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12月3日

キャパオーバーで倒れてしまった後、朝を迎え自宅に帰って来た翌日お話です。

 ―――自宅リビング



あるじ

「……何?」

〈何をしていらっしゃるのですか?〉

「現実逃避」

〈……〉



 昨日の昼前にユールの家からルドルフを伴って自宅に帰って来た僕は、何もする気が起きず丸一日ベッドの中で無駄に過ごした。

 一夜明けてもまだやる気スイッチは入らない。既に午後二時を回っているというのにボケーッとリビングのソファに埋もれている僕に声を掛けてきたのはルドルフだった。


〈主よ、のんびり構えていてよろしいのですか? マスターから時間がないと聞いておりますが〉

 ちなみに主が僕でマスターがユールだそうだ。どっちも同じじゃないかと思うのだがそこには明確な違いがあるとのこと。あれかな、生みの親と雇い主みたいな?

「いや、まぁね。そうなんだけどさ」

 ハッキリしない僕にルドルフが更に畳み掛ける。

〈何か問題でも?〉

「問題というか、まだショックが抜け切らないだけ」

〈ショック?〉

 分からない、とでも言うようにルドルフは器用に首を傾げた。

 まるで人間と同じ様に振舞う彼は人間の知能にできるだけ近づけた機械―――所謂AIだった。

 【人工知能搭載超合金トナカイ・ルドルフ2号】これを彼の正式名称にしようと思う。


 それはともかく!

 

 今僕はショックから立ち直れないまま項垂れている。

 何故かと言うとキャパ超えで気絶する直前に聞こえていたユールとルドルフの会話には続きがあった。

 僕の為に造られたルドルフは、【ルドルフ2号】の名の通り2番目のルドルフだ。という事はもちろん1号がいた訳で、残念ながら1号は廃棄処分スクラップになったらしい。理由は喋れなかったから。

 僕がトナカイを嫌っているのは【何を考えてるか分からないから】。ということは喋れない1号はダメじゃん! となった。そして泣く泣く溶かして造り直して喋れるようにしたのが2号、今のルドルフだそうだ。

 どうやら僕の為に尊い犠牲を払ったらしい。

 だけど僕がショックを受けているのは1号が溶かされたことでも2号が喋れることでもない。


 ルドルフの声がじい様から録った(?)声だということだ。


「じい様ヒドイよ……僕が電話した時居留守使ってたなんて」

 そう。

 僕は父親に連絡を取ろうと躍起になっている最中、先代であるじい様にも連絡を取っていた。

 現役を引退したじい様はクリスマス村から程よく離れたフィンランドのロヴァニエミに居を構えている。こっちにも家はあるが一年の大半はロヴァニエミで普通の人間としてばあ様と二人仲睦まじく自由気ままな隠居生活を送っているのだ。

 父さんがダメならじい様だ! と思うのは至極当然だと思う。

 だけど無情にも電話は繋がらず『しばらく旅行に行って来ます』と留守電メッセージが流れていたからタイミング悪く旅行に行ったとばかり思っていたのに!!


 居留守使われてただけでした。


 昨日目が覚めてルドルフの声についてユールに詰め寄ったら『あ? ルドルフの声はカラーお祖父様に頼んで録らせて貰ったぞ。三日前に』とあっさり吐いた。

 急いでじい様宅へ乗り込もうとしたら『お祖父様はその足でお祖母様と旅行へ出掛けたぞ』なんて言われた日にはもう何も信じられない。

 祖父母はスマートフォンなんて持っていないから、帰って来るまで連絡が付かない。

 つまりサンタクロース家業について知っている人間が誰もいなくなったという訳で……そりゃやる気も出なくなるのも致し方ないと思う。


〈主はマスターに聞いた通り、繊細なお心をお持ちなのですね〉

「良く言えば繊細。悪く言えばヘタレと名高い僕の心を折るのはとても簡単だよ」

〈そのようですね。人工物である私には理解しかねる部分がありますが、概ね主の思考は解析出来ました〉

 ズシンズシンと僕に近付いて来たルドルフはそう言いながらメタリックボディを座っている僕の太股に擦り付けた。つるつるボディは滑らかで金属のハズなのに不思議と温かかった。

「慰めてくれるの?」

〈それが今一番良い行動だと判断しました。ですが私の役目は主が無事務めを果たす為の手伝いだけではありません〉

 くいっと顔を上げて僕を見つめたルドルフは、一旦言葉を切って言った。


〈1号とマスターと約束したのです。クリスマスが過ぎ厳しい冬を迎えて、雪解けの後に春が来ても……その先もずっと、何があろうとこの身が果てるまでお傍にいると〉




 ―――そう約束したのです。




 その声には力強い響きが宿っていた。






★ ― ★ ― ★ ― ★






 不覚にも、感動してしまった。


 1号と2号の間に何があったかは知らないけれど、並々ならぬ決意がルドルフにはあった。

 自室に戻って来た僕は、ベッドに横たわりながらルドルフの言葉を思い返していた。


(この身が果てるまで―――か)


 現実はハイスペックなルドルフより自分の方が先に朽ち果てるような気がしなくもないけど、その気持ちは嬉しかった。

 人工物だと言う割には人間味溢れるロボットだ。

 思えばユールが造るロボットはベラベッカも含め、どことなく人間臭い。ベラベッカは話こそ出来ないものの、何となく言いたいことは伝わるし良い子だと思っている。

 それは人に対する感情と同じで、ただの機械つくりものだと思ったことは一度もない。


(もしかしたらユールの魔法なのかもしれないなー)


 僕達クリスマス村に住む人間は、厳密には人間じゃない。

 人体を構成している組成は普通の人間と同じだけど、寿命は1.5~2倍長く成長も遅い。僕とユールも二十歳だが普通の人間で言えば三十~四十歳位になる。

 それと僕達は皆多かれ少なかれ魔法を使うことが出来る。だけど魔法使いじゃないからいつでもどこでも使える訳じゃない。あくまでクリスマスに関連するものの為じゃないと使えない。

 今回の件も広い意味ではクリスマスの為だし、知らず知らずの内に特別な魔法が掛かったのかもしれない。


「頑張らないとなぁ」


 自然と口から出た言葉は今までの僕には考えられない位前向きなものだった。

 そうとなればやるべきことは一つ。

 サンタクロース家業について自力で調べる!

「とりあえず父さんの仕事部屋を漁ってみよう」

 よっと掛け声を上げて僕は部屋を出た。




「うわっ! 汚い……」


 地下にある父親の仕事部屋に足を踏み入れた僕はその酷い荒れ様に頭を抱えた。さして広くない部屋に押し込まれた大量の書物は本棚から溢れ床に積み重ねられて埃を被っている。机の上には書きかけの手紙が垂れたインクで汚れているし、シミを作った原因だと思われる羽ペンは床に落ちてそこにもまた汚れを作っている。

「どうしてこんなことになるのか僕には理解できないよ」

 これでは調べ物をするどころではない。

「部屋の掃除からだな」

 もう一度ぐるりと部屋を見回してそう結論付けた僕は、一旦部屋に戻り汚れても良い服に着替えマスクと軍手を装着すると、まずはハタキで埃と格闘することにした。


「ほんっと、嫌に、なっちゃうよっ!」

 バシバシバシッ

「窓が、ないんだからさっ! 掃除くらい、ちゃんと、してよねっ!!」

 ベシベシベシッ

「何で、冬に、扇風機回さないと、いけないの!?」

 ビシビシビシッ


〈……主、何をしていらっしゃるのです〉


 その時、開けっ放しにしていた扉からルドルフが顔を出した。

 強風に乗って舞う埃をその身に受けながら不思議そうにこちらを眺めている。

「あ、ルドルフ」

 僕は振り上げていたハタキを下ろすと扇風機を切ってルドルフに歩み寄った。

「サンタクロース家業の手掛かりを探そうと思って父さんの仕事部屋に―――ココなんだけど、部屋が汚過ぎて見つかるものも見つからないと思ってさ、掃除してた」

 ルドルフの体に付いてしまった埃を落としながら僕はそう答えた。

〈成る程……確かに酷い有様ですね。しかし主は小さい頃から家業について教育を受けてきたとマスターから聞いていたのですが違うのですか?〉

「うん、まぁそうだね。根性論とかプレゼントの製作業務の流れとかは教えて貰ったけど、肝心の【サンタクロース】の仕事は教えて貰ってないんだ。だからどうやってプレゼントを配ってるのか知らないんだよね」

 どう考えたって普通に一軒一軒回って配っていたら、朝が来るまでに世界中の子ども達にプレゼントが行き渡るはずがない。サンタクロースの体は一つしかないんだから。

〈特別な方法があるということですね〉

「そー。だからヒントがないかなぁって思って」

 これで良し、と最後の埃を床に落とすと僕は立ち上がった。

 今日は何としてもこの部屋を片付ける。そう心に誓って再度ハタキを握り締めた。

〈私も手伝いましょう〉

 ぷるぷると体を振ってルドルフが申し出る。

「え? そりゃ助かるけど、その姿じゃムリじゃない?」

 いくらハイスペックとは言え、四足歩行ルドルフに掃除の手伝いは難しいだろう。

〈心配には及びません。第二形態になれば二足歩行モードへ移行します〉


 第・二・形・態 !?


「―――マジですか?」



 ユール、キミってば才能の無駄遣いだよ。僕の為だけにどれだけの労力を割いてくれたの?






☆ ― ☆ ― ☆ ― ☆






 こうして12月3日が終わった。


 クリスマス当日まであと22日―――




ここまで読んで下さってありがとうございました。

次話は12月4日9時を予定しています。

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