09
「よ、よう、戻っているとは思わなくて平良の家にいったらここにいるって教えてもらえたから来たんだ」
「おはようございます、昨日はどうでした?」
「最初はあれだったけど……後半はよかったと思う、また集まる約束をした」
「そうですか、それならよかったです。アヤラ見ますか――って、来てくれましたね」
エアコンとか使用していないから開けっ放しにしていたことが影響した。
ただ逃げ出してしまう可能性とかもあるんだからちゃんとしておけよと言いたい件でもある、これからは気を付けよう。
「おおっ、アヤラ久しぶりだなあ!」
「滅茶苦茶嬉しそうですね」
「そりゃそうだろ、これは光とはまた別のことだ」
「名前で呼び始めたんですね」
「おう、これは珍しく俺の方から動けたんだ、固まっていたけどその後は笑っていたから大丈夫だと思いたいな」
同じにすんなよと言われるかもしれないがやっぱり俺と先輩は似ている。
当日を迎えてみればなんてことはないんだ、寧ろそれを迎えるまでが気になってしまうだけでな。
「あー昨日は邪魔をして悪かったな」
「いいんですよ」
「平良は怒っていなかったか?」
「はい、全く怒っていませんでしたよ」
「それならいいんだけど……今度会うときが怖いな」
どうせそのときがくれば挨拶をして緩く会話をして盛り上がるだけだから不安視する必要もない。
「ふぁ……あ、いないと思ったらこんなところにいたんだ」
起こそうとしても駄目だったから一人で一階にいたがやっと起きてきたらしい。
別に夜更かしをさせたわけでもないのに凄く眠たそうにしていることが不思議だ、平日なんかは学校のためにもっと早く起きているのもあって尚更そう感じる。
「お、おい、まさか泊まらせたのか?」
「泊まる話になっていたんですが結果、こうなりましたね」
あくまで平和だった、まあ既にみんなで盛り上がった後だったから当然と言えば当然か。
泊まることを選んだうえに一緒のところで寝るとは言ってこなかったから客間に布団を敷いてそれで挨拶をして別れただけだ。
「ふっ、そうか、あのときの三上はもういないんだな」
「そうですね、それにあれはあくまで他の誰かを気にしていた場合の話ですから」
「ちょっと、隠し事はよくないよ?」
「入谷先輩に聞いてくれ」
だからいまは実に中途半端な時間だから朝ご飯を作るかどうかで悩んでいるところだと言える。
固まって考えている間に気が付けば先輩が目の前から去っていてまた杏花と二人きりになった。
「四人で集まろうとか言われると思ったけどなにもなかったよ」
「そうか、杏花はなにか食べたいか?」
もうこうなったら彼女がどうかで決めよう。
食欲がないなら昼か夜まで我慢をする、あるならやる気を出して作りたいと思う。
昨日は出来合いの物を食べて過ごしたから白米と味噌汁みたいな普通の組み合わせは新鮮で落ち着くはずだ。
「んーいまはあんまりお腹が空いていないからいいかな」
「わかった、なら中に戻ってゆっくりするか」
昼か午後までお預けだ。
で、戻ろうとしたときに何故かにやにややらしい笑みを浮かべていて気になった。
「あれ、修也君はまだ私を独占したいの?」
「そういうのはやめてくれ、帰りたいなら止めないよ」
そうでなくても家に泊めている状態だからいくら彼女の両親が送り出してくれていても危うくなってくる頃だ。
そういうのもあって帰りたいならそうしてくれた方がいい、なんでも欲張りすぎると駄目になることをわかっている。
「自由だ」
「しゅ、修也……?」
「戻るかアヤラ」
モフモフしていたって最近はずっと屋内にいたわけだから冷えるだろう。
付き合ってくれたからまたなにか買ってこないとな、できれば遊べる物とかがいいな。
ご褒美と言って美味しい物ばかりを与えていたら体を悪くしてしまうかもしれないから慎重になっているのもあった。
「いや止めてよっ」
「どっちだよ……」
「……もう今日はずっと離れない、帰れとか言われたら余計に残ってやる……」
「怖いぞー」
もう今年もそこまで残っていない。
だから本当はゆっくりしているよりも掃除をしろよという話ではあるが部屋も下も奇麗だからやっても水ぶきぐらいか。
「修也、今年もいくよね?」
「杏花がいきたいならいこう」
「それならいきたい、やっぱり大晦日の夜に出てこそだよ」
面白いのは今年の一月にも誘ってきたことだ。
彼女がやり方を変えるまでの距離感と一緒だったから友達といくかいかないかの二択だと思っていたらそうではなかった。
とはいえ、連絡もなしに二十二時ぐらいに突撃してきたことには呆れたがな。
「懐かしいな、あれからもう一年か」
「確かに。あの日の修也は、ぷぷ、驚いた顔をしていて面白かったなあ」
「だって基本は放置されていたからな」
「放置は……していなかったと思うけど?」
「いや本当に最近までは同じだったよ、なのに急に変わって驚いた。入谷先輩と佐竹に負けないように張り合っているわけでもなかったみたいだしな」
こればかりはたとえ関係が変わったとしても言い続けることになると思う。
俺が内で保険をかけつつただただ待っていた間になにかが進んでいたとは思えない、実際は反対の結果になっているとしても自分の中では〇〇と決まっているから延々平行線になる。
「は、張り合おうとしてあんなことを言うわけがないでしょ、なにも気持ちがなければ相手を勘違いさせちゃうだけじゃん」
「かなり危なかったがな」
「そもそも修也が鈍感なのが悪いよねっ、私がアピールをしたときもいちいち『いいのか?』って聞いてくるのもアウトだよっ。駄目ならそもそも言わないでしょうが!」
「テンション高いなー」
「修也のせいだから!」
よし、近くに来てくれたからグレンに癒してもらおう。
わざわざ抱き上げて移動させなくてもグレンがいってくれたからこれ以上噴火が続くことはなかった。
そうこうしている内に昼の時間になって流石に夜までは我慢ができないから昼ご飯を作って食べた。
怖い顔をしながらもそれでもむしゃむしゃ食べていく様はモンスターのように見えた、なんてな。
「掃除がしたいから来て、罰として修也には付き合ってもらう」
「元々やりたいなら付き合うよ」
「……グレンとアヤラ、また来るからね」
でも、正直に言うと平良家も変わらなかった。
だから結局は一時間もしない内に杏花の部屋で漫画を読んでいた。
あっちにはないからこういうときに読んでおこうと考える汚い自分がいる、だが杏花も本を読んでいて喋りかけても邪魔にしかならないから欲望に正直になっておくぐらいがいいはずだ。
「あーここに出てくる男の子は鈍感どころかぐいぐいアピールをしてきてくれるのになあ」
「な、すごいよな。しかも一方的じゃないからな、だから主人公の女子だってこれだけ好きになっているわけだし」
効率よく相手のために動けるのもいい。
俺がやったら一発で終わる行為もここぞという場面でやるからよく効く。
「修也と入谷先輩はその男の子のお友達って感じ、まあ……最終的には頑張って好きな女の子とお付き合いをできるんだけどさ」
「入谷先輩はそうだな、あの人はなんだかんだでやれる人だよ」
俺はここまできてもなにもできていないから違う、同じレベルとか考えてすみませんと謝るしかない。
名前呼びの件だって本人に言われたから変えただけだし……それこそグレンとアヤラを愛でていただけの人間になんで彼女は興味を持っているのか。
ゲームとかなら気持ちに気づいたところも描写されるからわかってもここは現実だ、確かめようがないからぐるぐるぐるぐる同じところを回ることになる。
「じゃあ……修也は違うの?」
「俺はどこまでも待ってしまっているからな、だから杏花次第ですぐに終わるぞ」
「で、でもさ、積極的でもそうじゃなくても相手次第なのは変わらないでしょ?」
「それはそうだな、前にもこんな話をしたが」
「なら大丈夫だよ」
お、おう……。
こ、このどちらも喋らないが本にも意識を向けていない時間をどう乗り越えるか。
「……前も同じようなことを言ったけど光が入谷先輩に興味を持ってくれてよかった、あのまま修也と仲良くなられていたら気持ちよく笑えなくなっていたからね」
「じゃあ開き直るわけじゃないが鈍感でよかったんじゃないか?」
鈍感ではないが。
それでも実際、自分も似たようなことを重ねていくしかない。
勘違いをする前に出してくれてよかったと、これもまた時間が経過してからも何度もふとしたときにそう感じるんだろう。
「いや困るよ、いまは冬なのもあって頑張って手を握っても『寒いからだよな』とか言っている修也しか想像できないもん」
「いやそれならいいのか? だろ」
「うわあ、得意気な顔で言っちゃ駄目なことだから」
「だって俺だぞ? 手なんか握られたらそう聞くしかない」
これからも聞いて聞いて、聞いてから動くしかない。
所詮はそんな人間だ、開き直りと言われても今回もまた同じ答えが出るだけ。
「はぁ……なにを言い合いしているんだろうね、ちゃんと話し合っていけばいいのにね」
「でも、本当に俺はそうだからこれからも迷惑をかける、悪いな」
「いやそれなら私も同じだからね、ちゃんと話し合おうね」
「おう、杏花は特にちゃんと言ってくれ」
「修也もね」
握手をしてこれで終了だ。
それからはまた読書タイムに戻ってイケメンのいいところを語り合った。
ただその途中、何度か真似をしてほしいとか言われたのもあって流石の俺でもこのまま情けないまま終わりたくはないから現実的にできることだけやろうと決めたのだった。




