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自由

 一度目の人生はまだ森の中を彷徨っていた頃だ。


 ジャックに見つかってしまった人間は無残にも命を奪われる――。

 ただジャックはいわゆる“馬鹿”以外は殺さないみたいだから、私と同じように無理やり連れてこられた人間には違う対応をしているのかもしれない。

 無差別に殺しているわけではないのだと信じたい。

 本人に聞きたいことは他にも山ほどあったが、気に触ることを言ってしまったらと思うと言葉が詰まった。 “何を思ってもいい”とは言ってくれたけど・・・ 本当に心の中を全て読まれているのなら、変なことは思わないようにしないと。


「はぁ・・・」


 自室のベッドはやっぱり落ち着く。


 果たして私達は本当に“友達”になれたのだろうか。 ジャックの気が変わればまた殺される可能性だってあるかもしれない。

 考えていても埒が明かないか。

 私は薬を飲んで、さっさと眠ることにした。



――翌朝――


「みゃー」

「おはよ、ジャック」


 猫のジャックにご飯をあげて、少し撫でてから大学へ向かった。

 バスに乗って数十分、歩いて数分、家から学校までの距離はそこまで遠くない。


 教室の中は予想通り騒がしく、ミアとアイビー、ソフィアと連絡が取れないことをカースト上位の男女達が話していた。

 その中の一人、アンナが険しい表情で私のもとへ近付いてきた。


「あんた昨日、学校帰りにミア達とキラーハウスに行ったんでしょ?」


 仲良く肝試しに行ったわけではない。 それはアンナが達も分かっているはず。

 いじめの舞台へ向かうためにソフィアは50キロもの距離をわざわざ運転したのだ。


「黙ってないで答えなさいよ」

「・・・行ったけど」

 

 私を嫌う人間はミア達3人だけではない。 学校ではカーストが全て。ミアの取り巻き達は全員、私のいじめに加担している。


 ロープまで準備して私がキラーハウスから脱出できるかどうか撮影する予定だったらしいが、そんな悪趣味な“いじめの内容”はアンナ達には知らされていないのだろうか。


「ミア達はどこよ!?」


 アンナは私の前髪を引っ張りあげ、強く言い放つ。額の傷に気付いたようだけどそこには何も触れてこなかった。


「森ではぐれたの。私は自力で帰ってきた」


 「一緒にいたのは最初だけ」と付け加える。 “ミア達は殺された”なんて口が避けても言えないし。


「遭難ってこと?ねぇ大丈夫かな?」


 アンナは私の前髪を離すと、友達のもとへ戻っていった。


 “遭難” 現実的で、あり得る話だ。


「さすがに捜索願い出してるんじゃないか?」

「じゃあきっと大丈夫よね!」

「警察もセレブに頼まれれば必死になって探すだろ」


 ミアの母親は有名な化粧品会社の社長で、父親は俳優として芸能活動をしている。

 金持ちの夫婦に可愛がられて育ってきたミアが何故“いじめ”を楽しむようになってしまったのか。そんなことしなくても充分幸せははずなのに。

 身に着けているものは高額のブランドものばかりだから、取り巻き達はいつも羨ましそうに見ていた。 

 そう言えば前にミアに気に入られるとプレゼントがもらえるとアイビーとソフィアがヒソヒソ話していた。


* * *


 あれからアンナは私に絡んでこなかった。

 3人がいない教室内が静かで居心地がいい。 その日は不思議なほど穏やかな1日で、いじめられないっていいなと思えた。


 まぁ私もミアの好きな人に告白される前はいじめとは無縁の日々を送っていたのだけど。

 アダン・グレイアム。 よく女子達の話題にあがる人物だったから存在は知っていたが、私は興味がなかった。――だから振った。

 それなのに次の日からミア達に目を付けられて、いじめが始まった。

 最上カーストのミアには先生ですら逆らえない。


 学校が終わり、家に帰る前に図書館に寄った。 目的は本ではなくパソコンだ。スマホを壊されてしまったから調べものも安易にできない。

 すでに電源の入っているパソコンの前に座り、キラーハウスの行き方について検索をかけた。 具体的な距離や、交通手段など。

 ミア達に連れて行かれた時はずっと目隠しをされたまま車に乗せられていた。 運転していたのはソフィアで、16歳になった時にすぐに免許を取ったと前にミアと話していた気がする。

 私はまだ免許を取っていないからバスや電車を使って近くまで行くしかなさそうだ。 実際、かなり歩くと思うけど。運動不足だし丁度いい。

 

 調べものが終わった私は図書館を出て家に向かった。

 

 私の家は築年数50年の古いアパートだが、住んでいる人が少ないというのもあって静かに過ごせるから結構気に入っている。

 猫のジャックに会えるのもこのアパートの住人の特権だ。


「ただいま、ジャック」

「みゃー」


 「今日は平和だったよ」と伝えて、部屋の中へ招き入れる。

 何事もなく1日を終えたのは久しぶりで、これが当たり前なはずなのに妙な気分だった。

 放課後のいじめは絶対だったから。

 あの時間がなければ、寄り道してもこんなに早く帰ってこられるんだ。

 

 もう拘束されることはない。 私はようやく自由を取り戻した。

 すでにこの世にいない3人に恐怖を感じることはなかった。あいつらの死を目の当たりにしたのに、私の心は非道にも安心感に包まれていたのだ―――。

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