Ep8.虎の棲む家
今すぐにでもヤオをぶん殴るべきか。
答えはもちろん、否。そんなことをすればユン・ジェの手でブチブチにブチ殺される。
幸か不幸か、ヤオは明言を避けていた。だが、それはリザが知る〈紅のオメルタ〉におけるオニール・ファミリーの未来の形だ。
オニールがヴィスコンティを食う──それはリザが絶対に避けなくてはならない、主人の死に直結する可能性そのものである。
「ミス・オニール、あなたがこれから築き上げる城の城下町には……いや、城の中には、是非とも俺たちを置いていただきたい。そんな未来のために、あなたを選んだんです」
聡明ながら、未だギャングの世界とは遠い位置に居る少女である。
それが目覚める可能性は、わずかでも排除しなくてはならない。あり得るかもしれない未来を伝えるなど言語道断である。
わずかに顔を俯かせるベアトリーチェ。
その顔に明確な色が浮かび上がるまでの数秒が、リザには永遠より長いものに感じられている。
「……ふふっ」
主人は、笑っていた。
「あははっ! そんなこと、あるわけないじゃない! ヴィスコンティはお父様の盟友で、取り引き先でもあるのよ?」
楽しげに笑っていた。いつも通りのかわいらしいお顔で、清々しいほどに笑っていた。
「はっはっは。それに、ヴィスコンティの娘さんとも仲良しでいらっしゃるとか」
「あら、お友達関係にまで耳をそばだてているなんて。気持ち悪いくらい優秀ね」
「これは失礼、仕事が趣味のようなものでして」
談笑する二人を他所に、火照ったリザの体を冷や汗がじわりと伝う。
心配しすぎだと言われればその通りだろう。
だが、警戒というものはしすぎて損をすることがない。怖がりすぎるのも良くないが、適切な恐れは必要だ。
珍しい人物と会えて楽しいのか、今日の主人は表情が柔らかく口もよく回っていた。時折達観した風に見えるこのお方が、今日は無邪気さすら見せている。
これがいつか銃を握り、悲劇へと突き進むかもしれないのだ。どれだけ恐れても、仕方がないというものだろう。
ベアトリーチェがお手洗いに行くというので、ユン・ジェがエスコートに立った。
「新しい茶を淹れるか」
ヤオが立ち上がる。その無防備にぶらさげられたアジア人の腕を、リザは引っ掴んでシンプルに絞めた。
「ングッ……おい小狗、これからはゴリラと呼んでやろうか」
「犬呼ばわりよりマシです。ウチのお嬢様が城を建てるとかどうとか、余計なことを言わないでもらえますか?」
リザが手放すと、ヤオの細腕が赤くうっ血している。やりすぎた。バレたらユン姉弟に殺される。
「なんだ、そんなことか」
「そんなことじゃありません。あの方が本気にされたらどうするんですか」
すると、リザを見下ろす視線がわずかに険しいものへ変わる。
「お前の方こそなにを言っている。たとえ放っておいても、名家に生まれなくとも、独りでにこの世を駆け上がっていく。そういう目をしていたぞ、お前のご主人様は」
「……あなたにお嬢様のなにがわかるんですか」
「お前に比べれば知らないことの方が多いだろう。だが、お前もまた、ご主人様のすべてを知っていると言えるのか?」
リザは答えに窮する。
ただのリザ・ストーンとして生きたこれまでの記憶に、後に悪役令嬢として振る舞う彼女の片鱗を見たことはなかった。
だが、あったとしたら?
「そう焦るな、小狗。そういうものだ」
記憶を掘り起こそうと沈思するリザに、ヤオは笑い混じりに言う。
「人も世も情報の塊だ、知れば知るほど面白いぞ」
「こっちは生き死にの話をしているんですが」
「その方が面白いだろ」
けろりとした顔で言うヤオ。リザは唇を尖らせつつ、茶の用意を手伝うため立ち上がる。
人嫌いにして人好き。そんなヤオは、興味の果てに愛するに至った主人公──クレアを守るため、駆け落ちを選択する。そう考えると、案外熱い男だ。
果たして今、彼の中で自分はどの程度「おもしれー女」に位置づけられているのだろうか。知ったところで意味はないけれど。
その夜、オニール邸のパウダールームにて。
風呂上がりのベアトリーチェの髪を梳かす。それはリザの主要業務の一つである。
業務と冠しているが、リザにとってそれはご褒美以外の何物でもない。麗しき主人の、絹のような髪に触れる。恐れ多くも極上の時間であった。
「ねえ、どんな代償を払ったの?」
不意に、主人は問いを投げつけてきた。
「……代償と呼べるようなものを払ったつもりはありませんが」
「ふふっ。質問を変えましょうか。彼を揺り動かしたものはなに?」
彼とは、ヤオのことだ。こうしてオニールに有利な立場になってくれたことに疑問を抱いているのだろう。ともすれば、麻雀仲間という嘘にも気づいているかもしれない。
どのように伝えるべきか。観察眼の鋭いお嬢様に下手な嘘をつくのはリスキーだ。
かといって、転生の事実を伝えるのもはばかられる。ここがヤオの言う〈仲間に引き込む日〉とは思えない。
苦し紛れに、リザはこう答えた。
「私のことをヤオに話しました」
「へえ。わたしにも聞かせて?」
「私の生い立ちなど、お嬢様はすべてご存知でしょう」
「ふうん」
ひとまずのところ、生い立ちを話して気に入られた……ということにしておく。これ以上深堀りされては困るが。
「彼もあなたが気に入ったのかしら」
「ヤオには既にプロフェッショナルの護衛が付いていますよ」
「優秀な付き人は何人居てもいいわ」
こちらを向いたベアトリーチェが、その細い手を伸ばしてリザの手を撫でる。
「あなたは、わたしのところに居てね?」
誘うような微笑は、その小柄な容姿から発されるとは思えないほど妖艶な色香を帯びる。
リザはその場で腰を抜かしそうになるのに耐えながら、
「言われずとも、そのつもりです」
かすかに震える声でなんとか言葉を返した。鼓動は刹那の内に跳ね上がり、心臓は今にも飛び出そうだ。
ともすれば、この方なりの嫉妬心の表れだったりするのだろうか。
「彼はたしか、中華系コミュニティとは距離を置いてるのよね?」
「はい。過去に色々あったようです」
「そう。オニールも人種的な問題で中華系とは距離があるから、彼を通して少しでも良い関係を築けたら……なんて思ったけど、欲張りすぎかしらね」
一転して、主人は思索に耽り始めてしまった。ポーカースマイルの真意は掴めぬまま、リザはその後なかなか寝付けない夜を過ごすこととなる。
なにはともあれ──ひとまず目標はクリアだ。主人に伝わった情報は組織へと伝播し、警戒網の構築に繋がっていく。
私とお嬢様の心中エンドは、回避されるに違いない。
◇
「お父様、いいかしら」
光沢のあるマホガニーの扉をノックするのは、長女のベアトリーチェ・オニールである。
そこはオニール邸において、執務室と称される部屋であった。
「親子なんだから、おれの部屋でノックなんていらねえよ!」
ドア越しにでも、その声は朗々と響いてくる。
「わたしの部屋に入るときにはノックしてね」
言いながら、ベアトリーチェがドアを開ける。すると、早々に煙草の臭いが鼻についた。
磨き上げられたシックな家具が並ぶ空間だが、落ち着きとは縁遠い空気が流れている。部屋に集う者たちが醸し出すものもあるのだろうが、天井付近で猛々しく吠える虎の剥製がその空気を作っているのは明白である。
そして、四つの視線がベアトリーチェを迎えた。
そこには三人の男と一人の女が居た。優しい目で見る者もあれば、虎もかくやという鋭さを有する者も。
ベアトリーチェは皆知己ゆえに慣れているが、そうでない一般人がこの空間を前にすれば、まず萎縮してしまうだろう。
「今日も元気ね、お父様」
「おう! もりもり元気だ!」
でっぷりとした体躯を特注サイズのパジャマで包み、太い喉から大きな声を発する壮年の男。彼は、名をフレデリック・オニールといった。
昼間にも関わらず寝巻き姿のこの男こそ、何を隠そう街を牛耳るオニール・ファミリーのボスである。
こうして見ると威厳もへったくれもないなと思いつつ、ベアトリーチェは父親のそばから向けられている優しい視線と目を合わせた。
「おはよう、ハワード。あなたも変わりない?」
フレデリックの傍らには、老紳士が背筋をピンと伸ばして立っていた。
付き人、ハワード・コリンズ。先代の頃よりオニールの家で働く古株にして、リザ・ストーンの育ての親である。
「おかげさまでございます、お嬢様。元気いっぱいの主人を持つと苦労が絶えませんので、丈夫な体もできようというものです」
「んなこと言って、おれの生気吸い取ってんじゃねえの?」
「間に合っていますので、いりません」
「かーっ! ケヴィン、なんとか言え!」
主人と付き人の言い合いは、応接テーブルで対面する男女の方へと飛んで行った。
自分に声がかかったと気付いた青年は、「へ?」と間の抜けた声を上げ、フレデリックとベアトリーチェの方へ交互に視線を泳がせる。
少年のまま背丈だけ大人になったような童顔。その手は泥臭い労働との無縁さを語るように小綺麗で、しなやかな指に挟まれた煙草が紫煙を燻らせている。
オニール家の長男、ケヴィン・オニール。顔立ちゆえにスーツが似合わぬ二十三歳にして、一応組織のナンバー2に当たる〈アンダーボス〉である。
豪快で横に広い父と並べて見るとまるで親子のように見えないが、既に亡き母に似ているのだという。ベアトリーチェも母似のため、父は時折自分似の子も欲しかったと嘆いているとか。
「パパ、僕を呼んだ?」
「そのヒョロい体どうにかしろって話だ」
「僕はそういうの嫌だっていつも言ってるじゃないかぁ……」
口をぽかんと開けてぼやくケヴィン。
その指に挟まれた煙草から、長い灰が机上の書類へこぼれ落ちる。ケヴィンは「あっ」とまた間の抜けた声を上げていた。
灰と書類の間に、スッと灰皿が差し込まれる。
ケヴィンの対面に座す老淑女は一部始終を見逃しておらず、おかげで「帳簿」と書かれた紙は汚れずに済んだ。
髪は総白髪のベリーショート。切れ長の鋭い眼光と瀟洒なスーツを着こなすその姿は、年齢どころか性別すら悟らせない。これでボスと同い年だというのだから驚きだ。
相談役、シャークリン・マクガヴァン。組織人としてフレデリックと時を共にして来た、ファミリーの屋台骨である。
相談役とは、つまるところボスの右腕を指す。アンダーボスの次に高い位に位置し、幹部たちよりも上の立場から組織の舵取りを担っている。
そんな彼女の傍らには、鳥の形をした持ち手を有する杖が置かれていた。
シャークリンは杖を手にし、それを支えにゆっくりと立ち上がった。
「あたしは外した方がいいかい?」
既にベアトリーチェの言外の意図を察知していたらしい。ケヴィンなどはきょとんとしながら新しい煙草に火を点けようとして、マッチを上手く点火できずにいるというのに。
「いいえ。みんなに聞いてほしかったから手間が省けるわ」
本当は幹部連中にも聞かせたかったが、今日はちょうど出払っている。しかしシャークリンに教えれば自然と皆に話は行くだろう。話を進めても問題はない。
ベアトリーチェは自分を囲む面々に今一度視線を巡らせてから、告げた。
「バーンズ兄妹と〈C〉が接触したそうよ」
にわかに室内へ緊張が走る。最も早く反応したのはシャークリンであった。
「どこからの情報かね」
「〈姚香店〉のヤオから、リザが引き出して来たわ。おばさまならご存知でしょう?」
シャークリンは耳にした情報を値踏みするように考え込む。
だが、声を上げたのはフレデリックだった。
「裏取れたらさあ、バーンズの奴ら獲っちまおう」
部屋中に沈黙が走る。たじろいでいるのはケヴィンただ一人だった。
「面倒くせえから前は手打ちにしたけどさあ、これ以上煮え湯飲まされたらたまんねえよ! 使えるコネとか全部使ってあらかた掃除しちゃおうぜ!」
「早計じゃないかい?」
あくまで冷静に、シャークリンが疑問を返した。熱くなったボスの意見を冷ますのも相談役の彼女の仕事である。
「そうだよパパ。抗争になるかもしれない」
「抗争にしねえためにやるんだよ」
シャークリンに同調するように上がったケヴィンの声を、フレデリックは真剣な面持ちで一蹴する。
「タレコミが本当なら事は起こる! ならこっちが主導権握ってやることやんねえと。おれなんか間違ったこと言ってる?」
豪胆にして柔軟。フレデリック・オニールの強みは正にそれだった。ビジネスの気配を察知すれば、それがどんなものであれ着手し権威を握る。業種も人種もこだわらず、使えるものはなんでも使う──その手腕で、オニールを街の巨人へと育て上げて来た。
そして、傍らには常に沈着冷静なシャークリンが居る。
「お前がそう言う時にはもう舵は切られている。行き先の安全確認があたしの仕事だ」
「頼むぜ、リンおばさん」
「黙りな狸ジジイ」
正に相棒。フレデリックとシャークリンの関係はそう言い表すほかなく、浮いた噂はこれっぽっちも存在しない。二人は互いに既婚者だが、それぞれ妻と夫に先立たれていた。
そんなシャークリンが杖を突いているのは、足に負った傷のためである。かつて、刺客の襲撃を受けたボスをかばったことによる負傷のためだ。
そして、フレデリックの腹には銃創がある。それは同じ襲撃に際して、撃たれそうになったシャークリンをかばった時のもの。幸い、厚い脂肪が命を守ったので大したことにはならなかったらしい。
互いが互いを庇い合う。便宜上は上司と部下に当たるものの、彼らのそれは対等な友情である。
通じ合う二人を見て、ベアトリーチェは自分にそのような者が居るだろうかとつい考えてしまった。
兄であるケヴィンは論外として、友人にしてヴィスコンティ・ファミリーボスの娘、クレアも少し違う。あるとすれば──最も自分によく従う付き人、リザだろう。
「しっかし、あのメイドも隅に置けねえなあ」
リザのことを考えている時に話題を振られたものだから、ベアトリーチェは必要以上に驚いてしまう。
「なんのこと?」
「あの中国人がボーイフレンドなんだろ? へへっ」
「ああ……いいえお父様。たぶんそういうのじゃないわ」
親世代の常として、男と女となればすぐに色恋の話にしたくなるものだ。いや、世の人々は皆そのようなものだろうか。
「なんでそう言い切れる?」
「だって……リザはわたしにメロメロだもの」
大真面目に言ったつもりだが、フレデリックは大笑いで返してきた。いつも笑い声はどでかいので、普通に笑っても大笑いになってしまうのだが。
切り出したい話題はもう一つあった。ちょうどいいタイミングだ。
「それとね、もう一つ提案があるの。そのリザのことなんだけど──」
数時間後、ベアトリーチェはシャークリンが一人になる時間を見計らい、彼女の私室へ向かった。
ノックすると、返事はない。しかし遠慮なく踏み込む。
まず出迎えたのは、紙とインクのにおいだった。
壁を埋める棚という棚に本が敷き詰められていた。年季の入った本はカバーや背表紙が焼け、棚は本の重みで歪んでいる。
そこは書斎と呼ばれていた。ファミリーの智はここに集結する。生き字引たるシャークリンが管理する、彼女の城である。
「おばさま、失礼するわ」
シャークリンは本を手に取るでもなく、ただ目を閉じ、椅子に座っていた。傍らには、鳥の持ち手の杖が立てかけられている。
眠っているようにも見えたが、その口がスッと開く。
「ちゃんとノックができる子に、失礼もなにもないさね」
棚の充実具合に比して、机はペンとインク、そして写真立てが一つという殺風景な状態だった。余計なものが何一つない部屋は、毅然とした彼女の有り様を体現しているようでもある。
「さっきの条件が不満かい?」
どうやら、先程の会議の続きをしに来たと思っているらしい。しかし結論は既に出ており、ベアトリーチェはそれを納得している。
「いいえ。リザならどんな試練でもやり遂げるわ。もっと大事な、秘密の話よ」
シャークリンは申し訳程度に置かれたソファを手で差し示したが、ベアトリーチェはそれを無視して言葉を続けた。
「お父様の容態について」
書斎に、耳が痛くなるほどの沈黙が訪れる。
「……知ってどうするね」
「わたしは良い家族、良い父親に恵まれたと思っているわ」
シャークリンの目が開く。興味を引けたと見ていいだろう。
「良い父親に死んでほしくないと思うのは、娘として当然のことじゃなくて?」
「人はいつか死ぬさ」
「小娘を煙に巻いて愉しい?」
「……言うじゃないか」
「事実を述べただけよ」
またしても、沈黙が二人の間を埋める。
「……本当に知らないんだよ」
ため息混じりに、シャークリンが漏らす。
その瞳が、勘案するように一瞬、右上へと泳ぐ。
「あくまでシラを切るのね」
「……敵わないね」
「まあいいわ。自分で探るから」
「そのための犬ってわけかい」
犬。それが何を意味するかは、理解している。
「犬じゃないわ。わたしの半身よ」
「あんたにそこまで言わせるとは。あのメイドがそんなにかわいいかい」
「ふふっ……かわいいわ。おばさまだって、息子はかわいいでしょう?」
「あんたのそれと親子のそれは別モンだよ」
「そういうものかしら。そういえば、息子さんはお元気?」
ベアトリーチェの位置からは見えないが、シャークリンの机に置かれた写真立てには親子で撮影した写真が収まっている。
シャークリンの夫は、オニールの元相談役だった。抗争で命を落とし、今はその後釜をシャークリンが務めている。
そして、彼女には息子が一人居る。だがマフィアの道に進むのを嫌がり、一般人として暮らしているという。
シャークリンの瞳が写真立ての方に向かい、かすかにほころぶ。
その視線が、右上へ泳ぐ。
「もう何年も会ってないからね。知らないよ」
「……そう。邪魔したわね」
今日は随分泳ぐのね。思い浮かんでも言葉にはせず、書斎を後にした。
ベアトリーチェはその足で電話室へと向かった。そして、手に入れたばかりの連絡先へと電話をかける。
『もしもし?』
見知らぬ男の声が応答する。中国語であった。
「喂、你好。ベアトリーチェ・オニールからとボスに伝えなさい」
『……少し待て』
こうなるなら紅茶でも用意しておけば良かったと思いつつ、ベアトリーチェはのんびりと次の応答を待った。やがて三分ほど経つと、
『お待たせしました』
と、ヤオの声が答える。通話先は〈姚香店〉である。
「シャークリン・マクガヴァンの息子の動向を探ってほしいの」
用件を簡潔に切り出すと、ヤオは返答に数秒の間を置いた。
『……我々は工作員ではないのですが』
「あら。聡明なあなたたちにこそふさわしいお仕事だと思ったのだけど。お金はちゃんと出すわ」
『身内をお疑いで?』
「少し違うわね。疑いたくないから調べるの」
『同じでしょう』
「中華系の方には、英語の細かいニュアンスは伝わらないのかもね」
『……まあいいでしょう、承りました』
電話が切れる。これでよし。
リザのおかげで、大きな危機は未然に防がれようとしている。
だが同時に、細かい懸念がいくつも眼前に現れ始めている。放置するわけにはいかない。いつ何が──そして誰が爆発するのか、わかったものではない。
ともすれば、最もそばに居る従者でさえも。
ベアトリーチェの口元は、平生のポーカースマイルを浮かべている。
〈To be continued〉
お読みいただきありがとうございます。
ここらで一区切りという雰囲気もありますが、まだまだ続くし明日からも更新があります。
ルビがどんどん増えていますが、いかがでしょうか。これを平常運転としてやっていきます。楽しんでいただけているなら幸いです……!




