正体は吸血鬼
「あなたって、人間じゃないよね」
明らかに瞬間移動してるし、前に銃で撃たれた傷口もものの数分で治っていた。重量のあるチェーンソーを軽々と扱っているのもおかしな話だ。
「吸血鬼だ」
「吸血鬼?」
「あぁ、吸血鬼」
非現実的なことにはもう慣れた。 ジャックの超人的な動きから人間でないことは薄々気付いてたけど、まさか“吸血鬼”だったとは。
でもよくやく腑に落ちた。 日の光が当たらない森の中に住んでいる理由。人間を殺す理由も・・・ 吸血鬼と言えば“血”を吸う生き物だし。
「あなたが吸血鬼だってことを知ってる人は?」
「警察は知ってるぞ。馬鹿な人間は殺していいと言われている」
「⸺⸺警察が?」
ジャックの言っていることが本当なら、それはかなり恐ろしいことだ。警察がジャックの存在を知っている?その上、殺しの許可まで? ⸺⸺いや、あり得ないでしょ。しかし過去にたくさんの人がこの森で行方不明になっているのは事実だ。
警察が介入しているかどうか定かではなかったが“ここで行方不明者が出た”とテレビで報道されたことは一度もない。
キラーハウスは“有名な肝試しスポット”そう噂が広まるだけで、実際に死人が出ているという話はネットの“一部の界隈が集う掲示板”にしか書かれていない。
だからミアもアイビーもソフィアも、ここの恐ろしさを知らず、遊び半分で来てしまった。
私はネットで死ぬ方法ばかり探していた時期があったから、キラーハウスの存在やここで実際に起きていることを知っていた。
まさか殺人鬼の正体が吸血鬼だとは予想できなかったけど。
キラーハウスは警察も合意の上で“殺人”が可能な区域。 ここに来る人間は馬鹿でイカれている。それは警察も分かりきっていたんだ。
まぁ、警察もジャックに逆らえないというのもあるのだろう。殺人は大罪だが逮捕する前に殺されそうだし。
「よく分かってるな」
「え?私、口に出してた?」
「いや、口には出してないが聞こえる」
「・・・心を読めるの?」
「あぁ」
吸血鬼の特性なのだろうか。
心の中で思ってることを全て知られてしまうのは若干抵抗がある。ジャックを怒らせるようなことは考えないようにしないと。
「別に何を思ってもいい」
「・・・・・・うん」
少しだけ気まずい空気が流れたが、私はその空気を断ち切るように口を開く。
「そう言えば、過去に戻したのってあなた?」
「そうだ」
ジャックはいつの間にかチェーンソーを拭くのをやめていて、深刻な表情で私を見つめていた。
初めて会った時も思ったがジャックは珍しい瞳の色をしている。ルビーのような赤い瞳。ずっと目を合わせていると吸い込まれそうな感覚になるから、時々目線を外して会話をする。
「俺にも人間と同じ感情はある。お前を殺せないのがその証拠だ」
「私の死をなかったことにしたの?」
「そうだ。お前の死体を見ていてもつまらなかった。生きているお前のほうがいい」
ドクン⸺⸺と心臓が大きく揺れた気がした。
今まで誰からも必要とされてこなかった私が、そんな言葉をもらったのはもちろん初めてで、今どんな表情をすべきなのか分からない。
もし猫のジャックがいなくなったら、生きる意味がなくなるから死ぬつもりだった。
だけど、今は・・・生きていてもいいかもって、そう思えた。
「友達ってこんな感じなのかな」
「ともだち?」
「・・・何て説明したらいいか分かんない。けどもしジャックがいいなら、友達になりたい」
「構わない」
その日、私に吸血鬼の友達ができた⸺⸺⸺。
一度死んだ私はジャックによって生きることを許されたのだ。 でも、この運命をあっさり受け入れていいのか分からない。
ミア達に比べて何の価値もない私が・・・私だけが生きていいの?
「俺もこんな感情は初めてで、何と説明したらよいか分からない」
そっか。悩んでいるのは私だけじゃないだ。
ジャックは立ち上がってゆったりとした足取りで私のもとへ近付いてくると、隣に腰を下ろした。
そしてすぐに私の首に手を伸ばした。
「温かいな」
「――っ」
静寂に包まれた室内にソファーが軋む音が響く――。
ジャックはしばらくの間私の首に手を添えて、肌の温かさを実感しているようだった。
そのまま首に添えていた手を少しずつ上へ移し、頬から額へと順番に触れていく。
前髪の下に隠れている額の傷をじっと見つめられ戸惑っていたら、追い打ちをかけるように親指でなぞられ思わず全身がぶるっと震えた。
何だか、くすぐったい。
あれだけ恐ろしい存在だったのに。 私がジャックを変えたのだろうか。
「聞きたいことがある」
「?」
ジャックは私から手を離すと、長い脚を組み直してから口を開いた。
「薬がないと死ぬってどういうことだ?」
ランタンの灯りを浴びた赤い瞳は恐ろしいほど綺麗だ。




