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ジャック

 男と反対方向に走る。ロープで巻かれている状態だから走りにくいけど、逃げることが最優先だ。

 数分後、ミアの悲痛な叫び声がキラーハウスに響き渡り、思わず肩が震えた。

 ミア達は2回も殺されたことになるのか。

 あれ、そう言えばミア達には未来の記憶がなかった。 この不思議な体験をしているのは私とあの男だけなのだろうか?


 男は必ず私を探しに戻ってくる。

 確か前は身を潜めて朝になるのを待っていたけど、朝になって動き出した瞬間すぐに見つかった。 隠れていた場所は、そう、この辺りだ。 暗闇を避けたいからなるべく月の光が当たる場所にいた。

 前回と違う行動を取れば未来も大きく変わるのだろうか。


 そう思っていた矢先、


「そのままだと動きにくいだろう」


 男が目の前に現れて、ナイフを見せつけた。


「・・・・・・びっくりした」


「動くなよ」


 そう言うと、男はナイフでロープを切り始めた。


 何かが違う⸺⸺⸺。


 男から感じる違和感に戸惑いながらも、言われた通りにじっとしていた。


「ここも結構切れてるぞ」


 私の前髪をあげて、額の傷をまじまじと確認する男。


「人間は、こんな傷もすぐに治らない」


 男は私の後頭部を掴み、少し強引に上を向かせると再び口を開いた。


「手首を切っただけで死ぬとは弱い生き物だ」


(⸺⸺こわい)


 こわいけど、今のこいつからは“殺意”を全く感じない。

 自死したことが不服なのか、苛立っているようにも見えた。


「⸺⸺殺す」


 男はナイフを私の首に当て、そう言い放つ。

 2回目のゲームオーバーは案外早かったけど、それでいい。

 心残りはジャックのことだけ。 ご近所さんはみんな優しい人ばかりだから、きっと代わりに餌をあげてくれるだろう。


 体感だと30秒くらいだった⸺⸺。

 男は私の首にナイフを当てたまま、一向に力を入れる気配がない。


「⸺⸺やっぱり、・・・考える」


 死を覚悟して閉じていた目をそっと開けると、男は訝しげな表情で私を見ていた。

 “やっぱり考える”? 私を殺すことを躊躇っているの?こいつが?


「・・・・・・」

「・・・・・・」


 数秒間の沈黙。

 私は男にとって殺す価値のない人間のままだった。

 悲鳴をあげて逃げる演技をしようとずっと思ってたのに、男と目が合うと何故か動けなくなる。


「とりあえず逃げるから、殺したくなったら殺してよ」


 我ながら全く意味の分からない提案だと思う。

 でも、今は殺せないみたいだから。 私に対する殺気が芽生えるその日まで待つしかない。


「逃げる?また勝手に死ぬだろう」


 男は眉をしかめながら疑いの眼差しで私を見つめる。


「死なないって約束する」

「やくそく?」

「絶対に死なないって誓うってこと」

「・・・・・・」


 “約束”を知らないなんて、この男どんな人生を歩んできたの?

 必要以上のことを話さないようなやつだったのに、急に口数も増えたし、見たことのない表情もする。 気掛かりなことばかりだ。


 私が自死するのを阻止しようとする理由も気になる。

 

 今はナイフを持っていないから大丈夫だけど、正直、時間の問題かもしれない。

 気持ちが落ち着いている内は大丈夫だけど、薬が切れると死ぬ方法を探してしまう自分がいる。


 それだけが心配だ。


「・・・今は暗い。一度俺の部屋に来い」


 前に暗いところが苦手だと、話したことがある。 覚えていてくれたのだろうか。

 今思えば私は長い時間この男と過ごしている。 名前も知らない、人間かも分からない人と。


「あなた、名前は?」


 男の横を歩きながら何気なく聞いてみた。 答えてくれるとは思わないけど。


 男は私の質問にしっかりと耳を傾けてくれていたみたいで、静かに口を開いた。


「ジャック」


(猫と同じ名前⸺⸺!)

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