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殺人鬼の部屋

 キラーハウスに連れ戻された私は「おい」と耳元で囁かれた男の低い声によって意識を取り戻した。

 ――うそ、私・・・この状況で寝てたの?

 筋肉質な男の肩は広く安定感があり、思いの外ぐっすりと眠ることができた。最近は夜に怯えて寝付くことができなかったから、ふとした瞬間に眠りに落ちてしまったようだ。

 

 キラーハウスの最奥には“殺人鬼の部屋”があった。

 古びたソファーの上に降ろされた私は辺りを見渡す。

 この部屋が男の拠点だろうか。

 男は私を放置したままどこかへ行き、数分後に服やタオルを持って戻ってきた。


「シャワーはあそこだ」

「ありがとう。・・・もう少し休んだら借りますね」


 脚に力を入れてみるも、立ち上がることができなかった。自分が思っていた以上に体が弱っているみたいだ。


「まだ無価値」

「無価値、無価値って言いすぎです!

っあ、ごめんなさい・・・」


 反射的に言い返してしまった自分の口を慌ててつむぐ。 

 相手は“殺人鬼”なのに。 でも『どうせ死ぬし』そんな思いが頭の中にあるから、少し吹っ切れてしまっている。


 今更命乞いをしたって、男は私を逃がさないだろう。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


 その後はしばらく沈黙が続いた。 男に脅されるかと思ったけど、何もされなかった。

 男は私と向かい合うように座りながら、慣れた手付きでチェーンソーの刃を研いでいる。 ヤスリの音はちょっと苦手だ。

 辺りを見渡すと血がべったりと付いた布がそこら中に落ちていた。

 そのチェーンソーでいったいどれだけの人を殺めてきたのだろう。


 ボーっと男の行動を観察していたら、何度も男と目が合った。 男は何も言葉を発さない。チェーンソーに夢中だ。


 そう言えばホラー映画にチェーンソーを使う殺人鬼がいた気がする。 元々は木を切断するための道具だ。肉体なんて簡単に切れてしまうだろう。


 恐ろしい凶器に成り代わるということを再認識した私は身震いした。


「・・・・・・あの」


 別にチェーンソーに興味が湧いたわけではない。


「何だ」

「私にも何か、武器、くれませんか?」


 “名案”を思い付いただけだ。


「何と言った?」


 男は私の発言に一瞬固まるも、すぐに返事をした。

 男にとっても、私にとってもプラスになる案を提示する。


「ほら、逃げるだけじゃなく、武器で抵抗してきたら、もっと殺し甲斐があるかなって!


殺す価値が上がるはずです」


「・・・あぁ、それはいい」


 私の言葉に納得した男はポケットから折り畳みナイフを取り出すと、こちらに向かって歩いてきた。


「そうだな。こうしよう。

これで俺を刺せたら、この森の出口まで案内してやる」


 ナイフを私の手元に置くと、男は口角を上げて不気味に微笑んだ。 男の口からそんな言葉が出るなんて予想外だった。


 上手くいけば、ここから出れてジャックと再会できる?


 ――いやでも、現実を見ないと。


 ここから出たところで私に明るい未来は待っていない――。

 

 どうするのが正解なんだろう。


 一人で戻ったとしても・・・ミア達の仲間が一生私を責め立てるだろう。

 警察に事情を聞かれたり、報道陣に訪ねてこられたりして、休息のない日々が想像できる。

 

 ナイフを見つめながら、静かにため息を吐く。


 男は私にチャンスを与えた。 ――チャンスと言っても、この男の隙を見て刺すのは容易いことではないけど。


 こいつは私を試している。


 結局私は・・・どこに行っても“おもちゃ”なのだ。


 歩けるようになった私は個室に完備されていたシャワーを借り、自分の系統とかけ離れた服に着替えた。 

 この服は多分、殺した女から盗んだものだろう。ショッキングピンクの大きめのパーカーに、黒いジーンズ。こんな派手な色のパーカーを着たのは生まれて初めてだ。


 元いた部屋に戻るとソファーの上にバナナジュースとサンドウィッチが置いてあった。

 いったいどこから仕入れているのか、疑問に思うことはあるけれど今は聞かない。


 与えられた食料を、ありがたく口に運ぶ。


 走れるようになったら、いよいよゲームスタートだ。

 

 男を刺してチャンスを掴むか、その前に殺されるか。


 今のところ男から“殺気”は感じないからそこまで身構えなくても大丈夫だろう。

 目の前に殺人鬼がいると言うのに、私は冷静さを保っていた。


 食事を終えた後、何もすることがなかった私はソファーの上で横になって一点を見つめていた。

 チェーンソーの整備を終えた男は、紙パックジュースを飲んでいる。


(・・・寝てる間に殺してくれないかな)


 涼しい風に当たっていると段々と眠たくなってくる。 殺人鬼の目の前で安眠なんてできるわけないのに。それでも強い眠気に襲われる。

 まともに眠りに付けず疲れ果てていた私は不本意にも2度もこいつの前で眠ってしまったのだ。


「無価値」


 完全に眠りに落ちてしまった私の頭上で男がそう呟いたのを、私は知らない。

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