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笑顔

 ――翌日――


「ちょっとどうなってるのよーーー!!!」


 もう二度と来ることはないと思っていたグレースの、驚愕とショックに満ちた声がキラーハウス内に響き渡った。


「何故来た」

「あなたの様子を見に来たのよ!そしたら・・・人間が生きてるんだもん!!!」


 すっかり私が死んだと思い込んでいたグレースは、ソファーに寝転がりながらジャッキーと戯れている私を見て、納得のいかない表情を浮かべていた。


「く、はは・・・残念だったなグレース。

お前じゃ俺を罰することはできない」


 壁に寄り掛りながら血液ジュースを飲んでいたジャックは紙パックを一度テーブルの上に置くと、口元に笑みを浮かべてグレースを見た。


 まさか昨日の今日でグレースが来ると想定していなかった私は、とぼけて苦笑いを浮かべることしかできなかった。

 今からでも“死んだふり”をしたほうがいいのだろうか。


「な、何なの!?

2人してあたしをからかってたって言うの?

吸血鬼と人間でタッグを組んだってこと?」


 グレースは両手を強く握り締めながらぎろりと私を睨んだ。

 いや、でもちょっと待って。

 そもそもジャックの記憶を操作して私を殺そうとしたのはグレースだ。

 怒るべきなのはグレースではなく私だと思うが、何故か立場が逆転している。

 それに私はジャックの言われた通りに動いただけだ。 恨みを買うつもりはなかった。

 まぁ、グレースの気持ちを思うと、人間の芝居に騙されたわけだから苛立つのも当たり前か。

 

「あり得ない、あり得ない」とグレースは何度も呟き、苛立ちを抑え切れない様子だった。


「いや、落ち着けあたし。

これってビッグニュースじゃん。ジャック様が人間の女と“友達”になったんでしょ?

――っぷ、待って、おかしいぃ・・・ぷはは!」


 何を思ったのか、グレースは突然腹を抱えて笑い出した。 喜怒哀楽が激しくて、見ていて飽きない吸血鬼だ。


「まじでジャック様・・・っぷ、どうしちゃったの?」


 昨日も気にはなっていたが、何故グレースはジャックのことを()()()()()と呼んでいるのだろう。

 それに私達の関係をビッグニュースと言った。

 

 もしかしてだがジャックは吸血鬼の中で有名な存在なのだろうか?

 私は疑問に思ったことをそのまま聞いてみた。


「ジャックは有名なの?」

「いや、有名も何も・・・この方は“王子”だよ―――」


「えっ」

 

 王子?

 聞いた立場ではあるが、グレースの返答が予想を遥かに上回りすぎていたため私は理解に追い付けず呆然としていた。

 

「あんた、あんまり驚かないのね」


(いや、かなり驚いてるんだけど・・・)


 グレースに怪訝な目で見つめられ、ぎこちない笑みを浮かべる。

 まぁ、元々リアクションは薄いほうだが・・・これでも真面目に驚いている。

 ジャックが王子だなんて、正直信じられない。 だって・・・ もともとは殺人鬼だし。


「不要だと感じれば今でも殺す。吸血鬼も人間も――」

「――っ」


 私の心の声にジャックはすぐさま反応を見せた。

 その凍てつくような言葉に、私は何も言い返せなかった。

 

「“友達”にビビってんのぉ〜?」


 落ち込む私を煽るようにグレースは不自然なほどにこやかに微笑んでみせた。

 確かに友達に怯えるのは変、かも・・・


 ソファーの端に縮こまる私を見て、ジャックは小さくため息を吐いた。


「エマは特別だ」

「っぶは―――!!!!()()()()()って、あ〜・・・最高におかしい」


 ジャックの発言に耐え切れず豪快に吹き出すグレース。

 馬鹿にされていることを察したジャックはグレースに向けて躊躇なくナイフを飛ばした。


(――な、何して)


 ナイフはグレースの額に深く刺さったが、グレースは痛がる素振りを見せることなくケラケラと笑い続けている。


 吸血鬼ってやっぱり不死身なんだ――。


「ジャック様は王子ではあるけど、問題ばかり起こしていたから国から追放されたのよ!

両親からも見放されていたのに・・・ 人間の女と友達になってまともになったと言うの?

誰が信じる?そんな話」

「――両親には話す。 エマを守ると伝えるつもりだ」

「っぷ!騎士じゃん!!

もう駄目。面白すぎて・・・今めちゃくちゃ楽しい気分」


 この状況を心から楽しんでいるグレースにジャックはもう一本、容赦なくナイフを投げ付けた。

 2本目のナイフが刺さってもなおグレースは気にせずケラケラと笑っている。

 その内チェーンソーの電源を入れるのではないかと、私は内心焦っていた。


(だけど、不思議だ)


 私もグレースと同じようにこの時間を“楽しい”と感じていた。


「エマも俺を馬鹿にしているのか?」


 ジャックは低くドスのきいた声とともに鋭い視線を私に向けた。

 

「違うよ。賑やかで、楽しいの」


 そう言って笑顔を向けるとジャックは一瞬目を見開いた。


 私は引っ込み思案で友達の作り方も分からず、寂しい学校生活を送っていたから。

 こんなに賑やかで楽しい時間は過ごしたことがないのだ。


「ジャックのおかげだよ。ありがとう―――」


 自然と溢れる、心からの笑顔とお礼。

 今を手放したくないからもう死なない。そう心に決めた。

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