってから村にはたくさんの手紙が届くようになった。昼夜問わず送られる手紙は何百、何千と日を追うごとにその数を増やしていく。


 今日は、12月になって初めての閲覧日。特別な日だ。


 僕は手にした手紙の裏表を確認し、見知った文字が去年より上手くなったのを見て、ああ……一年経ったんだなと感慨に耽る。

 この子はもう七つになったんだったか―――


「トゥロン」


 手紙の裏側に書かれた差出人の名前を呼ぶ。

 すると僕が立っている場所から2m程離れたところのキャビネット上部から、がちゃんっ! と音がした。その方向に目をやると、ラベルの部分がチカチカと光り引き出しがひとりでに迫り出してきた。

「ああ、やっぱりここにいたね」

 顔が綻ぶ。

 その時、手に持っていた手紙が僕の手から逃げてペリペリと封が破られ中身が飛び出して来た。そして早く読んでと言わんばかりに僕の顔の前でゆらゆら揺れ催促をする。

 手紙には意思が宿っていて、差出人の代わりに願いを訴える。そこには大人も子どもも関係ない。等しく願いは叶えられる。

 サンタクロース宛に送られた手紙は全てクリスマス村に届けられ、閲覧し終えるとラベルの付いた引き出しに仕舞われるのだ。もしも初めて送った場合は新しく引き出しが作られる。

 トゥロンは今年で4回目。だから彼には専用の引き出しがある。


 急かすように目の前を横切る便箋に零れそうになる笑みを堪える。


「今年は何をお願いしたのかな? ……そう、小さな赤い手袋が欲しいんだね。いいよ、きみの願いは僕たちが叶えてあげる」

  

 ポゥ……―――


 そう告げると手紙から淡い光の玉が現れた。初めは小さかった光が徐々に大きくなって手紙全体を包み込み、そしてふわりと引き出しに吸い込まれていった。

 引き出しは手紙が納まるとパタンと閉まった。それと同時にラベルも元通りになる。ラベルにはトゥロンの名前が書いてあったのだ。


「優しい子。妹のために自分のプレゼントは我慢するんだね」


 閉じられた引き出しを見上げながら僕はぽつりと呟いた。

 イタリアに住む小さな少年は、三つの時から毎年欠かさずサンタクロースへ手紙を書いてくれる。たどたどしかった文字も4年経った今では綺麗に書けるようになった。

 僕はトゥロンからもらった手紙を思い返した。


 

『サンタクロースのおじさんへ


 げんきですか? ぼくはとってもげんきです。

 ことし、いもうとが生まれました。すごくかわいいんだ。ぼくお兄ちゃんになったんだよ!

 だからね、ことしはぼくのおねがいはいもうとにあげたいんだ。

 いもうとはまだ字がかけないから、ぼくがかわりにおねがいするってきめたんだ。

 ことしのクリスマスは、いもうとのパネトーネにかわいい赤いろのてぶくろをプレゼントしてくれる?

 そうしたらいっしょに雪あそびができる。いっしょに雪だるまがつくれるから』



 一緒に入っていた手紙にはもう一枚、こげ茶色の髪をした少年と同じ髪色の幼子が家の前で小さな雪だるまを眺めている絵も同封されていた。

 楽しそうに笑う二人がトゥロンとパネトーネなんだろう。パネトーネと思しき子どもの方には赤い手袋が填めている。これがプレゼントして欲しい手袋らしい。

 パネトーネは今年生まれたばかりと書いてあったから、もしかしたら少し先の未来なのかもしれない。こうなればいいなと思い描いたトゥロンの夢。

 僕はいつも手紙を読んでリストを作るだけだったから、父さんみたいに手紙の送り主の顔は分からない。だから間接的にしか彼らのことを知らない。

「きっと良いお兄ちゃんになるね」

 自分よりも妹にプレゼントして欲しいと願う心は、ちゃんと届いた。

 必ずクリスマスにはきみときみの妹のところへ届けるから……そう誓って僕は拳を握った。


 人の成長は僕らにとってはとても早い。また数年すれば今度は妹と一緒に手紙をくれるのだろう。






★ ― ★ ― ★ ― ★






「さーて、じゃあ次いこう」


 一人目が終わり、僕はぐっと伸びをして気合を入れ直した。

 12月に入って一人目は特別で、必ず名前を呼んで引き出しに入るまで見届けなければならない。

 言うなれば儀式みたいなものだ。特別何かをするわけではないけれど、気を落ち着かせて手紙の送り主の心に触れる。何事も最初が肝心。その手紙こころ一つで気合の入り方が全然違う。

 本来なら全員名前を呼んでゆっくり時間を掛けて見届けたいし、そうすべきなんだろうが新人サンタクロースの僕には時間が足りない。申し訳ないと思いつつ山盛りの籠を見つめた。  


「みんなおいで!」


 一通一通手に取っていたら今日中にリストが出来上がりそうにない。時間短縮の為に僕は全員を呼んだ。

 声を掛けると待ってましたとばかりに他の手紙たちが次々と自ら封を切って僕の周りを浮遊し始めた。その数凡そ三百通。

 

「分かった! 分かったから順番だよ。ほら並んで」


 あっという間に通路は手紙だらけ。ここまで来たら圧巻だ。

 全員呼ぶんじゃなかった。前が見えない。


「ケンカしちゃダメだって! 一列に並んで。そう、心配しなくても全員ちゃんと読むから。はい、じゃあきみからね。『メロマカロナ』」


 がちゃんっ!


 二つ隣の通路から引き出しが開く音がした。

 音がしたキャビネットへ駆け出す。付いてくる手紙たち。いや、きみたちは付いて来なくてもいいんだけど……ま、いっか。


「あった! 下から二段目だよ」


 ほら、と指を示すとメロマカロナ(の手紙)は僕の周りをくるっと一周するとトゥロンの時と同じように光の玉に包まれ消えていった。

 ふわふわ浮かぶ手紙たちは今か今かと自分の番を待っている。よしよし、お行儀良くしてくれてる。この分だと思った以上に早く終わりそうだ。


「よし、じゃあ次は『ベトメンヒェン』!」 


「『パンドーロ』!」



「『シュトーレン』!」




「『レープクーヘン』!」





 それから三時間後。





「はぁ、はぁ、はぁ……『ヨウルト……ルットゥ』」 


 がちゃんっ! くるくる、パタン。


「お、終わった……」

 僕は今日最後のヨウルト・ルットゥが引き出しに吸い込まれるのを確認すると、力尽きてその場に座り込んでしまった。

 思った以上に大変だった。

「え、ちょっと待って。もうお昼過ぎてんの!?」

 スマートフォンの電源を入れて時間を確認すると既に午後1時を回っていた。

「これからプレゼントリスト作って工房に行ったら夕方になっちゃうよ……」

 昨日小人たちにレース工房への手伝いを頼んでおいてよかった。きっと今頃自分たちの作業分を終えてヘルプに行ってくれているはずだ。

「お昼ごはん食べてる暇なんてなさそうだ、ね」

 よっこいせと立ち上がる。

 今から手紙に書かれていたプレゼントを各工房ごとにリストアップしなければならない。染色と陶芸辺りもそろそろ手が空きそうだと言っていたし、どの工房からリストにするか考えながら僕は手紙保管庫を後にした。


「もっと真面目に手伝っておけばよかった。ごめんね、みんな」


 だけど後悔なんてしてる暇はない。

 一分一秒でも早く、今出来ることをしなければ。






☆ ― ☆ ― ☆ ― ☆






 こうして12月5日が終わった。


 クリスマス当日まであと20日―――

ここまで読んで下さってありがとうございました。

次話は本日23:50頃を予定しています。

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