08
「よ、よう」
「え、こんばんは」
迷わずに出ようとした平良を止めて代わりに出た結果がこれだった。
「あー三上のお母さんが平良の家にいるって教えてくれてな、それで来たんだ」
「佐竹は――あ、そういえば二十五日は無理だって……って、普通にいますね」
先輩の後ろから出てきた佐竹は「邪魔をしてごめんね」と謝ってくれたが正直俺は気にならないから平良に言ってやってほしい。
とりあえずはこんなところで話をしていても寒いだけだから二人を上げると「なんで……」と想像以上の反応をした平良がいて困った。
「ごめんね杏花、だけどこの人がどうしてもそわそわして落ち着かないって言うからみんなで過ごしたらどうかって言ってみたら『それがいいな!』ってなったの」
「修也から聞いていたけど二十五日は無理なんじゃなかったの……?」
「うん、そのはずだったんだけど両親が私以上に盛り上がっちゃったの、それでかわりに今日一緒に過ごしていたらこの流れなんだよ。だから……いいかな? 告白とかをしようとしていたところならお邪魔でしかないけど……」
「……わかった、だけどそれなら食べ物を買いにいかないと、ここには二人分しかないからね」
偉い、最初はともかく大人の対応をできている。
「それなら俺がいってくるよ、三人は待っていてくれ――と言いたいところだが偏るかもしれないから誰か付き合ってくれるとありがたいな」
集まってすぐに変な雰囲気とかになったわけではないが既に精神的に疲れているから自然な理由で一旦休憩がしたかった。
だからここは落ち着かなかったらしい先輩が付き合ってくれるといい、佐竹と離れて少し時間が経過すればいつも通りの先輩に戻れる。
「それなら光が付いていってあげて」
おいおい……?
「あれ? 私でいいの?」
「うん、私は二人が帰ってくるまでに入谷先輩を落ち着かせておくから」
「わかった、じゃあいってきます」
いやまあ……やらなければならないことはこれでも変わらないからささっといってくるか。
途中、楽しそうに前を歩く佐竹の背中に直接楽しそうだなとぶつけた、そうしたら足を止めたからこちらも止める。
「せっかく大好きな両親と過ごさないで出てきているんだから入谷先輩にはなにかしてもらわなきゃいけないの、だけどあのまま二人きりだと早々に解散に~なんてことになりそうだったからはっきり言って三上君と杏花を利用した、だからごめん!」
「謝らなくていい、頭を上げてくれ」
少なくとも女子組は今日のことに関して滅茶苦茶真剣のようだ。
俺達もそれに応えてやらなければいけないわけだが……片方はこうして外に逃げているしもう片方は逃げることこそしていなくても落ち着かないでいると。
女子組が優しいからなんとかなっているだけで相手によってはこれだけで切られていてもなにもおかしくないなマジで。
「だ、だけど杏花的にはさっきの反応的に駄目だったよね」
「平良に関しては多分他の日も付き合えば大丈夫だと思う、そもそも怒っていたりしたら俺と一緒にいかせたりはしていないだろ」
「……ありがとう」
「いいんだよ、それより食べたい物があったらちゃんと言ってくれよ?」
そこそこ金が吹っ飛んでも一年に一回ぐらいと片付けられた。
それにまた四人になってからは佐竹が一方的に話しかけているわけではなく先輩も頑張って話をしていたから悪くなかった。
ある程度食べて話したところで解散になっても二人は楽しそうな感じで出ていったから多分大丈夫だろう。
「はあ~……私、最低だったよね」
「平良なら上手くコントロールをして表面上だけでも歓迎するかと思ったからあれは少し驚いたよ」
だがその後は上手くやれていたから流石だと思った。
組み合わせはともかく距離ができたのもいい方に働いた、それはあの二人を見れば誰でもわかることだ。
「……それでやらかした感がすごかったから一旦修也と離れたかったの、入谷先輩もいつも通りじゃなくて助かったよ」
「佐竹じゃなくて俺なのか?」
「だって……嫌な女だって思ったでしょ?」
「いや俺はいまも言ったように驚いただけだよ」
それこそ彼女からすれば俺はそのつもりはなくても佐竹に対して態度を変えていたみたいだからこちらの方が嫌な人間ということになる。
そんな人間が彼女から誘われて完全に自分に甘い判断をしていまここにいるわけだから刺さっていく。
「平良、それ以上続けると俺に刺さるからもうやめてくれ」
「あとはほら、買いにいかせちゃったことだ――んー!」
「も、もういいから、これ以上はな」
続けたところで二人して暗い気持ちになるだけでしかない。
だからもう一回同じように言って頷いたところで口を押さえるのをやめた。
「悪い」
「……ううん、それよりこれからどうする?」
「食べ物はまだあるが腹の余裕はどうだ?」
「もう十分お腹いっぱいだから食べるのはいいかな」
ならここいらで終わらせておくのがいいか。
約束通り一緒に集まれた、四人で過ごせたことも多分終わったいまとなっては彼女的にもいいはずだ。
欲張るとそういういい思い出すら駄目になってしまうから俺がこのいい状態で終わらせたい気持ちが強い。
「なら片付けて解散に――ちょちょ、真似か? 実は押さえられてむかついていたとか?」
「喋ることができている時点で違うでしょ? 私はこのまま解散は嫌だって行動でアピールをしているだけだよ」
「は、離れてくれ、それに片付けはどっちにしろやらなければならないんだから先にしておいた方がいいだろ?」
「逃げたら許さないから。ふふ、それじゃあお片付けを始めようか」
なんで彼女はこんなに怖い顔が似合ってしまうのか。
せっかくの可愛い顔も台無しだ、にこにこずっと笑っておけなんて自分でも無理だから言わないがそれでも笑顔を見せてほしいところではある。
片付けをしているときも謎のプレッシャーにやられてそのせいで帰りたくなったが入口に近づこうものなら本当にやられそうだからできなかった。
「終わっちゃったね」
「怖いぞ……普通に戻してくれ」
一つわかっていることは俺も先輩も相手に負けるということだ、救いは言うことを聞いておけば酷いことには繋がらないということだった。
それにできることしか求めてこないのとちゃんと頑張れば彼女……みたいなそれも期待できるのもいい。
「んーそろそろ修也にはしてもらいたいことがあるんだよね」
プレゼントの件はちゃんと守ったから……なんだ?
「それは私のことを名前で呼ぶことだよ。というかね、あそこまではっきりしておいたら今日修也の方から名前呼びぐらいしてくれると思って期待していたのにわいわいしているだけだったね……? 二人きりになってからはどこか怯えたような顔をしているし私、気になるなあ……?」
「なんだそんなことか、俺としてはやっと平良の方から求めてくれたから動けるな。杏花、これでいいか?」
「う゛っ」
いや自分から言ってきてそんな反応はどうかと思う。
それに俺なんかまだ可愛い方だ、クリスマスのことで誘ってきた杏花を相手にしている俺の方がう゛っと言葉を漏らしたくなったぐらいだ。
いまははっきりとしてくれているからいいものの、そうでもない状態でこの距離感でいられたら曖昧なそれに一人疲れることになった。
「それよりマジでどうするか、だってそろそろ杏花の両親だって流石に帰ってくるだろ? そうしたときに野郎なんかいたらたとえ知っている存在でも驚くだろ」
「でも、今日は集まって盛り上がるって言ってあるから知っているよ? なんかにやにやもしていたぐらいだし」
にやにやしている彼女の両親は想像できなかった。
ただ母の方は優しく対応してくれているからもしそうしているとしても母の話だろう、逆に彼女の父がにやにやしていたら逆の意味で怖いから避けたい。
「だからさ、もう泊まらない?」
「それなら来てもらう」
「え、やだ、自分のお部屋に連れ込んでなにをするつもりなのっ?」
「今日は全然グレンとアヤラとゆっくりしていないからある程度は任せつつ触れて癒されるのはどうだ?」
俺も彼女もあの二匹に対しては同じスタンスだから疲れさせてしまうこともないだろう。
「結局それかあ……やっぱり私のお家を選んでおいてよかったよ、あと今日は最初にも言っていたようにそういうパワーは足りているから修也が気にしているであろう入浴でもお家で済ませてきてよ」
「わかった、じゃあいってくる――なんで捕まえた?」
まだ怖いモードが継続中で離れていく背中を見るとスルーすることができないんだろうか、ではない。
前とは違ってちゃんとこっちを見てくれていて先輩に話したようなこともなくて気になっている状態の異性に抱きしめられて冷静でいられている方がおかしい。
まあ、やるなあ俺と自画自賛をしたくなる自分もいるがいまはしょうもない自分に向き合っている場合ではないんだよな。
「やっぱりそっちにいく、今日は離れたくないから」
「わかった、それなら早くいこう」
「うん」
ただ何故か今日は自分の母に捕まって色々と聞かれたがそれでも一時間も経過しない内に部屋に戻ることができた。
扉を開けていたことが大きいのか自然と杏花のところにいっていたグレンとアヤラのおかげで退屈もしなかっただろうから機嫌もいいままで楽だった。
「あ、本当にアヤラは変わったんだね」
「おう、何故かあれから足の上で丸まることが増えたんだ、だからそこは無理になったグレンはよく肩に乗ってくるぞ。今日は杏花派みたいだが」
うんまあ……確かに魅力的に見えるから負けてしまうのも無理はない。
「やっぱり私はグレンが好き、人になれたらどんな見た目になるんだろう?」
「そりゃ杏花が持っている少女漫画に出てくるイケメンじゃないか?」
待て、普段から少し過激な少女漫画を読んで感覚が麻痺しているはずなのにどうして俺で妥協してくれたのか。
……今日いまここで気づくべきではなかった、解散にはならずに杏花はこのままいるわけだからこうなったら気持ちよく寝られはしない。
これに関しては聞いて知ることができても自分の内にあるなにかが削れてしまうだけだろうから危険だ。
「んーイケメンすぎればいいわけじゃないからね、私は修也で十分だよ」
なのに自分から聞くまでもなくクリスマスのことで誘ってきたときよりもある意味すごい爆弾発言をしてくれた。
「ま、待て、なんか気になる言い方だな」
「はは、自分のことをイケメンだと思っていたの?」
「ま、全く思っていないがつまり格好よくもないってことだよな、じゃあ杏花は……なんだ?」
普通専……いや普通って人によって違うからどれぐらいのレベルかわからないぞ……。
しかもこういうときに限って笑いやがって、行動一つで精神面でも終わらせることができるんだからもう少しぐらい気を付けてくれよマジで。
利用するみたいになってしまうが本当に二匹がいてくれてよかった、いなかったらマジで杏花に出てもらって部屋にこもって泣きかねない。
「修也専かな」
「……なんか俺らって馬鹿みたいじゃないか?」
かと思えば真剣な顔でこんなことを言うからもう内はぐちゃぐちゃだった。
「クリスマスの夜ぐらいはいいでしょ」
「そもそもクリスマスの夜に泊まったり泊まられたりする時点で、な」
「あーなんかいやらしいことを考えているね?」
「いや、まだ関係が変わったわけじゃないからいいのかって不安なんだ。こうやって楽しく過ごせても絶妙な男子が現れたら杏花はそっちにいくだろ?」
「む、それは聞き捨てならないな、私だって誰だっていいわけじゃないんですけど。というかね、なんで私ばかりが吐くことになっているの? 修也の中にもなにかあるでしょ」
そりゃ……あるだろ、ないなら先程の発言だってなにも気にせずに聞き流せたんだ。
「……いまとなっては取られたくない、少し前までなら誰か本命が現れても応援できたがいまはもう無理だ」
「だからないってそんなことはっ、グレンとアヤラに誓ってもいいよ!」
「じゃあ頼む」
「私は修也以外で興味を持つならグレンだよ――あ、アヤラも忘れていないからね」
「にゃ」
「初めて声を聞いたー!」
そういえばそうか、俺もそうだ。
ということで普通に上手く過ごせたのもあって色々とレアなクリスマスだった。




