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結果と結果

相川と話すようになってから数日、ぽつぼつとだけど、話す機会があった奴が数人いた。

彼らもやはり噂を信じているようで要件だけを伝えて俺が返事をかえすとそそくさと離れて行った。

噂の発端を自分でも理解してる為、ある意味自業自得だと諦めていた。


同中の奴等の噂は俺がどれだけ危ない奴か、という簡単な話だ。


俺の友人に古川という奴がいる。古川は小学校の頃から仲が良かった。家も割りと近所だったし、同じサッカー部だったので登下校はいつも一緒だった。

始まりは中2の時だった。古川は成長期に一気に体がでかくなって182センチの90キロという巨漢になった。

その頃、俺の所属するサッカー部では俺の代が生意気だという理由で上の代から睨まれていた。

そしてある日とうとう先輩からの粛正にあうことになった。

面倒だったので抵抗もせずに皆黙ってやられていたのだが、調子に乗った先輩が無理をして一人の腕を折ってしまったのだ。そいつは苦しむ姿に古川が最初にキレた。

その後、他の奴も我慢出来なくなり突撃。古川は一人で10人近くを鎮めていた。その勢いにのって先輩を皆でのしてしまったのだ。ちなみに俺はそれを呆然と見ていた。


その後、骨折や顔の傷の原因を問い詰められて学校にバレて大騒動となってしまった。


それから古川は学校中で恐れられた。3年生の何人かが古川に挑んだが皆返り討ちにあった。実質古川は中学ナンバー1になってしまったのだ。


そして、噂の発端になる事件が起きる。それは体育での柔道の時間だった。俺の身長は176センチとそんなにでかい訳ではなかったが、古川の次にクラスではでかかった。そのせいで組手の相手は古川になった。

昔から仲良かったためお互い遠慮がなかった。というか完全に押されていた。

しかし、残念な奇跡が起きてしまう。古川の足がもつれて俺のほうに倒れてきた。巨漢に潰されると思った俺は体をひねって避けようとした。しかしそれがうまいこと投げ技のようになってしまって古川が頭から地面に倒れて気を失ってしまったのだ。


結果....


「やべえ、伊沢があの古川を破ったらしい」とか


「とうとうナンバー1が入れ替わったぞ」とか


勝手に解釈されて俺は一度も喧嘩の経験がないのに中学ナンバー1の称号を受け継いでしまったのだ。


その噂はあっという間に学校中に知れ渡り、一躍残念な時の人となった。

それからはもう最悪だった。特に絡みのない奴等は俺を見ると遠ざかり、仲の悪かった不良グループの奴に無意味に睨まれたりと勝手なイメージがどんどん浸透していき冤罪という誤解を受けたまま卒業した。


だから同中の奴等は俺が同じ高校にいる事に不安を覚えて触れ回っているのかも知れない。だから自業自得と思うしかなかった。


さらに次の日、俺が教室に入ると、何故か教室が静まりかえった。しかも皆俺を見ている。

(なんだ?なんかしたかよ、俺!?)

いつもなら俺が入っても避けるだけで静かになるわけじゃない。なのに今日はこんな状態だ。知らない所でまた何かあったのかと思って冷や汗をかきながら席に向かうと相川と目があった。相川も驚いたように俺を見ていた。いよいよ不味いかもしれない。


「よ、よお、相川。おはよう」

辛うじて挨拶の言葉を発して席につく。


「う、うん。おはよう」

よかった。わりと普通に返してくれた。


「なあ、何かあったのか?なんか変なんだけど?」

尚も静まりかえった教室に俺の声だけが響く。その事に恐怖さえ感じた。


「あ、うん。もしかして見てないの?」


「何を?」

何かあったか?と相川に聞く。


「はあ、知らないんだ。今日テストの結果が貼り出れたんだけどほんとに見てないの?」

と、若干呆れたように相川が聞いてくる。


「ああ、そういやそんな事いってたな。まああんま興味ないし、見る気もないけど?」

正直全然興味なかった。


「はあ、まったく伊沢くんは。興味ないところ悪いけど伊沢くん実力テスト総合2位だよ。しかも英語と数学は100点で科目別だと1位。他の3科目も上位にランクしてたし。それで皆伊沢くんを見てるんじゃないかな?」

相川によると総合は30位まで、科目別は上位の10人が貼り出されるらしい。


「まじか?!わりと出来てたけどそんなに良かったとは思わなかったな。」

あはは、と頭を掻きながら笑う。そんな俺を相川はジト目で見てくる。うん、もうすっかり仲良しさ!じゃなくて、


「ていうか、俺、前からわりとテストの結果は良かったんだわ。学力的にはもっと上の学校いけたらしいけど、先生にも不良だと思われてたからテストの結果より成績の評価がかなり低くて、ここ受けるのがギリギリになっちまったんだわ、あはは....」

残念ながら本当の話だ。どうにも偏見を覆す事ができなかった。目が悪くて黒板を少し睨むように見ていたせいで先生に怒られた事もあった。視力が悪いからだと言っても口答えするな!と怒鳴りかえされたりもした。つくづくついてない。


「はぁ、もういいよ。相変わらず期待を裏切ってくれ過ぎて逆に笑えないけど仕方ないね。でも今度勉強教えてよね」

相川は責めるような目で俺を見たあと笑ってそう言った。


「ああ、いいぞ。わかる範囲ならな」

俺は快諾して笑った。


その様子を見て周りがざわついた。


「やっぱり本当なんだ」とか

「嘘だろ?!何であんな奴に負けたんだ?」とか

「普通の不良じゃないのかな?でもやっぱり恐いよね?」

とか、話しているのが聞こえる。始めのはまあいい。しかし次のは何だ?こう見えても全然勉強してない訳じゃない。授業は真剣に受けてきたし、復習だってしたりしてきた。俺の努力を知らないだろうが?!あと最後のは何だ?普通じゃない不良何て初めて聞いたぞ。回りくどすぎて余計に怪しい不良と化してないか?

等々思う事はあったが黙っておいた。反論しても良いことはきっとないだろうから。


ちらっと周りを見るがやっぱり目が合うと反らされる。俺が視線を戻すとまた視線を向けてきている。何なんだ?!どうしたいんだ?!


その日はずっとそんな感じだった。


無視されても注目されてもストレスがたまる。


「間はないのかよ−−−−−−−−−−!!!」

帰り道の橋の上から思わず叫ぶ俺だった....




「友兄、学校はどう?」

夕食を食べていると弟のゆうじゃなくてすぐるだがそんな事を聞いてきた。


「ああ、何か中学ん時とかわらんかも。つーか寧ろ友達が一人の時点で中学よりひどいかも.....」

自分で言っておいてへこんでしまった。


「ははは、大変だね。でも僕はちゃんと友兄が本当は優しい事知ってるから。元気出してよ」

爽やかな笑顔でそんなクサイセリフを吐く優。さすがだ。


「ああ、ありがとうな」

そんな優を俺が疎ましく思っていた事があるなんてこいつは知らないだろう。勿論今はそんな事は思っていないけど。


「部活はどうするの?やっぱりサッカー部?」

無邪気に笑いながら聞いてくる優。


「うーん、多分そうだな。入るとしたらサッカー部かな」

運動部には所属するつもりでいる。


「そっか、中学は色々あって一緒に出来なかったから僕も桜崎に行こうかな!そうすれば一緒にできるよね?」

本気で言ってるのか?こいつの成績ならもっと上にいけるだろう。もしかしたらスポーツ推薦だってあり得るくらいだ。


「はは、まあまだわからんよ」

俺は適当に誤魔化す事にした。


「え〜、でも入ったら教えてよね!」


「はいはい、わかったよ」

しつこくなりそうなので了承しておいた。


優は昔からずば抜けて運動神経がよかった。俺がサッカーを始めたのは小3の時だったが、俺にくっついてよく一緒に遊んでいた。その頃はさすがに俺の方が全然上だった。

しかし、俺が小6、優が小4の時には完全に追いつかれていた。むしろ追い抜かれていたのかも知れない。

俺の運動神経は上の中あたりだっただろう。サッカーも同じサッカー部の中ではうまいほうだったし少なからずプライドがあった。

その俺のプライドをズタズタにしたのは他ならぬ優だった。

優はサッカー部と共に陸上部にもスカウトされて異例の掛け持ちをするほどずば抜けていた。

サッカー部では2つ上の俺たちに混ざっても遜色ないどころかエースストライカーだったし、陸上部では短距離と走り幅跳びで県大会にまで行ってしまったくらいだ。

子供ながらにプロになるのはこういう奴なんだろうな、何て弟を見ながら思ったのを覚えている。


俺がフェイントを入れないと抜けなかった相手を優は脚力まかせのスピードだけで簡単に抜き去ったのを見た時、俺はすべてのプライドを失ったんだ。

それ以来スポーツをして仲間に誉められたりしても嬉しくなくなった。なんせ俺は2つ下の弟にすら勝てないのだから......


幸い、と言っていいのかわからないが中学でのサッカー生活はひどかった。

先輩がウザくて皆反抗的だったのもあったし、皆で朝練をボイコット、放課後は着替えもしないでバカな事で盛り上がって終わり、というような感じだった。ボールにさわる日のほうが少なかっただろう。

先輩がいなくなってもそれは続いた。優たちの代は小学校の時の成績もよかったため顧問も優先的に練習させるようにしていた。たまに俺たちが行くと露骨に顔をしかめたりするから結局皆顔をだすことすらしなくなった。


結果、卒業写真にはサッカー部の集合写真は載らなかった。撮影当日俺しかいかなかったからだ。

俺も皆が来ないことを知っていたので顧問に来ないですよ、と伝えに行っただけになった。


実の所集合写真は撮ったんだ。でもそれは自分達で勝手に撮ってアルバムの最後のページに皆貼り付けているだけだけど。

学ランでヤンキー座りとか肩車してたりとかふざけた写真だけど他の部の写真とは違って皆すごい笑顔で写っている。ある意味いい思い出だ。


話がそれたけどそんな感じだったから中学では優と一緒にプレイすることはなかった。本心でいえば比較されずにすんでよかったのかもしれない。


そんなこんなで俺はサッカー部に入ろうか迷っている。思いきりやってみたい気持ちもある。本当は中学でもやりたかったし。

取り敢えず行くだけ行ってみようかなと思う俺だった。

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