Ep22.怪物
──いつから。
反射的に口から出そうになるのを飲み込む。それではまるで犯人の自白だ。
完全にバレたわけではない。まだ認める必要はない。
「……私はリザ・ストーンですが」
「下手な言い訳ならやめておくことね」
そう言うと、ベアトリーチェはカジノ用具の収まる箱の奥に手を突っ込む。
取り出された手には、拳銃が握られていた。
主人は弾倉を抜いて弾が込められているのを確認すると、スライドを引いて薬室に初弾を装填する。安全装置は解除済み。引き金を引けば、弾が撃ち出される。
そして、銃はルーレット台の上に置かれた。互いの中心──リザからも手が届く距離に。
「あなたは生まれた時からわたしの近くに居て、ずうっとわたしを尊んでくれている。よくわかってるわ。だからこそ訊くの。あなた、誰?」
リザはたまらず俯いてしまった。主人の顔を見ていられなかった。
見透かされている。変化も、敬慕も。ポーカーは表情を見る最終確認だったのかもしれない。
その上で、主人は命を賭けてこの場を設けていた。
互いの中心に置かれた銃がなによりの証拠だった。戦闘に長けたリザであれば一瞬の内にこの銃を手に取り、主人の脳天に風穴を開けることができる。
もはや対等ですらなく、主人はこのメイドに命を委ねていた。とりもなおさず、それは彼女なりの愛と信頼の表れである。
「……感服いたしました」
その信頼に、応えぬわけにはいかない。
私は、ベアトリーチェ・オニールの付き人だから。
『お前がこれからも未来を変えようと立ち回るなら、その武器を晒して仲間に引き込むという使い方をする日がきっと来る』
今が、その時だ。
だが、真実を──未来を教えれば、この好戦的な生来の勝負師は、ハードな未来の可能性へ突き進んでしまう。ともすれば、もっと凄まじい未来が待っている。
好機であり、土壇場だった。
嘘だけをつき通す力はない。真実の中に嘘を織り交ぜる。主人が悪役へと至る未来を切り抜け、そしてお嬢様の真なる信頼をも獲得する。
「言っても信じていただけないと思い、秘密にしておりました」
「ひとまず聞かせてちょうだい?」
信じていただけるという確約は貰えない。当然だろう。
リザはヤオと対峙した時のことを思い返しながら、一言目を告げた。
「お嬢様、輪廻転生はご存知ですか?」
「東洋思想ね。死んだ魂が生まれ直す、というようなものだったかしら」
「その通りです」
やはり博識だった。アンクの名前を古代エジプト語から提案した彼女である。こういった話題に明るいのも頷ける。
「途方もない話ですが、私は転生しており、前世の記憶を有しております。そしてこの世界は……私がよく知る物語の世界と酷似しておりました」
ベアトリーチェは驚く様子もなく「続けて」と促した。
「ゆえに、私はこの世界の未来をある程度知っているのです」
リザは乙女ゲームの内容を端的に説明する。ゲームどころかパソコンもない時代なので説明には苦労したが、読み手次第で結末が枝分かれする物語として主人はすぐに要点を理解してくれた。
「……面白い。そんな読み物を作ったらこの時代でも売れそうね。新しいビジネスにしようかしら」
やはり動じている様子はない。むしろこの状況を楽しんでいるようにすら見える。リザは既に冷や汗まみれだというのに。
「で、あなたが誰かという問いの答えは?」
「私は……あなたの知るリザ・ストーンであり、フウコ・ヨネヤマという日本人です。前世では芸能人の付き人をしておりました」
「その『であり』というのがよくわからないのだけど」
それについてはヤオの記憶についての言説が思い浮かぶ。が、それをヤオから聴いたということは伏せるべきだろう。
「これは推測になりますが、人の人格は経験や記憶によってできるもの。前世の記憶が混じり合ったことで、お嬢様には人が変わったように見えたものと思われます」
「誰の入れ知恵?」
だめだ。隠しきれそうにない。
「〈姚香店〉のヤオからです」
「ヤオにはあなたの秘密を教えたの?」
「やむをえず、教えました」
「なるほど、辻褄が合うわね」
彼女の中でどこの辻褄が合っていなかったのか、今となっては見当も付こうというもの。無口なメイドがいきなりおしゃべり中国人と仲良くなるのは不審すぎる。
「……うそつき」
小悪魔な笑みで、主人は一番痛いところを刺してきた。
「申し訳ございません……」
「いいのよ、少しくらいわがままな方がかわいいわ。それで……未来がわかるということは、私の行く末も知っているということ?」
来た。この話題になる時、どこかで来るだろうとは考えていた問いだった。
ヤオに言われたあの日から、リザはひそかに情報のリストアップを始めていた。誰を仲間にする必要があっても、提示すべき情報を提示できるように。そして、伏せるべき情報を伏せられるように。
それをベアトリーチェに使う日が来るとは思ってもみなかったが──無論、対策済みである。
「お嬢様の未来は、いわば……お家の没落です」
嘘ではない。オニールの家は、ベアトリーチェの舵取りの末に滅びる。厳密には、真実の言い換えだった。
「それは……わたしやファミリーに失策があるということ?」
「大きなきっかけは、今回ボスが狙われたこの抗争にあります。抗争でボスが亡くなることで、組織は大きく傾いていくこととなるのです」
「お父様が……?」
意外にも、ここでベアトリーチェが動揺の色を見せる。
彼女は身近な人間が傷つくことやその死に対して敏感な向きがある。
この隙を突けば──極めて失礼ながら──主人を言い含めることができるだろうか。
「お父上を失い、組織は巨大な求心力を失います。それに伴い、手広く展開している事業も縮小を余儀なくされます」
「もう少し詳細をちょうだい」
「申し訳ございません。先程ご説明した通り、これはクレア様を主人公とした物語。得てしてサブキャラクターというものは多くを語られないものなのです」
「そう……残念ね」
サブキャラクターゆえにすべてをつまびらかにできない。これは、リザが使える最強の武器であった。
事実、どのようにボス・フレデリックが殺されるか、リザは仔細を知らない。その真実は、リザに都合のいいように事を展開するカモフラージュとなってくれる。
「なるほど、それであなたはヤオと結託して、抗争の危険を早期にファミリーに知らせてくれたのね」
「はい。その上、ボスのおそばで身辺警護をすることになりました」
「お父様は自分の病状を娘のわたしにも教えないの。だからあなたに探ってほしかったのだけど……偶然はあるものね」
期せずして、ベアトリーチェが自分を派遣した理由が明らかとなった。あの優しいボスのことだから、娘にあまり心配をかけたくなかったのだろうか。
「ねえリザ、お父様の死は避けられないわ。なにか、没落を防ぐ手立てはあるの?」
リザは膝の上に置いている拳を小さく握りしめる。
想定されていた質問。それも、どうにかベアトリーチェに聞いてもらいたい内容であった。
ともすれば、自分はこの主人と想像以上のもので通じ合えているのかもしれない。
自信を持って、告げた。
「〈C〉を徹底的に、完膚なきまでに潰すことです」
会社、暴風、崩壊──Cの頭文字を冠する言葉を好み、それを使ったグラフィティを残すことから呼び名の決まったストリート・ギャング集団。
それは現にオニールと敵対しただけでなく、ゆくゆくはベアトリーチェ子飼いの暴力要員としてオニールに雇われる形で〈紅のオメルタ〉にも登場する。
今潰す。徹底的に潰す。それが、未来のためになる。
リスクはある。お家の没落に関しては真実の言い換えだが、今回はベアトリーチェの行動を〈C〉の壊滅へと差し向けている。いわば、嘘であった。
果たして、主人の反応は。
「なにを言ってるの? やれる限り容赦なくなんて当たり前のことじゃない」
わずかに陰りのある笑み──リザは自分が道を踏み外したことを悟った。
「その上で言うけれど、〈C〉を完全に断絶させるなんて不可能よ」
「……その心を、伺っても?」
「〈C〉はギャングたちの看板であり、同時に極めて現象的なモノなのよ」
主人の言葉に理解が及ばず、リザは続く言葉を待った。
「いつの世も不良は生まれるわ。どれだけ経済が発展しても貧富の差はあるし、都市は貧しい者たちを浮かび上がらせるようにできている。それに浮き足立った富裕層、ただの労働者、誰が暴力に目覚めたっておかしくない。会社の〈C〉なんてまっぴら嘘。それは都市社会の〈C〉と言うのが妥当なのよ」
リザは社会を、そして歴史を知らない。しかし主人の語るそれは、浅学の自分でも納得を覚える理論であった。今回の抗争で相手取った者たちが必ずしも貧しい人間たちだけでなかったことを、リザはよく知っている。
「都市社会があれば周縁化される者たちが出て、それが徒党を組んで時に悪さをする……盗賊から悪党、そして結社へ。発生と組織化は摂理よ。看板を変えてまた現れるわ」
「……お嬢様、失礼ながら。現に我々は〈C〉の襲撃で大きな損害を被っておりますが」
「すべては裏切り者という指揮者が引き起こしたことよ。今は兵士じゃなく、もう一つ上の階層の話をしているの」
リザ・ストーンという魔除けの石怪物が得意とするのは、正に彼女の言う兵士の階層──現場仕事という名の暴力行為である。
しかし、ベアトリーチェ・オニールの視座は更に上へと置かれている。リザを高みから見下ろし寵愛する彼女には、同時に一回りも二回りも高い位置から都市という盤面を見つめることが求められる。
──見ている景色が、違うんだ。
なればこそ、必要とする情報も変わってくる。眼前に迫る暴力のその先、時代と社会の荒波の中で舵を取るための道しるべ。リザは主人の羅針盤にならねばならなかったのだ。
「私はもっと未来とか、私の階層のことを聞きたかったのだけど……まあ、物語だものね。現実とは異なるところもあるし、難しいかしら」
「……お役に立てず、申し訳」
「謝らなくていいわ。〈C〉をどうにかするのは長いスパンで見た時に立派な課題よ。……そうね、あれは自然現象とは違う人工なもの。制御ができるわ」
「お嬢様?」
まただ。リザの本能が、背筋を震わせ訴えている。だが、訴えられても困るというのが本音だった。今のリザにできることは──本当の本当に、なにもないのだ。
「〈C〉を徹底して叩くと同時に、優秀な人員はこちらに引き込む。使える駒を増やすと共に、現象に対してアクセスするパイプを獲得する。そうすれば、現象をわたしのものにできるわ。どうせならもっと早くに実行すべきだったけど……もう手遅れかしらね」
「……名案かと、思います」
致命的なミスを犯した。
ゲームにおける後のオニール・ファミリーは、ストリート・ギャング〈C〉を取り込んでその暴力性をより高めていく。
やがて行き着く局地に、より早くお嬢様を連れてきてしまった。
「簡単じゃないのはわかってるけど、〈C〉をちゃんとした階層構造を有するように組織化して使うのも……いえ、謀反の可能性を考えると下手に大きくするのはよくないわね」
もはや彼女は思考の回転に身を任せ、リザのことなど歯牙にもかけない様子であった。リザは、開花の時を迎えた主人をただ見ているだけの傍観者と成り果てている。
だが主人の視線が、突としてリザに向き直った。
ともすれば、自分が明確な狙いを持って近づいたことがバレたのかもしれない。正直に言うか? しかし嘘をついたことが知れたらどうなる?
リザは心の中で、机上の銃を突きつけられる覚悟を決めていた。
「あなたは物語をふまえて、お父様を守るべきと考えた。そうよね?」
「はい。すべての始まりはボスの死にあると考えました」
「お父様が死ねばケヴィン兄様が跡を継ぐけれど、きっと次の舵取りはリンおばさまがすることになるはずよね。あなたの知る未来でおばさまや兄様はどうしているの?」
これ以上のミスを重ねるわけにはいかない。伝え方を間違えれば人生が詰む。私も、ベアトリーチェ様も。
「ケヴィン様は、家の代表としてご立派にお役目を務めておいでです。シャークリン様は……私の知る物語には、登場しません」
「では誰が兄様を支えていたの?」
一瞬の内に、クリティカルな問いが来た。
「おそらくリンおばさまも抗争で死んだのね。そう考えると、柱が要る。今の権力を保持しているならまだしも、没落するにしたって支柱が要るわ。お兄様は人格者だと思うけれど、それだけじゃ足りないもの」
自分の兄が誰かの支えを必要とする類の人物だということをよく理解しているどころか、それを堂々と前提にして議論のテーブルに乗せている。兄が成長してそれほどの大器を持つ人物になる、とは微塵も考えてもいないのだ。
怪物。
その化け物じみた美しさをも含めた異常な存在を前に、そう形容するほかなく。
リザは敬愛する主人を前にしながら、今にも吐いてしまいそうな心持ちだった。
「……あなた様です」
もう、吐いて楽になりたかった。
「お嬢様がブレーンとなって、お家の舵取りをしておられました」
失意のもとに俯きながら告げるリザの額から、一滴の汗が滑り落ちる。
部屋を沈黙が支配していた。ずっとどちらかが喋っていたからか、沈黙が妙に異様なものに感じられた。
いや、違う。
顔を上げる。
艶然とした笑みを浮かべた主人が、虚空を眺めていた。
この方の発する妖気とも言えるそれが、部屋の大気を歪めていたのだ。
手が震える。それは恐怖の震えであり──リザにとっての、歓喜の震えでもあった。
「お嬢様、一つお伺いしたいことが」
「なあに?」
「いつからですか?」
最初に訊けなかったこと。リザが今までのリザでなくなったことに、いつから気づいていたのか。
「最初から」
その回答を、どこか予想していたような気がした。それだけではない。見抜かれていたことを、主人が崇めるに足る人物であることを望み始めている自分が居た。
「正確には、疑いを抱いたのが最初──あの熱病のときね。前にハワードが言っていたのよ。真面目に育てすぎて、あなたの涙を枯らしてしまったかもしれない、と」
「父上が、そのようなことを?」
期せずして、リザは育ての父があまり見せることのなかった、親としての顔を知ることとなった。あのハワードがそのような言葉を漏らしていたとは。
「わたしが生まれる前からわたしに仕えることが決まっていた、美しいけもの。ストイックな銀の狼。ひたむきに仕えてくれるあなたを、わたしは愛していたわ。愛を注いでもブレることなく、仕事で返してくれるあなたをね」
びりびりと心が震える音がした。だが、愛されているのは自分であって自分ではない。過去のリザ・ストーンだった。
「でも……あの日から、注いだ愛が返ってくるようになった。言葉で、表情で、涙で、秘めた想いで。わたしはそれを嬉しく思うと同時に、疑ってしまった。嫌な女でごめんね」
当然だ。愛した人の変化には、愛しているほど敏感になる。前世において、売れるに連れて変化する担当アイドルを見てきた記憶が想起される。
「でも、変わり始めたあなたがわたしを愛してくれているって、確信があったの。だから、わたしはあなたにベットした」
「……お嬢様!」
リザは椅子から立ち、主人のそばに回ってひざまずいた。未だ体は震えていた。
我が主人は、どこまで底が知れないのか。
この方のことをもっと知りたい。
もっと仕えていたい。
もっと愛されたい。
戻れないところまで来たという確信。それでも、身を委ねていたいという決意。
「あなた様に対して秘密を抱えたこと、心より後悔しております。願わくば、願わくば……これから先も、わたしを側に」
「……ねえリザ。わたしも一つ訊いていい?」
「私に答えられることなら、なんでもお答えいたします」
この期に及んで主人から訊きたいこととはなんだろうか。なにを訊かれても、リザは正直に話す所存だった。
「そんなに身構えないで。ただの世間話……いえ、前世話よ。あなた、前は芸能人の付き人をやってたんでしょ?」
「はい。歌手とダンサーを足して愛嬌を足したような、そんな芸能人のことをアイドルといいます。そのマネージャーをしておりました」
「言うなれば、ただの一般人だったのよね?」
「はい」
なるほど、たしかに世間話ならぬ前世話だった。
「それにしては……人に暴力を振るうことに躊躇が見られないなと、思ったのだけど」
「正しきことを成すために、躊躇は必要ありませんから」
「そう……そうね。職業人として正しい認識だと思うわ」
主人はわずかに考え込むような間を置いてから、切り出す。
「あなたのことだから、さぞ優秀だったんでしょう?」
「いえ、人並みだったと思います。ただ、仕事に手を抜いたことはありません。担当へのモーニングコールから営業、大小さまざまな打ち合わせ……担当の身辺警護も」
「警護? 今と同じような仕事もしてたの?」
「いえ、今とは違います」
勤めていた事務所には専属の警備員も居た。マネージャーとしての仕事も多岐に渡ったので、現場での警護はノータッチだった。
「お嬢様も興行の世界のことはご存知でしょうが、ああいった世界には蛆が湧くものです」
「蛆。なんとなく想像はつくけど」
「出資者、スタッフ、共演者……数えだしたら切りがありませんが、言い寄ってくる輩が、誘惑しようとしてくる輩が居るのです。輝かしいアイドル生命に傷がつくかもしれないというのに、蛆にはそれがわかりません」
「続けて」
「なので、輩を尾け、厄介事の証拠を掴み、時には実力行使で担当アイドルを守っておりました」
担当アイドルのメンタルは、気丈な振る舞いの裏で消耗し続けていた。その隙に付け入ろうとする輩は後を絶たなかった。
風子は、嬉々としてそのリスクを片付けに行った。
基本的には、盗聴や盗撮により手にした証拠で脅す。それをゴシップ記者に流すといった戦い方もあったが、なんだかんだ暴力を使うのが手っ取り早くて効果的だった。
「前世でも格闘技を嗜んでおりましたので」
アンクのようになりたい──そんな気持ちが、ただのオタク女を生まれ変わらせた。性格を変え、行動を変え、従者として生きる米山風子になったのだ。
主人のポーカースマイルがかすかに揺らぎ、その笑みが濃さを増す。
「それで?」
「担当には秘密裏に動いていたのですが……どこかで露見したのでしょう。あげく担当をクビになり……人生までやめることになった次第です」
なんということはない、過去の仕事の話である。
プライベートの時間も使っていた上、スキャンダルになっては困るので誰にも話してこなかったが、もはやここは別の世界。輝かしいキャリアとして語り放題だった。
だが、話しすぎたことにはたと気づく。付き人は言葉ではなく行動で示すものと、父上に教わってきたというのに。
「お嬢様、申し訳ありません。喋りすぎました」
部屋に沈黙が流れる。なにか、お嬢様の逆鱗に触れてしまっただろうか?
だが──主人は、愉しげに爆笑し始めてしまった。いつも落ち着き払ったあのベアトリーチェ様が、腹を抱えて笑っている。
「リザ、あなた自分がなに言ってるかわかってるの?」
「お嬢様……?」
「あなた最高よ! この出会いは運命だわ!」
それは私の台詞です。そう言いたかったが、主人が楽しく笑われている時間を邪魔したくはない。
リザは黙って彼女の前にひざまずき続ける。そして真に解放された己自身、全身全霊で主人にお仕えできる喜びに浸っていた。
「リザ、どこかに置いてきた頭のネジを探してはだめよ。あなたはそのままで居て。わたしのためのリザで居なさい」
「そのようなお言葉……私の欠落はすべてお嬢様に埋めていただきました。これまでも、これからも」
主人はこれまでのキャリアをすべて肯定してくださった。ともすれば、米山風子という人間は生まれてくる時代を、場所を、立場を間違えたのかもしれない。だとすれば、今こうして彼女にお仕えする時のために生まれてきたのだろう。
ようやく見つけた。ようやくたどり着いた。リザ・ストーンと米山風子という両翼が揃って初めて正しい形を見せた石怪物。その真の姿でお仕えすることができる、最愛の怪物。
お似合いだ。
そう思いませんか?
〈To be continued〉




