プロローグ
プロローグは2014年11月24日の話です。
物語と(大体)同じ時刻に更新していきます。
ああああ……12月から毎日1話ずつ更新出来るか不安(笑)
世界中の子供たちがその日を心待ちにしている。
朝からずっと、そわそわ! わくわく!
おやすみの時間になったらベッドに大きな靴下をさげて、『良い子にしていればきっと来てくれるよ』とパパとママに優しいキスを落としてもらえばもう夢の中。
カーテンを閉めないのは、煙突がないお家の決まり。
だって中に入れないでしょう?
ここだよ。
ここにいるよ!
間違えないでお部屋にきてね? サンタさん!
★ ― ★ ― ★ ― ★
11月も残すところ一週間になったある日のこと。
午前10時。
いつものように眠い目を擦りながら2階の自室からリビングに下りると、一足先に朝食を取っていた父親が「お前に家督を譲る」と唐突に言い出した。
僕は「ああ、そう」と適当に返事をして、トースターにパンをセットすると父親の向かいの席に座り、焦点の合わない目で宙を見つめた。
―――低血圧の僕には朝が一番辛い。
チーンッ!
しばらくしてトースターから勢いよくパンが飛び出す。
暖炉の暖かさに半分夢心地の状態で左手を伸ばしてパンを取りバターを塗る。その上にスライスハムと目玉焼きを乗せて黄身の部分にマヨネーズをぽっちり落とす。
目を瞑ったままでもこの一連の作業は問題なく出来る自信がある。何故なら毎日同じメニューだからだ。
(……眠い)
起き抜けの頭が先程の会話を右から左へと流してきっかり5分後、パンを咀嚼すると共に脳もようやく父親の言葉の意味を咀嚼し始めた。
「……父さん」
「何だ?」
「何て?」
「何が?」
「さっきなんか言ってたでしょ」
「『お前に家督を譲る』」
「そう、それ!!」
「つーワケだから。今年からヨロシク!」
「いやいやいやいや! 『ヨロシク!』じゃないから!!」
「父さんは母さんと行きそびれてた新婚旅行に行くんだ。邪魔してくれるな息子よ」
「新婚旅行っていつの話!? 結婚して何年経ってると思ってるの。21年だよ、21年!」
脳筋な父親とは昔から馬が合わない。ついでに話も噛み合わない。
終始ご機嫌で豪快で、子供がそのまま大人になったような良く言えば天真爛漫、悪く言えば馬耳東風。人の話を聞いてくれない。実際は聞いてくれないというより聞こえていないが正解かもしれない。
今も自分で言った『新婚旅行』という言葉に照れているのか銅貨色の髪をバリバリ掻きながら灰色の瞳を細めている。
お願いだから僕の話を聞いて欲しい!
「ノエルちゃん、ママ……憧れだったの。大好きな人と南の島でハネムーン」
すると今までキッチンにいた母親が両手にトレイを持ってやって来た。
テーブルにコトリと湯気の立つコーヒーを置くと、さめざめとフリフリレースのエプロンで涙を拭う。
「母さん……」
卑怯だ。年を経ても少女のような可憐な容姿をしている母親に、僕も父親もすこぶる弱い。豪奢なハニーブロンドに海の青の瞳。折れそうに細い腰―――言い出せばキリがないが、とにかくムダに庇護欲を煽る母親に強くは言えない。
僕は納得はしていないものの抵抗するのを諦めた。
「はぁ~、もう分かったよ」
「ありがとうっ! ノエルちゃん♪」
ママとっても嬉しい! と抱き締められる。
僕も母さんが喜んでくれるなら嬉しいよ。と心の中だけで告げる。
「そうと決まればパパ!」
「おう。そうだな」
「早速準備しましょ」
母さんがウキウキと父さんの腕を引っ張って立ち上がらせる。大人と子どもくらいの身長差があるこの両親は結婚21年目というのに見ているこっちが恥ずかしくなるくらい仲が良い。
仲が良いのは喜ばしいことだが、場所も弁えずイチャイチャするのは頂けない。今だって喜びのあまり母さんが父さんに抱きかかえられてちゅっちゅしてる。
「パパ! クリスマスはオーストラリアで過ごしましょうね。真夏のクリスマスだなんて素敵だわ」
「そうか。良く分からんが母さんの好きにしたらいいぞ。俺は母さんと一緒ならどこでもいいからな!」
「きゃあ! パパったら恥ずかしい~」
ああ、クリスマスはオーストラリアね。
オーストラリアのクリスマスって言えばサーフボードに乗ったアロハシャツのサンタクロースが有名だよね。
ん?
クリスマスにオーストラリアだと……?
そこまで考えて両親の会話がおかしいことに気付く。
「ちょっと待って二人とも! それ一番やっちゃいけないことだ……ってあれ?」
がたんっ! と椅子を倒して立ち上がった僕の目の前には既に二人の姿はなかった。キョロキョロとリビングを見回していたら寝室から旅行鞄を持った二人が出て来た。
この一瞬の間に旅行の準備をして来たの?
一体どんなスピードで詰め込んだの?
「ノエルちゃん」
「え、な、何?」
「パパとママはこれからハネムーンに行って来るわね。年明けには帰って来るからそれまでお留守番よろしくね。何か困ったことがあればユールちゃんに相談するのよ?」
「しっかり務めを果たすんだぞー? じゃ、行って来るわ。土産楽しみにしてろよ」
「ちょっ、母さん! 父さん!?」
朗らかに笑いながら僕の制止も空しく両親は家を出て行った。
「嘘でしょ!? 家督って僕何も教えて貰ってないんだけどっ」
急いで玄関の扉を開けるも、時既に遅し。後姿さえ見えなかった。
吹きつける雪が服を、髪を白に染め上げていく。だけどそんな冷たさも今の僕には何も感じられなかった。
行って、しまった。
軽いノリで、行ってしまった。
僕に残されたのは言い様のない不安と食べ掛けの朝食と、主に父親に対しての激しい怒りだった。
沸々と込み上げる怒りに、僕は大きく息を吸い込んで叫んだ。
「馬鹿親父ッ!! どーすんだよっ! 現役のサンタクロースがクリスマスに旅行で不在なんて洒落になんないだろーーーーーッッ!!!」
☆ ― ☆ ― ☆ ― ☆
ノエル・クラウン。二十歳。
サンタクロースの家系に生まれ、その跡継ぎとして様々な教育を受けて育つ。しかし、彼にはサンタクロースとして致命的な欠点があった。
重度の【トナカイ嫌い】
果たして今年のクリスマスは無事子ども達にプレゼントが届けられるのだろうか……?
次の更新は12月1日
23時30分頃を予定しています。
ここまで読んでくださってありがとうございます♪