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12月1日

本日12月1日から毎日更新です。

記念すべき第1話!楽しんで頂ければとても嬉しいです。

 



 両親が21年越しのハネムーンに出掛けて一週間が過ぎた。


 僕はと言えばその間、ありとあらゆる方法を試して父親に連絡を取ろうと奮闘した。

 一応近代化の進む現代に倣って僕達もスマートフォンを持っている。

 人口200人の小さい村だから文明の利器スマートフォンなんて滅多に使わないけど、村から出る時は何かと便利だ。地図アプリは何気に重宝している。


 それは置いといて、僕はあの直後からサンタクロース家業について聞き出そうと何度も電話を掛けるもあの脳筋オヤジには繋がらなかった。

 IMインスタントメッセンジャーは未読のまま一向に既読にならないし、それならとメールを送ったらリターンメールという斬新な返信を頂いた。

 つまり息子にメアド変更のお知らせをしていなかったというワケだ。


「メアド変更はともかく国際ローミング設定くらいして行ってよ……何の為の携帯だよ!!」


 そんなこんなで僕はベッドに打ちひしがれていた。



 ~~~♪ ~~~♪ 



 うぉぉぉ! とベッドにスマートフォンを叩きつけていたら、軽快なメロディが鳴り響いた。

 クリスマスソングの定番の一つ【SleighRideそりすべり】だ。

 その瞬間、僕は高速スワイプで通話ONにした。

 電話の主は僕にとって最後の望み、待ち望んでいた電話だったから。


「もしもしっ」

『……なんだ早いな。ふっ、まぁいい。例のモノ・・・・出来たぞ』

「すぐ行く!」


 電話口の相手の含み笑いは黙殺して僅か数秒のやり取りで終話すると、僕は急いで厚手のロングコートとマフラー、手袋を装着して家を出た。

「うー……冷えるなぁ」

 玄関から一歩足を踏み出せば外は闇に包まれ、足元を照らすのはオレンジ色の頼りない門柱灯と瞬く星々だけ。見上げた南の空にオリオン座が一際輝いているのが見えると、ああ冬の夜だなと思う。

 白い息が闇夜に溶ける。ザクザクと真新しい雪を踏み締め、家のすぐ裏手にある厩舎へと向かう。

 シンと静まり返る厩舎の入口で愛馬のスノウを呼ぶ。だが決して奥を見たりはしない。アイツ等・・・・がいるからだ。

「スノウ、起きてる? 出掛けるよ」

「ブルルルルッ」

 僕が声を掛けるとすぐに「起きてるよ」とでも言うようにスノウが一番手前の檻から顔を出した。歩み寄り、良い子だと首元を撫でてやると嬉しそうに擦り寄ってきた。

「さ、吹雪にならない内に行こう」

 向かうのは村はずれの幼馴染の家だ。


 

 使えない父親に代わって僕が頼ったのは生まれた時から一緒にいる幼馴染だった。母さんも言っていた。「困ったことがあったらユールちゃんに相談するのよ」と。

 ああ、そうさせてもらうさ。

 実は最悪の事態に備えて両親がハネムーンに旅立ったその日に相談をしていた僕の判断は正しかった。


 こうなったら何が何でも完璧に務めを果たしてやる!






★ ― ★ ― ★ ― ★






 フィンランド北部ラップランド。

 北極圏の境にあるコルヴァトゥントゥリ山の麓に僕たちの住む村はある。

 村の名前はクリスマス村。

 サンタクロースの一族と関係者のみが住む村だ。

 もちろん普通の人間には感知出来ないよう魔法が仕掛けられている。

 これと言って何もないけれど、冬は雪の深い綺麗なところだと僕は思っている。




「はぁー……さぶっ」


 村を出て森へと急ぐ。

 スノウは速いがその分寒い。今はもう深夜に近いから尚更。

 口元までマフラーをぐるぐる巻きにしているけれど、剥き出しの頬が風に当たってピリピリする。だけど今はそんなことには構ってられなかった。一刻も早く幼馴染に会いたかった。

「スノウ、もう少し頑張って」

「ブルルルッ!」

 スノウの足で十五分、ようやく目的の場所、幼馴染の住む家―――というかお屋敷に着いた。いつ見ても大きい洋館だ。

 たった二人しか住んでいないのにこんな大きい必要があるのだろうかと思いつつ、勝手知ったる我が家の如く堅く閉ざされた門に設置されているテンキーユニット(門扉入退室管理システムというらしい)にパスワードを入力する。

 ギギィ……と何とも不愉快な音を立てて焦らす様にゆっくりと門が開いていく。

 スノウを馬小屋へと置いて、僕は屋敷の扉をノックをした。


「いらっしゃいませ。ノエル様」


 間を置かずに扉が開く。

 出て来たのはこの屋敷の執事ヒンメリだ。僕の半分くらいしかない背の低い面妖な容姿の老人で、僕のじい様が小さい時からこの屋敷に仕えているらしい。

「ユールはラボ?」

「さようでございます。体を温めたら地下室へ来てくださいとの伝言を承っております」

 くぐもった声で返事をすると、ヒンメルは僕が脱いだコートや防寒具一式を預かり「すぐに熱い紅茶をお出しします」と言って一旦下がった。

 僕は一人残された大広間の、一番暖炉に近いソファに体を埋めた。常時薄暗いこの屋敷で―――幼馴染のいる地下を除いて―――ここが唯一明るい部屋なんじゃないかと思う。


 パチッ……パチッ……


 薪が爆ぜる音と僕が手を擦り合わせる音しかしない。

「ノエル様」

 程なくして足音一つさせずにヒンメルが戻って来た。

 手にしたトレイにはなみなみと注がれたミルクティーとバニラキッフェルが籠に盛られていた。

「ありがとう。ヒンメル」

「いいえ。何かありましたらお召喚よびください……クックック」

「……うん」

 再度「クックック」と怪しい笑い声を残してヒンメルは闇に溶ける様に姿を消した。

 長い付き合いで慣れているけれど、何年経っても謎の人物だ。

 こくこくと淹れて貰ったミルクティーを飲む。砂糖の代わりに蜂蜜をたっぷり入れた甘いミルクティーが僕のお気に入りだ。

 幼馴染ついでに面倒を見てくれていたヒンメルは、二十年の付き合いの中で僕の好みまで完璧に把握してくれていた。下手をすれば母さんより。


「あの怪しささえなければ完璧な執事なのに……」


 夕日色に輝く顔・・・・・・・を持ち、ギザギザ・・・・で悪戯な笑みを浮かべる大きな口、炎が揺れる・・・・・赤い瞳―――

 かなり特殊な容姿を除けばとても優秀な、幼馴染家の執事であった。




「ユール」

「来たか。ヘタレ息子」

 地下室ラボという名の幼馴染の自室へ入ると、開口一番強烈なカウンターを食らった。

「ひどくない? 否定は出来ないけどさ」

 足の踏み場もないほど散乱した部屋を縫うように進む。床には原型を留めていない、元は鹿の剥製だったもの(現在どうなっているかは自主規制)やら中がカピカピに乾いたフラスコやら螺子やら危ういバランスで積み重なっている書物やらで数歩先しか見えない。

 直線距離なら10メートルくらいで辿り着ける幼馴染の元まで、倍以上の距離を掛けて向かう。

 つい先日片付けを手伝ったばかりなのに一週間もしない間にこんなに散らかせるなんてある意味才能じゃない?

「ふん。ヘタレ息子はヘタレ息子だ。ああ、だが私とお前は幼馴染だからな。ヘタレ馴染なじみという方が正しいか」

「ヘタレから離れてくれない?」


「ふっ……それはムリな相談だな。待ってたぞ、ノエル」


 最後の難関。幼馴染をぐるりと取り囲む膨大な資料を掻き分けると、雪国では珍しい無造作に下ろされた夜空色グラファイトの髪がサラリと揺れ、楽しそうに細められた同じく夜空の瞬きを閉じ込めた瞳が僕を見つめた。

 弧を描く口元は不敵な笑みを浮かべている。


 ユール・アイビー。

 僕と同じ二十歳。漆黒に星の煌きを散りばめた髪と瞳に、抜けるような白い肌を持つ尊大な態度の女の子。

 自他共に認める狂科学者マッドサイエンティスト

 僕の幼馴染だ。


「トナカイ恐怖症(嫌い)のお前でも奴らに触れるように、だったな」

「うん」

「出来たぞ。その名も超合金トナカイ【ルドルフ2号】だ」

「うん?」


 超合金トナカイ……?

 僕はユールの言葉を再度繰り返した。超合金? 何だそれ?

 誇らしげに胸を張る幼馴染は出来栄えが良かったのか大層ご満悦だ。そんな彼女を横目に僕は考え込み、ある一つの答えを導き出した。


「ちょっとぉぉぉ! 何てもん造ってんの!!」



 ゴーン……ゴーン……



 僕の叫びと共に、深夜零時の鐘の音が鳴り響いた。






☆ ― ☆ ― ☆ ― ☆






 こうして12月1日が終わった。


 クリスマス当日まであと24日―――

 



ここまで読んでくださってありがとうございました♪

次話は12月2日0時に更新致します。

1話と2話が30分しか空いていないので、もしかしたら1話読み終わった頃には更新されているかもしれませんね。

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