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女友達

今日も今日とて一人で登校する残念な俺。

周りのも相変わらず楽しそうだ。羨ましい..


下駄箱に着くと相川を見つけた。


「おっす、相川!」

唯一の友人を前に笑顔になる俺。仕方ないよね。一人は寂しいし...


「おはよう、伊沢くん」

笑顔で返してくれる相川。俺の身長は179、対する相川は170無いくらいだろう。自然と見下ろす形になる。


「相川、部活は何にするんだ?」

昨日の優との会話を思い出して話をふった。


「え?まだ決めてないんだけど」


「そうなん?中学の時は?」


「中学の時はこれでもバスケットやってたんだ。でも背が低いし、運動もそんなにできないからずっと補欠だったよ」

自嘲するようにわらいながら相川がいった。地雷を踏んでしまったかもしれない...


「伊沢くんは決めてるの?」

無言になってしまった俺を気遣うように明るい声で相川が聞いてきた。


「ああ。一応サッカー部にでも入ろうかと思ってるよ」

俺は気まずさを誤魔化すように笑ってそう告げた。


「そうなんだ、中学の時も?」

俺の体つきを羨ましそうに見てくる相川。


「ああ、まあ小学校の時な。中学の時はあれだったから....」

俺がそう言うと相川は、ああ、と素直に納得してしまった。悔しいけど相川が想像した通りだろう。


「苦労したんだね...まあ今も継続中だけど...」

と憐れみの視線を返してくれる相川。


「あはは.は...は.」

渇いた笑いで俺は誤魔化すしかなかった...


昼休みはいつも相川と購買のパンを食べていたが、今日は相川が用事があるらしくてひとりぼっちになってしまった。クラスメイトは勿論見てみぬふりだ。

俺は気まずさを感じるて居たたまれないので教室を出る事にした。行く先は決まっている。こういう時は屋上に限る。まだ寒いので人は少ないだろう。


屋上に出てみると案の定人は殆どいなかった。俺は人の居ないところに座りパンを食べ始める。教室より断然居心地がいいし。


「伊沢くん?」

ん?声をかけられた気がするけど気のせいだろう。寂しさからの妄想かもしれない。

やれやれと自分の考えのアホさに首をふる。


「伊沢くんだよね?」

また聞こえる。本物か?そう思って顔をあげると、一年だとわかる黄色のリボンが着いた制服の3人組がいた。


「ああっと...鈴木?だっけ?」

一人だけ見覚えのある顔があった。小中と同じだったたしか鈴木香織だったはず。小学校の時何度か同じクラスになったし、あの時はまだ避けられていなかったので話したこともある。中学では一度も話した覚えはないけどね。


「何ですぐに返事してくれないのよ!恥ずかしかったじゃい。」

いきなり抗議された。しかし訂正はなかったので鈴木であっていたみたいだ。


「ああ、わるいな。学校で話しかけてくる奴は今のところ一人だけだったから空耳だと思ったんだわ。それより鈴木も桜崎だったのな」

少し自嘲気味になってしまった。何て寂しい奴だと頭のなかで彼女たちは思っているのかもしれない。


「はあ、あの噂のせいね。大変ね」

思わぬ同情に涙が出そうになる。

「ねえ、香織。この人だれ?知り合い?」

ショートカットの女が鈴木に詰め寄る。もう一人は俺の噂を知っているのか若干距離を取っている。


「ん?ああ、伊沢くんよ。同じ中学だったの。まあ仲良しって訳じゃないけど知り合いってとこかしら」

少し違和感を覚えた。俺の知っている鈴木はどちらかというと大人しい感じだった。こんな話し方はしてなかったはずだ。


まあ俺も人の事はいえないか...中学でのこいつは知らないし人は変わるもんだしな。


「へえ、伊沢ってあの伊沢?」

ショートカットの女も噂を知っていたようだ。


「そうよ、あの伊沢よ」

何でもないことのように鈴木がいう。あのじゃねえよ、あのじゃ!!


「へえ、確かに目つきは悪いわね。でも結構かっこよくない?頭も良いみたいだし。私は神谷陽子。よろしくね」

俺の顔をマジマジと見てくる神谷。かっこいいだと?そんな事言われたことないぞ!舞い上がってもいいのか?!そんな俺をジト目で鈴木が見ているのを見て一気に頭が冷めた。


「あ、ああ、よろしく?神谷」

俺は取り繕うようにそう言った。


「じゃあ、アド交換ね」

そう言って神谷は強引に俺の携帯を取り上げて勝手に登録してしまった。

そして去っていった。嵐のような女だった...

最終的にはイタ電とかされそうで怖い。それだけだった...



放課後、ホームルームが終わってすぐに事件が起きた。

ピシャーンと勢いよく扉かあいて、3人の男が入ってきた。

(なぜ長欄。そしてなぜドカン?)

時代錯誤したその残念な3人組は教壇にたった。皆わけわからないという感じで見ていた。


「女子はそのまま帰っていいぞ。男子は着いてこい。これは強制だ。」

そう言って竹刀をパシーンと教壇に打ち付けた。


(はあ、何だよ、これ)

めんどくさい、それが俺の感想だ。しかし中学の時みたいにはなりたくない。大人しくついていくか.....


トボトボとついていったさきは音楽室だった。

(なぜ音楽室....)

はあ、とため息をついて入って行くとカーテンが閉められていてかなり暗かった。

俺たちは床に座らされた。3クラス分くらいの男が集められているようだ。

集め終わったのか扉が閉められて真っ暗になった。ザワザワとしはじめる男ども。

パシーンっとまた竹刀の音がした。それによりシーンと静まりかえった。


(ほんとに何なんだ?怪しい宗教か?)

俺がそんな事を考えてるとパッと電気がついた。

そして壇上のあるものからいきなり人が飛び出てきた。


「よくきたな、一年ども!俺たちは桜崎高校応援団だ!今からお前たちにわが応援団の素晴らしさを教えてやろう!!」

飛び出てきた変人はダミ声でそう叫んだ。またも長欄にドカン。そして鉢巻き.....

ちなみにどこから出てきたかと言うと掃除箱だった......笑ったほうがいいのだろうか?シュール過ぎる。

「ぷぷっ」

しまった!ちょっとツボにはまりかけた。必死に笑いをこらえた。


「おらぁ、拍手せんか!拍手!」

ダミ声がまた叫んだ。それにより一応拍手が起こる。

その後は応援団による演舞が披露された。

皆ポカンと見ていた。


「どうだ?素晴らしいだろ?」

演舞が終わってダミ声が満足しながらいった。

しかし誰も反応しなかった.......


その後勧誘であることがわかった。出口の前は応援団員で固められて出れない。多分必要人員を獲られるまで帰さないつもりだろう。

勿論俺の所にも勧誘はきた。しかし、

「いやです」一人目

「無理です」二人目

「訴えますよ」三人目

「.....」四人目

全てを振り払い最後は寝たふりをしておいた。


どうやら生け贄は決まったらしく30分程で漸く開放された。


音楽室を出て下駄箱にくるまでで限界だった。

「....ぷっ、ぷはははははっ、なんだよあれ?!掃除箱とか滅茶苦茶面白いんだけど。ぷぷっ、ぷはっ、はひっ、腹いてえよ、もうだめ、ぷぷっ」

俺の周りには一緒に音楽室から来た奴が大勢いた。

「はははっ、確かに!思い出すと笑えるな。ぷくくっ」

俺に釣られたのか次々と笑い始める男ども。


通りすがりの人たちに変な目で見られたが気にしない。というか抑えられなかった。

一頻り笑って御機嫌で帰宅した。皆と笑いあって仲良くなれた気さえした。


しかし甘かった。次の日もやはり避けられたままだった.....




俺はグランドに来ていた。サッカー部の見学のためだ。

先ずは見ておきたかった。ある心配が俺を迷わせていたからだ。

練習している人達を一人づつ見ていく。


(よかった。居ないようだな)

俺が探しているのは同中のサッカー部の先輩がいないかだ。あの騒動以来正直仲は良くない。おれ自身はとくに思うところはないが逆恨みされている節があった。俺は一人も殴ったりしてないんだけどね....


「伊沢くん、サッカー部に入るの?」

不意に後ろから声をかけられた。


「鈴木か...まあ入ろうかと思ってるけどな...」

俺が入る事で迷惑をかけないか心配ではある。


「神谷もいるよ!サッカーやってたの?」

自己主張するようにはいはーいと手をあげる神谷。別に無視したわけじゃないが...


「ああ、小学校の時にな」俺は正直に答えた。中学の時には部には入っていたけどやっていたとはとても言えないし。


「ふーん、どうだったの?香織。」

神谷は何を聞いてるんだ?鈴木が知るわけないだろうに。


「ん?小学校の時はうまかったわよ。サッカー部のなかだったら断トツだったかもね」

空を見上げ何かを思い出すようにしながらそんな事を鈴木はいった。


「は?適当に言うなよ。後で俺が恥かくだけじゃねぇか」


「適当じゃないわよ!6年の時に学年皆で観戦しにいったもん!行事で仕方なく見てたけどあの時伊沢くん2試合で4点も取ってたじゃない」

怒ったように目を吊り上げて鈴木は熱弁してくれた。

そんな事もあったかもしれない。その時は確か優は4年だから出れなかった。6年皆が見に来るからってレギュラー皆6年にして試合をしたんだっけか。

確かに思い出すと4点とった気がするわ。


「ああ、何となく思い出したかも。確かに4点とったかもな。よくそんなの覚えてたな?俺自身忘れてたのに」

あの頃俺はがむしゃらだった。弟の驚異に怯えて必死だったんだ。まだ絶望する前だった。


「私サッカーの試合みたの初めてだったもの。しかも2試合ともうちの小学校が圧勝したから柄にもなく興奮したのを覚えてるわ」

そう言って鈴木は笑った。


「そうか....」

俺は鈴木とは反対に自分の不甲斐なさを思い出してへこみそうだったから誤魔化すようにグランドを見た。


「ねえ、伊沢くんがサッカー部入るなら私たちマネージャーしようよ!」

神谷がはしゃぎながら鈴木に詰め寄った。


「良いわね、楽しそう。」

俺の予想に反して鈴木はそう言った。


「まだ決まったわけじゃないんだけど?ブランクもあるし...」

ほんとは嬉しかったのに俺はそんな事を言ってしまう。


「いいじゃない!一緒に頑張ろうよ」

神谷はもう決まりね、とまたはしゃぎ出した。


「決まりね。じゃあ待ってるわ」

鈴木もそんな事をいい始めてしまった。


「はあ、まあ気が向いたらな」

俺はカッコつけてそう言いながら二人から離れて行った。


心の中では決まってしまっていたけどね...

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