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トライ

今日は休みだ。鈍った体をほぐす為に今俺はジョギングしている。

思いきり動くのはいつ以来だろう。中学の時も全く運動しなかった訳ではない。

閉め出しを喰らっていた俺の代のサッカー部員は色々なことをしていた。

体操のマンガが流行ってそれを真似てバク転やバク宙なんかを競って修得したり、卓球にはまって1週間くらい卓球台を占領して卓球部を泣かせたり、相撲で誰が強いかを知るために陸上部の砂場を使ってトーナメントをしたりと、サッカー以外では色々とやっていた。傍迷惑な話だ。


(気持ちいいな。)

まだ少し肌寒いくらいだったけど走ってるうちに風が丁度いい感じになった。


家に帰ると皆いた。まあまだ朝8時だし当たり前か。


「おかえりなさい」

家のおかあだ。今確か38才、事務職らしい。

「珍しいね、友。」

おとうだ。36才。すっごい穏やかな人だけど何故か板前だ。へいらっしゃい、とかやってるのをイメージ出来ない。どっかの教授とか言われた方がしっくりくる。

「おかえり〜」

優だ。今日も爽やか笑顔で迎えてくれた。眩しいぜ...


俺も席について朝飯を食べる。


「そういやおとう、豪はうまくやってる?」

豪は同じサッカー部だった奴で高校には行かずに職についた一人だ。中卒での就職はやはり厳しいらしく豪も面接を受けては落ちてを繰り返した。その事をおとうにいったら板前をやる気があるなら雇ってもいい、という話しになって豪はおとうが働く料亭で見習いとして働く事になったんだ。4月頭から働いているからそろそろ2週間たつ。


「ああ、豪は頑張ってるよ。初めは下働きばかりだからつまらないものなんだがいつも笑顔で一生懸命やってる。皆を豪を気に入ったようだし大丈夫だろう。」

おとうはニコニコしながら教えてくれた。


「そっか、よかった」

休憩があるにしても朝から夜中まで仕事らしいから大変なのはわかる。身体を壊さなきゃいいけどな...


でも皆頑張ってるな。他の奴の情報も何とはなしに入ってきてる。俺も頑張ってみるか!




休み明けの月曜日。今日から本格的にクラブ募集が始まるようだ。


「あの、サッカー部の募集はここでいいですか?」

部室棟の前ではテーブルがずらっと並んでいた。俺はサッカー部の貼り紙を見つけて声をかけた。そこにはマネらしき女が二人いた。


「はい、見学です..か..?」

勢いよく顔をあげて返事をしてくれたが俺の顔を見ると一瞬言葉がとまり、最後は聞こえなかった。


「はい、入部希望で来たんですけと?」

何時ものことだと俺は気にせず言葉を返す。


「ご、ごめんなさい。ここにクラスと名前と出身校、あと経験の有無を書いてもらってもいいです?」

何についての謝罪かわからないが気にしないけど。

「はは、先輩ですよね?なぜ敬語なんです?」

焦ってる先輩が可愛いらしかったので笑ってしまったが言われた通りに書いた。


「そうよね、えっと伊沢くんね。じゃあ...」

やっと普通に話してくれた先輩の指示のもと集合場所に行って見ると10数人位の集団がいた。何かの紙を持って立ってる人は見たことがあった。見学した時にいたから先輩だろう。あとは多分1年だろう。


「あの、サッカー部の見学ここでいいですか?」

俺は近づきながら聞いてみた。

パッと皆が振り返る。一番近い奴が何かを言おうとしたみたいだったが俺を見ると息を飲んでコクコク頷きながら身をひいた。

俺が集団に接近した時には海が割れて道ができるあれみたいな感じにサササっと皆が離れて行った。


「見学希望者か?」

先輩らしき男が聞いてきた。彼はわりと筋肉質で俺から見てもでかかった。そのお陰かビビらないでくれて俺としては嬉しかった。


「はい、よろしくお願いします。」

上下関係はわりと大事だ。俺は丁寧に頭を下げておいた。


「そうか、まだ時間があるから待っていてくれ」

先輩はそう言って手に持った紙に目を落とした。何かを書き込んでもいた。

左右からの好奇の視線にどうしようか天を仰ぐ俺。


「友?やっぱり友だろ?」

そんな俺に声をかけてきた奴がいた。誰だ?と顔を下げる。


「え、と?」

見たことある顔な気がした。しかし思い出せない。誰だろうとじっと顔を見る。


「わからない?ほら、楠サッカークラブで一緒だった稲吉だよ。稲吉健太郎だよ!」

ずずいっと詰め寄ってくる稲吉。


楠サッカークラブ。それは俺が小学校の時に週2くらいで通っていたチームだ。

健太郎、健太、ケン!?


「おお、ケンか!?ひっさしぶり過ぎてわかんなかったぞ」

思い出した。稲吉健太郎って名前は初めて聞いたけど確かにケンだ。

ケンは他所の小学校から来ていたから本名は知らなかったし、中学も違うから全然気づかなかった。成長期で大分顔つきが変わってたしな。


「ひどいなぁ、俺は一発でわかったのに...それにしても噂の伊沢はやっぱり友だったんだね。小学校の時のイメージと違うからてっきり同姓同名の別人かと思ってたよ。」

人懐っこい笑顔を浮かべてじゃれついてくるケン。中身はあんま変わってないかもな。


「わるかったよ。すっかり男前になってたから昔の豆っ子とは結び付かなかったんだ。」

女みたいな顔だったのがすっかり大人びて美少年に変わっていたら気づかないだろう?


「豆っ子?!ひどいよ、そんな事思ってたの?」

拗ねたように口をすぼめるケン。高校生のやる事じゃないが言わないでおこう。


「伊沢くん、ちゃんと来たんだね」

「えらい、えらい。約束を守る男って好きよ!」

声に振り向くと例の3人組が歩いて来ていた。本当にマネージャーをやるのか?

それにしても鈴木と神谷はともかくもう一人も来るとは思わなかった。相変わらず避けられてるし。


「まあな、やってみようかと思ってさ。」


「そっか、よかった。」

俺の言葉に満足そうに頷く鈴木。


「ねえ、伊沢くん、隣の美少年は誰?紹介してよ」くねくねしながら神谷がいってくる。なんだこいつ。


「ああ、こいつはケン。渾名は豆っ子だ。仲良くな!」

俺は爽やかにそう言った。


「ひ、ひどいよ!もう豆っ子じゃないし!僕は稲吉健太郎。よろしく!」

俺に抗議したあと爽やかに自己紹介したケン。俺の爽やかさの100倍くらいの輝く笑顔だ。


「おっけ、ケンくんね。私は神谷陽子よ。こっちは鈴木香織。それとこっちが前川弘子。皆マネージャー志望よ。よろしくね!」

にこやかに紹介を終える神谷。つーか前川か、初めて知ったし...


「「おお−−−−!!」」

「やったぜ!皆可愛い!!」

「一時はどうなる事かと思ったけどサッカー部を選んでよかった。捨てる神あれば拾う神もある、その通りだったか!」


俺たちの会話に耳を澄ましていたのは感じでいたが勝手に盛り上がんなよ。

つーか最後のやつ!捨てる神どうこうってのは俺の事か?!酷すぎるだろ!せめて心で叫べよ。


その日は結局見学だけだったが皆すぐに入部届けを出していた。鈴木たちのお陰で俺の存在感は薄れてくれたみたいだった。


あと、うちのサッカー部はわりと強い事がわかった。一昨年も去年も全国には行ってないけど県大会で準決勝まで進んだりもしたらしい。

練習も厳しいみたいだ。進学校だからか練習のキツさからリタイアした人も結構いたみたいだ。

結果的には少数精鋭となってしまって先輩たちは16人しかいなかった。

楽しむだけでいいと言う人達は部をやめて同好会を創ってたまに活動しているらしい。

部でも無理に引き留めないし、逆に紹介する事もあったらしい。

まあ何にせよやってやろうじゃないか。


「でも中学の大会では一度も見なかったね、サッカー部入らなかったの?」

ファーストフードを食べながらケンが聞いてきた。


「ああ、サッカー部にはいたよ。でも俺南中だから...」


「ああ、あの事件か....大丈夫だったの?」

心配そうに聞いてくるケン。

他所にあの騒動がどう伝わっているかはしらないけど地方新聞にのったくらいだから皆知ってるだろう。先輩たちも俺たちも対外試合禁止になったから南中だからといえば通じてしまう。何度も言うけど俺は一人も殴ったりしてないんだけどね。


「ああ、殴られたけどやり返さなかったよ。謹慎はくらったけど...」


「そう...でもそれでうちに受かったなんてある意味奇跡だね。僕はその奇跡に感謝するよ。また一緒に出来るんだから」

歯の浮くようなセリフをさらりと言ってしまうケン。

(こいつ、優と同類か)

俺はげんなりしそうになるのを堪えて、ありがとうと笑って返した。

その気持ちは嬉しかったしな。俺にも同じ気持ちはあるしな。

その後中学時代の話なんかをしながらスパイクやレガース何かをケンと一緒に買った。久しぶりのスポーツショップに心が踊ってしまった。新しいスパイクのにおいが昔を思い出させる。胸に痛みが走ったけどそれでも嬉しさのが上だったみたいだ。


何にせよ、やっと高校生活が楽しくなってきた気がする。

友達100人できるかな〜

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