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12月9日

もういっちょユール目線です。




 暗い森の中を歩く。

 人も動物も寝静まり、チラつく雪と満天の星しかない世界にたった一人で取り残されたような錯覚を覚える深夜二時半。

 私は徒歩で村へと向かっていた。


(遅くなったな……)


 我が家からクリスマス村へは一本道で、外灯がなくとも困りはしないが先が見えない所為で道のりが長く感じる。村の外れにある自宅からは徒歩で30分程の距離にあり、この時ばかりはもう少し近くに家があっても良かったのにと思わずにはいられない。


 水色のミトンを擦り合わせる。


 ブーツの中の靴下は厚手のものを履いてきたはずなのに冷たく、顔は半分まで長い黒のマフラーをしているのに寒さから守ってくれない。辛うじてお尻まですっぽり収まるブルゾンお陰でその部分だけは暖かい。

 しかし結局は寒い方が勝っていて、やっぱり帰ろうか……なんて考えが頭を過ぎる。そうは思っても丁度自宅と村の半分まで来てしまったので、どちらを選んでも同じ距離だけ歩かなければならない。それなら行った方が良いかと考え直す。


(外はもうこんなに寒くなってるんだな。ここしばらく家から出ていなかったから知らなかった)


 常時地下室に篭っている私は、滅多なことでは外に出ない。今は便利な世の中で、欲しいものはネット通販で大抵揃う。

 事実私が最後に家を出たのは先月の中頃。三週間ほど前まで遡る。

 まぁ自慢にもなりはしないが。


「こんな寒空の中わざわざ足を運んでやるんだ。ノエルにまた部屋の掃除でもしてもらうか」


 昼間ノエルと交わした約束を果たす為、こうして出向いてやってるんだ、それくらいは許されるだろう。

 思ったより遅くなってしまったのは研究に没頭してしまった所為だがそれはそれ、出向いてやったことに意味がある。つまり棚上げだ。

 ノエルは既に寝ているだろうが、ルドルフに眠りは必要ない。電力消費を抑えるのにエコモードになっているかもしれないが、常に意識は起きているはずだ。


「ようやくか。長かったな」


 つらつらとそんなことを考えていたら村の入口が見えて来た。まだ遠目で確定ではないが、村の中心にある噴水の周りだけは明るい光を放っている。流石に家の明かりがついている所はなさそうだ。

 

「さて、行くか」






★ ― ★ ― ★ ― ★






「いないな……どこほっつき歩いてるんだルドルフのヤツ」


 村に着いて真っ先にノエルの家へと行ったのに、家はもぬけの殻だった。ノエルは恐らく仕事部屋で寝てしまっているのだろうが、ルドルフの気配はない。

 外にいるのだろうと近くを探してみたもののメタリックシルバーを見つけることは出来なかった。散歩でもしてるのか?

 いい加減全身が冷えて来た。早く帰りたいという気持ちがむくむくと湧き上がる。

 立ち止まっていると凍り付いてしまいそうなのでポケットに手を突っ込みながら居住区通りを歩く。


「飾り付けが始まったら華やぐんだろうな」


 道に植えられたモミの木を見上げ呟く。

 今週末くらいから村人総出で飾り付けが各所で始まる筈だ。朝から晩まで手の空いた者から決められた箇所の飾り付けを始めて、10日後には様変わりしているに違いない。

 私も小さな頃はこの時期になるとノエルと一緒に飾り付けをしていた。でもいつからだろう? 行事への参加をしなくなったのは……

 プレゼント製作を始めてから?

 それとももっと前?

 正確なことは忘れてしまったが、もう長い間関わりを持たずにいる。ツリーの天辺にベツレヘムを飾る役目を奪い合っていたあの頃が懐かしい。


「ふっ、何を考えてるんだか……」


 ふと笑いが込み上げてくる。

 珍しく感傷的になっている自分に気付き頭を振る。それもこれも一向に見つからないルドルフの所為だ。

 こんな小さな村でトナカイ一頭見つけられないなんて馬鹿なことはない。とすればノエルの家ではなく別の家か建物にいるはず。工房は多分鍵が掛かっている。他に考えられるのは―――ひとつだけあった。鍵も必要とせず、誰にも見つからないところ。


 多分、あそこだ。

 私は踵を返し、ノエルの家へと掛け出した。






「やっぱりここか」


 思った通り、ルドルフはいた。ノエル家の厩舎だ。

 私には暗くて数歩先しか見えないが、奥の方でざわめく音がしたのを感じ足音を隠すことなく私は前に進む。


〈マスター!?〉

「何してるんだ、お前」

 

 突き当たりの檻の近くまで行ったところで振り返ったルドルフが声を上げた。

「探したぞ。まさかこんなトコにいるなんてな。何してたんだ?」

 風がない分、いくらか寒さも和らいだ気がする。私はポケットに突っ込んでいた手を出してペシンッとルドルフの頭を小突いた。

 驚いた様子の……と言っても見た目に変化はないが、声を僅かに上擦らせたルドルフは度惑いを含んだ声音で生真面目に答えた。

〈友好を図っておりました〉

「友好? そいつ等と?」

 檻の中にいる奴らを顎でしゃくると、その中の一頭が不機嫌そうに鼻を鳴らした。気が強そうな顔のそいつは多分ダッシャーだ。相変わらず偉そうだ。私も人のことは言えないが。

〈はい。同じトナカイとして、先輩としてご教授頂いていたのですよ〉


 何に? と聞くのは愚問だろうな。

 本当にどいつもこいつもアイツノエルに甘い。






☆ ― ☆ ― ☆ ― ☆






 

 こうして12月9日が終わった。


 クリスマス当日まであと16日――― 




ここまで読んで下さってありがとうございます。

次話はこの話の続きになります。12月10日が終わればまたノエル目線に戻ります。

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