キラーハウス
「おいドジ!早く来いって~!」
放課後、曇天の空――
金髪パーマのミアは今日も楽しそうに笑っている。
「てか、ここまじで雰囲気あるじゃん」
「でしょ! ほら、動画撮るよ~!」
赤髪ボブのアイビーと茶髪ポニーテールのソフィアも、相変わらず楽しそうだ。
これは毎日のこと――。
「やってきました~! 噂のキラーハウス!
今日はここに、馬鹿エマを閉じ込めま~す!!!」
スマホを私に向け、3人は実況と撮影を始めた。
エマ。それは私。本名はエマ・フローリー。
深い森のようなくすんだ緑色の髪は最近腰まで伸びてきた。瞳はヘーゼル色で結構気に入っている。
地味な見た目をしているわけでもなければ、特別目立つ存在でもない。どこにでもいる大学生だ。
そんなどこにでもいる大学生の私は毎日“いじめ”を受けている。
「ほらエマ、笑えよ!」
「何か言ってごら~ん!」
何故いじめの標的になってしまったのか、ひとつだけ心当たりがある。
大学2年生の春、
校内一のイケメンと言われているミアの好きな人、アダン・グレイアムから告白を受けてしまい、
私は彼を振った――。
いじめが始まったのはその次の日からだ。
だから、うん、絶対、それが原因。
「キラーハウスの中に入ってみたいと思いま~す!」
ミアが私の腕を掴み、強引に引っ張る。
どうやら今日のいじめの舞台は“キラーハウス”らしい。ここはかなり有名な肝試しスポットだ。
森林地帯に入って20分ほど歩いたところに古く朽ちた廃墟がある。辺り一帯はどこか不穏で恐ろしい雰囲気に包まれていて、本来なら誰も近寄りたがらない場所なのに、ミア達は“いじめの舞台だ”と言って心底楽しそうに私を連れてきた。
まぁ、黙ってついてきた私も私だけど。従わないといじめがもっと酷くなるのだ。
「まじで誰かいそうじゃん!」
「ちょっと怖くない?」
廃墟の中をスマホで撮影しながら奥のほうへと進む3人。私は未だにミアに腕を引っ張られながら無理やり歩かされている状態だ。
別に走って逃げたりなんかしないのに。
キラーハウスと呼ばれている理由は、ここに入った人間は実際に行方不明になっているから。“殺人鬼が住んでいる”とも言われている。
「この辺でいいんじゃない?」
「ほらエマ、座れ!」
そんな危険な場所に私を閉じ込めるのが今日の“いじめ”らしい。
警察さえ立ち寄らないと言われている場所なのに。下調べもせずに“楽しそう”という勢いだけでここへ来てしまった3人は、馬鹿だ。
キィィ―・・・
「何今の!?誰か音出した?」
「風じゃない?」
扉が軋むような音に肩を強張らせるミア。ソフィアは気を紛らわすようにスマホをいじる。アイビーは、辺りの様子を伺いながらも一生懸命私を縛っている。
遂にロープでぐるぐる巻きにされた私。
3人は私の姿をスマホに映し、高笑いをした。
毎日のことだ――。
抵抗しても無駄だと分かっているから、何もしない。
ミアは実際大金持ちの娘だし、アイビーとソフィアはそんなミアのお気に入り。勝ち組の彼女達に負け組の私が抵抗する権利はないのだ。
悲しいけどそれが現実。卒業まではこいつらの“おもちゃ”だ。
カン・・・ カン・・・
遠くのほうから繰り返し響く、金属音。
ソフィアは再び怖がりな一面を見せた。
「まじでここ何かいそう。私らは出ようよ」
「かわいいじゃん、ソフィア。 まあ、こいつはもう縛ったし、ミッションクリアかな!」
「最後に何か一言お願いしま~す!」
「・・・・・・」
もちろん、何も言うことはない。
「つまんね~女」
無言で下を向く私に唾を吐き捨てるミア。アイビーは地面に落ちていた石を蹴って、私に投げ付けた。
(・・・痛い)
痛がる私の様子を見て、満足そうに笑みを浮かべる3人。
「いこいこ~」
その場に私を置き去りにし、来た道を戻っていった。
全部、毎日のこと――。
慣れって、すごい。何とも思わなくなってしまった。




