12月10日
やっと投稿できました。
今週で追い付けるかな……
もういっちょユール目線です。
ご教授、ねぇ……
口には出さず、私は視線を銀色の太い鉄格子に向けた。頑丈なそれは一見トナカイ共を閉じ込めているように見えるが、よく見れば守る為のものと分かる。
敷き詰められた藁に八頭いてもまだ余裕のある広さ。綺麗に清掃されているとは言え、檻の中にも関わらず彼らは伸び伸びしている。
「…………」
最後に近くで見るのはいつ振りだったか―――目を細めて記憶の沼に入り込むが思い出せなかった。しかし目の前にいる彼らと記憶の中の彼らは寸分の狂いもない。
不躾に見下ろしているのに彼らは特に批判もせず(一頭例外がいるが)穏やかな茶色の瞳で見つめ返してくる。それはまるで子どもを見守るかのような、ひどく優しげな眼差しだった。
……そんな生暖かい目で見つめられる覚えはないのだが。
微妙に居心地が悪くなった私は、コホンと一つ咳払いをして檻のすぐ傍まで寄り、膝を付いた。若干膝に伝わる冷たさに顔を顰めるが我慢する。
「久しぶりだな、お前たち」
「ご無沙汰しております。ユール嬢」
応えてくれたのは柔らかい口調の薄茶色のトナカイ。年長者のヴィクセンだ。しなやかに伸びる手足を少し折って、優雅に寝そべる姿は美しい。
トナカイ共のまとめ役である彼は予期せぬ訪問者にも気分を害することなく「可愛い愛し子がこんなところまで来るなんて一体どうしたのでしょう。明日は吹雪かもしれませんね」などとのたまった。
しかしそう言われてもおかしくない程、ここ数年はめっきり屋敷から出ることがなかったので強くは否定できない。
「ほっとけ。降ったら降ったでその時だ」
しかし言われたままでは癪なので、くすくすと笑い声を上げるヴィクセンに顔を背けて減らず口を叩く。
〈マスターは彼らの言葉が分かるのですか?〉
そんなやり取りをしていたら、ルドルフが驚いたのか若干上擦った声で私とヴィクセンを交互に見ながら言った。そんなルドルフの様子に苦笑する。
随分とまぁ感情が出るようになったもんだ。我ながら面白いものを創り出した。表情は変わらずともその胸中が手に取るように分かる。
笑いを堪えながら尤もらしく答えてやる。
「まぁな。でもよく考えてみろ、小人たちと話せるのにサンタクロースの使いと話せないのはおかしいだろうが」
〈言われてみれば……〉
「コイツらの言葉が分からないのはノエルだけだ」
緩いヤツだと思われがちだがその実、ノエルは私より警戒心が強い。外面だけは一丁前だが何気に好き嫌いがハッキリしているし頑固な部分もある。
そういう事もあり、心寄り添えば理解できるのにノエルの心は頑なだ。昔からだが、何故そうなったのかは私にも分からない。
〈ところでマスター。こんな時間にどうされたのです?〉
「ん、ああ。お前に話があってな」
〈場所を移しましょうか?〉
「いや、ここで構わない。大した用じゃないんだ。ノエルが昨日からお前の様子が変だと言って仕事が手に付かないらしい」
〈主が私の心配を……!?〉
「随分とお前を気に入ってるようだぞ。恥ずかしいのか知らんが直接聞けないからと私に頼んで来たんだ」
〈何ということでしょう! そんな素振りはなかったのに〉
「ノエルは阿呆だから、そういう感情を隠すのは得意なんだ。で、実際どうなんだ? 昨日何があったか簡潔に言え」
〈実は……―――〉
★ ― ★ ― ★ ― ★
「分かった。要するにベルにロボットだと認識されながらも人間扱いされて困惑したと」
〈はい。言葉と行動がちぐはぐで、意味が分からないのです〉
「成る程な」
浮かない顔で何を言い出すかと思ったら、何とも可愛らしい悩みに拍子抜けすると同時に微笑ましくなる。
なかなかどうして人間臭い悩みじゃないか。
まぁ理解しろという方がロボットには難しいか。私はどういう風に説明をするのが良いか少し迷って……諦めた。
私も私でそれが普通だと思って生きて来たので、何と説明すれば良いのか分からなかった。仕方なくルドルフが望む答えとは違うかもしれないが事実だけを告げることにした。
「深く気にするな。この村の連中はヒトとそれ以外を区別する習慣が付いてないんだ。私たちも厳密に言えば世間一般的な人間ではないし、何より妖精だとか精霊だとか生まれた時から身近にいる所為でその辺りの認識があやふやなんだ」
きっとベルも自分たちと違う生き物だと分かっているが、(ルドルフに至っては生き物ですらないが)「新しく村に来た住人だ、へぇーロボットなんだ」くらいにしか思っていないだろう。私もその程度の認識でしかない。
それがここの「普通」だから。
「お前は機械だ。それは変えられない事実でプログラムされた情報を参考にすれば理解不能なのは当然だろう。だが私の名を忘れたか?」
私が知り得るありとあらゆる知識と情報、それと一緒にその身に刻んだ創造主の全て。どんな人間で、どんな考えを持ち、どんな風生き方をして、どんな想いを込めてお前を創ったか……
本来なら入れなくても良かった情報だ。だが敢えて私はそれを組み込んだ。
〈―――【命吹き込む者】、ですね〉
私の使える魔法はただ一つ。【自らがつくったものに心を宿す】こと。但し有形に限ると括弧付けされるが。簡単に言えばロボットでも人形でも自我を持たすことが出来る魔法だ。
珍しいその魔法には細かい条件があったりするのだがそれは割愛するとして。何にせよ私はルドルフを創った時に心を持つようにと願った。それはつまりロボットという枠を超えて生きて欲しいということ。
「その通り。自分以外のものに触れ、考え、成長していけ」
今はまだ、湧き上がる感情についていけないこともあるだろうが、いずれプログラムされているもの以上の何かを得てくれることを願う。
〈はい。マスター〉
そんな想いに思うところがあったのか神妙に頷くルドルフを見て満足した私は、予定より長居していることに気付きついていた膝を伸ばして立ち上がった。
ピキッと膝が鳴り、伸ばしたそこからズキズキと痛む。
これは運動不足からか、それとも床が冷たかったからか? 多分両方だな。
「では私は帰る。ノエルにはお前から話してやれ。その方がきっとアイツも喜ぶ」
〈……はい〉
照れているような、困っているような絶妙な顔をするルドルフに本日何回目かの苦笑を漏らし、話している間ずっと放置をしていたトナカイ共に「邪魔したな」と小さく謝罪をして元来た通路を引き返した。
厩舎から一歩踏み出し立ち止まる。
見上げた空は相変わらず星が瞬き、溜息が出るほど美しい。
(たまには外出も悪くないな)
成り行きでやって来たが、思っていた以上に悪くなかった。かと言って積極的にでることはないだろうが、もし今後誘われることがあったら乗ってやっても良いかも知れない。
「帰るかぁ!」
☆ ― ☆ ― ☆ ― ☆
こうして12月10終わった。
クリスマス当日まであと15日―――
ここまで読んで下さってありがとうございました。
次話は現在猛スピードで執筆中なので、またお知らせしたいと思います。