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殺人鬼の部屋2

 目が覚めると辺りはすでに真っ暗だった――。

 ここへ来てから恐らく3日目の夜だ。


「いるの?」

「・・・いる」


 男の返事を聞いてホッと胸を撫で下ろす。

 本当に暗闇は苦手なのだ。

 外にいた時は月の光をあてにしていた。でも今は室内にいるからか、光が遮断されていて何も見えない。しかもこの部屋には照明がないし。

 もちろんわがままを言うつもりはないが、このままでは私の身が持たない。


「あの、私のこと見えますか?」

「見える」

「近くに来てくれませんか?」

「はぁ?」


 会話をしている間は気を紛らわすことができた。 でも、会話が途切れると徐々に全身が震え出し、汗が垂れ落ちる。


「お願い、来て。暗所恐怖症で、不安なんです」


 “暗所恐怖症” 自分の弱みを伝えるつもりはなかったが、この状況が続くとパニック症状が出るかもしれない。男に迷惑をかけたくはないのだ。

 大丈夫、と頭では分かっていても不安でいっぱいになる。


「俺に来いなんて、よく言える」


 ソファーがゆっくり沈み、男が隣に座ったのが分かった。


 ひとまず、安心だ――。


「あ、ありがとう」


 私はそっと男の腕に触れ、強く脈打つ鼓動を落ち着かせる。 男は私を押し退けることなく、朝になるまで隣に座っていてくれた。


 その間「人間は弱い」「軟弱だ」などと、心ない言葉を何度も吐かれたが、私は言い返さなかった。


 そんな日々が、1週間続いた――。


 食事は1日2回、シャワーは好きなタイミングで浴びられる。服やタオルは大量に用意されていた。

 朝目覚めたら軽く運動をしてから朝食を取り、一休みしたらまた体を動かす。

 室内で腹筋運動をしていたら男から「キラーハウスの外周を走ってこい」と言われた。それから毎日、キラーハウスの外周を走っている。

 夕方頃に2回目の食事を取り、暗くなる前に眠りに付く。退屈な時間が多かったけれど、いじめがないだけマシだと思った。


「馬鹿な人間共の相手は実にイージーだ」


 男は夜に帰ってくる。血まみれのチェーンソーを抱えながら。毎日、毎日、ここへやってくる人間を殺している――。


 動画撮影目的の人間がほとんどだ。ここは肝試しスポットとしても有名な廃墟だから、興味本位で訪れる人が多い。

 時々、自殺志願者も来ると聞いた。

 耳を劈くような轟音、悲鳴はもう聞き慣れた。


「・・・・・・そろそろ、始められるよ」

「逃げる準備ができたのか?」

「うん」


 いつの間にか私は男に対して敬語を使わなくなっていた。

 

 瘦せ細っていた体は元に戻り、調子が良い。 完全に回復した私を見て、男は満足そうに笑みを浮かべた。


 必死に逃げる人間を殺すのが、この男の趣味。


「・・・・・・じゃあ、逃げるね」

「あぁ」

「あ、一応言っとくけど! すぐには追ってこないでね」

「あぁ」


 相変わらず、人間味のない男。長い時間こいつと過ごしてきて分かったけどこの男には本当に感情がない。


 私は男に背を向け、歩み出した。 そして徐々に歩くスピードを上げていく。


 ここは“キラーハウス” 一度足を踏み入れたら、生きて帰ることはできない。

 あんなに楽しそうに私をいじめていたミア、アイビー、ソフィアも一瞬で死んでしまった。

 地位の高い人間ですら、この森へ入ったらただの“おもちゃ”へと成り代わる。


 私もその一人に過ぎない――。


 最後の最期まで男に弄ばれる存在。 抗う?そんな無意味なことしない。だって弱者は強者には敵わないから。身を持って体験してきたことだ。


 大嫌いな3人を殺してくれた男には感謝している。数日間だけ、いじめのない生活を送ることができて、こんな言い方変だけど嬉しかった。


 だからちゃんとお礼をする。


 全力で逃げて、殺し甲斐のある人間になるよ―――。


「はぁ、それにしても今日、天気悪い・・・」


 脱出ゲームの幕開け初日、外は大雨で、雷が鳴り響いていた。


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