入学
桜の花びらが舞散る中俺は一人歩いていた。
今日は花崎高校の入学式だ。
毎年この時期には既に桜の花は落ちてしまっている事の方が多いかも知れない。
(今年は良いことあるかもな)
いや、ないか...何て思いながら桜並木の中を歩く。
一人というのは寂しいが仕方なかった。
別に引っ越して来たとか特別な理由はない。同じ中学からきた人はいるだろうけど、その中に友人と呼べる奴がいないだけの事だった。
桜崎高校は公立でここいらの高校の中では学力的には上の下あたりだろう。
俺は中学の時サッカー部に所属していた。小学校から続けていたから何となく入っただけだったが、チームメイトがなかなか凄かった。
入学そうそう茶髪にピアスや深緑のロンゲ、金髪の坊主頭なんてのもいた。
俺の居た小学校は割りと田舎でそんな感じの奴はいなかったのだが、隣の小学校から来た奴の中にそいつらはいたんだ。
隣の小学校の地区は俺の住んでる市内では一番栄えていてデートスポットなんかになるくらいで俺の住んでる地区と比べるとお洒落な人が多い。
サッカー部には同じ小学校の奴も入ったけどすぐに茶髪たちに感化されてしまい似たような感じに変わっていった。
結果、俺のまわりは所謂不良君たちばかりになってしまったのだ。
そいつらとつるんでいたのと、視力が悪くなってしまい目を細める癖がついてしまったせいで目つきが悪いと誤解された事によって普通の友人はできなかった。
成績は割りとよかったのに印象は悪かったようだ。
サッカー部の友人たちの成績は200人中180位からを毎回独占、という感じだった。結局皆受ければ受かる高校に入るか職につくという感じに納まった。
お陰で今一人寂しく登校中というわけだ。
「はあ」
自然とため息がもれる。学校に近づくにつれて人が多くなるが皆友人と楽しそうに会話しながら歩いていた。
憂鬱な顔をしているのは俺だけかもしれない。
校内に着くと人だかりを発見した。多分クラス分けだろうと近づいていく。案の定クラス分けの紙が貼り出されていた。
(えーと、伊沢はどこだ?)
俺は自分名前を探す。
(あった、1ー3か.....2番てのは珍しいかもな)
名前はすぐに見つかった。五十音順なので最初の方だけ見ていけば伊沢友の名前はすぐにいつも見つかる。でも今までいつも出席番号1番ばかりだったので2番というのが少し嬉しかった。
人だかりから離れて教室に向かった。ドキドキしながら教室に入る。ちらほらと人が座っているが皆集団か少なくとも二人で話していた。
席は窓側の前から二番目だ。取り敢えず無事に間に合った事にほっとした。
隣の席は女子の列で、既に座っていた1番と2番らしき二人が話していた。
何となく一人でいるのに気まずさを感じるがどうしようもない。前も後ろもまだいない。もしかしたら来ているのかもしれないけど席にはいない。
何とはなしに窓の外を眺める事にした。
(真ん中の席だったらアウトだったかも...)
と自分の協調性のなさに呆れながらもホッとしていた。
カチャっという音が聞こえてきた。何かを落としたのだろうかと思って振り返ろうとしたところで右足に何かが当たる。
(なんだ?)
と思って見てみるとシャーペンが落ちていた。多分隣から転がってきたのだろうと拾って隣を見ながら渡そうと手を差し出したところで隣の席の女と目があった。
しかし、隣の女はビクッと震えて受け取ろうとしていた手をとめた。
(またか...)
そう思って女を無視して勝手に手の上にシャーペンを置いて何もなかったようにまた窓の外を眺めた。
俺の外見は整っているほうらしいけど、やはり目つきが悪くていつも怖がられる。
髪は耳に少しかかるくらいで長めだけどロンゲではない。勿論黒髪だ。
昔、悪のりした友人に無理矢理色抜きを強要されて金髪になった事があったのだが、校内どころか街中でまで人に避けられてしまうほど、ある意味似合ってしまった。
前からくる人が皆一様に目をそらし道を譲るという光景に心のダメージをおって即日黒く染めなおすという事になって以来トラウマとなって色は変えない事にした。
よって彼女の反応は仕方ないのだ、と自分を納得させようとしたが、
「あの、ごめんね。ありがとう」
と、いう声に思わず振り向いてしまった。彼女は緊張しながらも笑顔で俺を見ていた。
「いや、気にしないでいいよ。いつもの事だしな」
俺は少し嬉しかったけどそれを面に出さないように素っ気なく答えてしまう。
「そう、でもありがとう」
彼女がどう受け取ったのかはわからないけど、これ以上会話はないだろうと思って手だけで答えてまた外を眺めるのを再開した。
実のところ中学時代はサッカー部の仲間の友人のギャル系の女くらいしか交流がなかったから普通の子とどういう感じで話せばいいのかわからない。
緊張するとかではないけど何となく気後れするんだ。避けられるとまたダメージを負いそうなんだよ。まあヘタレっていう奴かもしれない。
暫く独りで窓を眺める。勿論話しかけてくるような奴もいなかった。
そのまま時間が過ぎて担任らしき女の先生がきて皆で体育館に向かう。いよいよ入学式だ。
まあ入学式には特筆するようなことはなかった。校長の話しは長く、来賓の人なんてまるで誰だかわからない、生徒会長はありきたりな祝辞を述べるだけ、などぼおっと眺めているだけで終わった。
その後はまた教室でガイダンスやら自己紹介やらがあって終わりだった。
特に親が来てるでもない俺は写真を撮ったりしてる奴何かを眺めながら、新たな傷心にへこんでいるのを隠し歩いた。
何の傷かって?勿論自己紹介だよ.....
「じゃあ次ね、伊沢友君よろしく」
1番の奴の自己紹介が終わって拍手がやみ、担任の山口先生(32らしい)が促す。
俺は立ち上がりながら窓に背を向けて皆を見る。見渡した限りで目があった奴はみんな目をそらした。グサグサと突き刺さる胸の痛みを隠し、
「えと、伊沢友です。趣味は...読書?かな。よろしくお願いします」
簡単に自己紹介を済ませる。出来る限りの爽やかにいったつもりだ。しかし、誰も目をあわせてくれない。質問なんて勿論ない....どうしようかと山口先生を見る。
「え〜と、はい、皆拍手!よろしくね」
静まりかえった空気を何とかしようと山口先生が拍手を煽る。額に汗をかいているが、先生としても予定外なのだろうか。皆拍手をしてくれたが、結局誰もこちらをちゃんと見てくれる事はなかったのだった...
俺はいそいそと学校を後にした。今日はふて寝をしようと心に決めた。
家に帰るがまだ誰もいなかった。家族構成は父と母、2つ下の弟だ。両親は共働きだが、母親はだいたい18時には帰ってくるため特に問題はない。弟も今日は中学の入学式があるので今頃片付けでも手伝っているのだろう。
俺と違って順風満帆な中学生活をしているみたいで友達も多い上にモテるみたいだ。
悔しくなんかないぞ!ほんとだ!.......くそっ、やっぱりふて寝だ、こんちくしょう!
俺の入学式を含めた一日はそんな感じで終わった.....
それから2日間、実力テストがあるだけだったが、結局友達はできなかった....
「ねえ、伊沢くん。」
テストが終わった次の日の朝、前の席に座る相川という奴が何故か声をかけてきた。
「ん?なに?」
いきなりだったのでちょっと焦ったが普通に返せたはずだ。
「あ、あのさ...伊沢くんて、チーマーとか暴走族の人ってほんと?」
恐る恐るという感じで相川がそんな事を聞いてきた。
「は?なんだそれ?」
意味がわからなかった俺は呆然としてしまう。
「ご、ごめん。でも伊沢くんと同じ中学だった人がそんな事言ってたって噂を聞いたんだ。」
俺の様子を見て少しビクッとしたけど相川はそう説明してくれた。
「ああ、そう言うことか。それは根も葉もな...くはないかもしれないけど嘘だ。不良って言われるような事をした覚えは殆どないな」
俺は信じてくれるかはわからなかったけどそう言った。勿論、本当の事だ。
「そっか、やっぱり。もしかしたら違うんじゃないかと思ってたんだ。」
信じられない事に相川はそう言った。信じてくれたのか?なんで?
「なんでそう思ったんだ?」
気になったので聞いてみた。
「あ、うん。ほら答案用紙って最後に前に送るでしょ?それで僕のところに来るとき一番上のは伊沢くんのだから見えちゃうんだ。それで何となく見たら僕が全然わからなかった問題を伊沢くんはとけてたんだ。それから他の教科のも気になって見ちゃったんだけど全部の教科で多分僕よりずっと点数がいいのがわかった。後、字が凄く綺麗だったし。それでなんとなく噂とちがうんじゃないかって思ってさ」
説明しながら興奮したのか途中から勢いにのって一気に説明してくれた。
「はは、そうか。まあ噂は嘘だ。でもそう言う知り合いがいるのは事実だから誤解されてもしょうがないけどな。」
相川の様子が面白くて笑ってしまったがそう答えておいた。
「やっぱり、よかった。それで自己紹介の時の読書が趣味ってほんと?」
俺が笑ったのにほっとしたのか緊張をといて話しかけてくる相川。自慢にはならないが俺は笑うと可愛いらしく、よくからかわれていた。それが役に立つとは思ってもみなかった。
「ああ、笑わないでくれよ?子供っぽいけどファンタジー系の小説をよく読むんだ。あと、推理系も少し読むかな」
俺がそう言うと、相川が更に乗ってきた。お互い好きな本をあげると知っている者がかなりあって驚いた。
その日から相川とは仲良くなって話すようになった。周りの奴はそれを好奇の目で見てきたが、目を向けられただけマシになったのかもしれないと自分を納得させた。
何にせよ友達が無事にできてよかった。入学から早4日、やっとぐっすりと眠る事ができたのだった。