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血の力

「医者には気分障害って言われた」


 普通の生活はできるけど、気持ちが沈むと死ぬことばかり考えてしまう。 そうなると自分でも制御できないからめんどくさい病気だ。


 ただ薬をきちんと飲んでいれば問題ない。

 薬を飲まない日が続くと発作を起こしてしまうのが厄介だと感じている。 だからあの時は衝動的に手首を切ってしまった。


 私は正直に自分の障害について話した。

 ジャックはずっと静かに聞いていたけど、時折不思議そうな顔をしていた。

 吸血鬼のジャックにとって私の言ってることが理解し難いのは当然のことだろう。


「帰ったらすぐにその薬を飲むべきだ」


 ジャックの口調はとても落ち着いていて優しさを感じた。


「あの、もしあなたと話したくなったらここへ来てもいい?」

「構わない」


 家に帰ったあとはまず薬を飲んで、猫のジャックにご飯をあげて、これからのことを考えよう。

 ミア、アイビー、ソフィアが死んだ件は私しか知らないからただ黙っていればいい。 明日には大騒ぎにはなりそうだけど、あくまで私はいじめられていた側の人間だ。怪しまれることはないだろう。


 以前の私は1人だけ生きて帰れば周りに責め立てられるだろうと、恐れていた部分があった。でも、今は違う⸺⸺。

 だって“死”があの3人の運命だったのだから。


 あの3人のことだから、私を連れてここに来ることを事前に誰かに伝えているはずだ。

 もしこの件について聞かれたら“森ではぐれてしまった”と嘘を付けばいい。相手は人間、心の声を聞かれる心配もない。

 しかし時間が経てば警察沙汰になることは目に見えている。とくにミアはセレブの娘、家族は必死になって警察に頼み込むだろう。

 

 でもここは“キラーハウス” 警察ですら目を背ける場所。

 確かにこれは事件だけど、捜査はきっと形だけで終わる。


「警察には逆らえば殺すと言ってある。それにあいつらも俺に依頼をしてくるぞ」

「そう、なの?依頼?」

「あぁ、俺にとったら人探しも人殺しも容易なことだ。警察はその力を利用しているのだろう」

「そうなんだ・・・」


 警察はジャックの行動を黙認する代わりに力を借りている。利害関係が成立しているのだろう。


 もし私のもとに警察が尋ねてきたら私とジャックに繋がりがあることは隠しておこう。

 だけど、自分で森を抜け出したと話したら疑われそうだ。吸血鬼から逃げ切った超人大学生、とか噂されたりして。



* * *


 ジャックからもらったパンを食べ終えたあと、ぼーっとランタンを眺めていたらいつの間にか眠ってしまったようで、次に目を覚ましたのは深夜だった。


「⸺⸺こちら1週間分の血液です。それと・・・」


 ジャックの声ではない。外でジャックが誰かと会話をしている。

 人間? それとも吸血鬼?


 数分後、ジャックは紙パックに入っている“何か”をストローで飲みながら室内に戻ってきた。

 私が起きていることに気付くと、一瞬目を大きく開いたがすぐに無表情に変わった。

 “何か”とは言ったが“血液”と聞こえてきたから恐らくそれだ。

 吸血鬼だから血を飲むのは当たり前だけど、想像すると鳥肌が立ってしまう。


 だって、不味そうだし・・・・・・


「お前の血は結構美味しかった」

「――っえ、」


 また心を読まれてしまった。いや、それよりも!


「飲んだの?」

「死んだ時、大量に血が出ていたから飲ませてもらった。 力を使う時は血が必要だ」


 確かに時間を戻すのって相当な()を使いそうだ。

 今も結構な量の血を飲んでいるから力を使おうとしてるのだろうか。


「あぁ、今からお前を家に移動させる」

「今から?どんな感じなの?」

「一瞬だ」


 そう言って薄く微笑んだジャックの表情は、以前、私を殺そうとしていた殺人鬼には到底見えなくて―――。

 そんな顔もできるんだと感心していたら、黒い影のようなものに覆われ反射的に目を瞑った。

 次に目を開けた時にはすでに自分の部屋のベッドの上にいて、ジャックが言っていた“一瞬”の意味を理解した。


 確かキラーハウスはここから50キロ以上北に進んだ森林地帯の中にある。私はその距離を一瞬で移動してしまったのだ。


 信じられない体験をした私の心臓はしばらくの間大きく脈打っていた。

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