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マフィアン令嬢の武闘派メイド~お嬢の闇堕ち防ぐため、不肖メイドは乙女ゲームを終わらせます~  作者: いかろす


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Ep15.運命の交差点-①

 メイド服を脱ぐことに、違和感を覚える。


 ボスの専属業務にメイド服は適さないということで、リザはスーツを身につけることとなった。長い灰色の髪は、ポニーテールに結い上げている。


 一口に付き人といえど、主人が変われば仕事も変わる。


 フレデリックの世話は基本的にハワードの仕事である。リザは付きっ切りというわけではなく、ボスの手足として動くことが日常業務となった。


 特に今は敵対勢力とのゴタゴタもある。番犬ガードであり猟犬ハウンド。それがボスの付き人という仕事であり、リザもその武力を遺憾無く発揮して組織に貢献した。


 ようやく新たな仕事とスーツにも慣れてきた一週間後。リザはハワードの運転するTフォードにボスと共に同乗していた。


 横に広いタイプの巨漢であるボスと並び、後部座席に収まる。新たに得た、光栄なる職務であった。


 ──お嬢様のところに帰りたい。


 まっすぐな本音である。もちろん口に出すわけにはいかない。


 主人と会っていないわけではないが、付き人として過ごしていた時と比べれば共にする時間は一割にも満たない。このままではお嬢様欠乏症に陥ってしまう。


 サイドミラーに視線をやると、背後を走るTフォードの姿が映る。また、この車両の前にも同型車が続いていた。時代の流行車とはいえ、こうも並んでいる光景は珍しい。


 いわゆる護衛車列コンボイである。列を構成するすべての車はとんでもない額をかけた防弾仕様になっており、基本的な防備は完璧と言っていい状態にあった。


 道すがらに緊張を振りまくような漆黒の車列の中で、側近として配置されているリザもまた、どうしようもない緊張を覚えている。


 だが、隣の人物はそうでもないようで。


「なあリザ、カンノーリ食う?」


 カロリーの化身のような体つきをした男が、カロリー爆弾を差し出して来ている。これ以上ない宣伝効果である。


「いただきます」

「よし、じゃあおれも」


 後部座席の二人が揃ってお菓子を頬張ろうとするが、運転席から「ボス」と声が立つ。自分が呼ばれなかったので、リザはそのままかぶりついてしまった。


「過剰に甘いもの、脂っぽいものは控えるようにと言われているでしょう」

「一口だけ! ハワードにもやるから」

「私はいりません」

「こんな日なんだからさあ……」


 二人のやり取りを聞きながら、リザは既に一本を平らげている。すっかりカンノーリが好物になってしまった。


 護衛車列の中心とは思えない弛緩した空気である。


 だが、それは車が頑丈だからとか、護衛がたくさん着いているからというわけではない。


 リザが今の任を得てから一週間。たったそれだけの期間で、情勢は激変していた。


 まず、問題になっていたならず者集団〈C〉だが、警察の協力を得つつ強行的な検挙と武力行使による排除を推し進め、街からみるみる内に消えていった。


 前々からオニールと敵対していたというバーンズ兄妹は、隣州を牛耳る組織との協力体制を築いて捜索網を敷いた。


 発見の折には軽い銃撃戦が起こり、数人の負傷者を出したものの拘束に成功。契約により、身柄はオニールでなく隣州の組織に預けられた。その後彼らがどうなったのか、オニールの面々は誰も知らない。


 つまるところ、脅威はあらかた去ってしまった。


 ヤオからの情報を手にした時点で事は大きく動くと見積もっていたが、ここまでトントン拍子に進むとは思ってもみなかった。はっきり言って、拍子抜けである。


 とはいえ、油断してはいられない。ボスはこの街の重要人物なのだ。常に防備態勢を敷き、不要不急の外出は控えるくらいのライフスタイルが重畳と言える。


 では、そんな彼がどうしてこれほど仰々しく外出しているのかといえば──それは、急遽決まった先祖の墓参りのためであった。


「リザ、俺の父ちゃんのこと覚えてる?」


 ボスはフランクに話しかけてくる。快活な振る舞いでズンズン踏み込んでくる気質は、見た目を抜きにすればクレアと似ていなくもない。


「いえ。私が拾われてきたときには既に亡くなられていました」

「そっか。そうだよなあ」


 現在のオニール・ファミリーを築き上げた先代のギャングたち。それはボス・フレデリックや相談役コンシリエーレ・シャークリンの父親世代に当たる。


 彼らは先代を強く尊敬していた。ゆえに毎年の墓参りは欠かさない。それも、命日に合わせて行くという徹底ぶりである。


 普段はケヴィンとベアトリーチェも同行し、その車にリザも同行していた。しかし、今年は年長組に限っている。


「ケヴィンは父ちゃんにも遊んでもらってたけど、ビーチェが生まれたときにはもうおっ死んでたからよ。特に思い入れないんだろうなあ」

「たぶん……?」

「ビーチェは顔に出ねえから。お前もわかんだろ? まあ流石に親だから、なんとな~くはわかるけどさ。無理やり連れてくのはアレだろ?」


 つまるところ、ベアトリーチェ様は墓参りにさほど乗り気ではないらしい。


 しかし、それを察して毎年の行事に連れて行かないという判断が下せるとは。なんというか、時代にそぐわない先進的な感性である。


「娘への気づかい、流石です。見習わせていただきます」

「お~いおい、褒めてもお菓子しか出ないよ?」


 新しいカンノーリが出てきた。何個食べても美味しいことには変わりないのでいただく。よく噛んで飲み込んでから、リザはふと浮かんだ疑問を口にした。


「ケヴィン様はどうされたのですか?」

「襲われるの嫌だからって引きこもってる」

「……そうですか」


 ケヴィンらしい理由だった。既に脅威が片付いているとはいえ、鎮火直後の街でも彼の目には危険に映るのだろう。


 今回の墓参りに参加しているのは、図らずも〈紅のオメルタ〉に登場しないオニール側の人物たちであった。


 万が一でもここを叩かれれば、上手いことゲームの歴史通りに進んでしまう。嫌な偶然もあるものだ。


「今年は行けねえかと思ったけど、なんとかなって良かったよ」


 こんな状況ゆえ、命日に行くかどうかは昨日まで協議していた。だが、脅威も片付いたのでいいだろうとシャークリンが了承し、今日がある。


「リザ、ありがとな」


 出し抜けに、隣の巨漢からあたたかい言葉が飛んできた。


「……急にどうされたのですか」

「娘たちと仲良くしてくれて。最近はケヴィンとも仲いいんだろ?」

「お話する機会は増えました」


 転生前はケヴィンとの接点などないに等しかったので、たった数度絡みがあるだけでも何十倍と関係値が上がったように見えるのだろう。


「ケヴィンは、まあ色々あったけど……ビーチェは生まれたときから母親が居なかったからよ。おれに似てない優秀な娘に育ってくれて嬉しいんだ。お前が居てくれたからってのもあると思ってさあ」

「そんな……ふふっ。ベアトリーチェ様の母代わりを務めた覚えは」

「そこまで言ってねえよ」

「そうですよね」

「お前があいつの趣味に付き合ってくれてんのとか、それも助かってんだ」


 趣味と言われて、真っ先に浮かぶのはカジノゲームだった。リザはゲームが得意ではないのもあり、特に付き合っている覚えはなかったが。


「色々悩んだんだけどよ、ゴチャゴチャ言うのもアレかなって思って。だからあいつの英国趣味にもあんまり口出ししねえって決めてんだ」


 思わぬところで漏れ出た、父の本音であった。


 今のオニールを構成する人員は多くがアメリカ生まれだが、その先代は移民である。特に中核を担うのは、アイルランド──英国と事を構えた国で生まれ育った者たちだ。


 己のルーツを知らない孤児のリザ。日本で生まれ育った風子。重なり合った二人は、期せずして民族的な対立に意識が向かない生まれである。


 ゆえにボスたちが持つ意識に共感こそできないものの、娘の英国趣味に思うところあるのは察せられた。


 だが、ボスはその気持ちを覆い隠した上で、親として放任しているのだ。


 リザは、端的に思ったことを口にしようと決めた。


「私は……ハワード様に育てていただいたこと、お嬢様のお側にお仕えできることを誇りに思っております。だからこそと申しますか──ボスのような方の娘として産まれることは、とても幸せなことなのではないかと存じます」


 この人には生きてもらわねばならない。ベアトリーチェを悲劇の運命から救い出す手助けをしてもらわなくては。


 それを抜きにしても、この人には生きていてほしかった。家族のそばに一秒でも長く居てあげてほしいのだ。


「これからも、お嬢様のことをよろしくお願いします」


 恭しく頭を下げる。尊崇すべきボス・オニールに。


 すると、フレデリックはたちまち吹き出した。


「そりゃこっちの台詞だよ」


 他愛ないやり取りのさなか、リザはベアトリーチェとのやり取り──否、指令を思い出していた。「お父様について何かあったら教えて」というものだ。


 正直なところ、皆無であった。


 彼女がなにを想ってあのような指令を出したのか、未だリザには皆目検討もつかない。相手はただの気の良い富豪にして、良き親である。


 都市を進んでいた車は、いつの間にか郊外に差し掛かっている。ハワードのゆるやかな運転は精密で乗り心地が良く、会話に夢中になっている内にだいぶ運ばれていたらしい。


「ビーチェがお前をここに寄越した理由、わかったかもな」

「それは……私のスキルアップのためでは?」

「それだけじゃねえ。あれはお前を共犯者アコンプリスにするつもりだぜ」

「ボス」


 ずっと黙っていたハワードが口を開いた。


「止めるなハワード。おれたち耄碌ジジイの時代もそろそろ終わるんだ」

「あなたと一緒にしないでください」

「おいおい、付き人の台詞かそれ?」


 会話の中、リザは一人置いていかれている。ベアトリーチェの真意とはなんなのか。ボスは隠すつもりはないらしく、どことなく悲しげな笑みを浮かべつつ口を開く。


「リザ、警戒を」


 だが、先んじて声を発したのは、尊敬する育ての父であった。


 その時、連続する銃声と共に前を走る車両が火花を散らした。


 リザはボスを伏せさせ、自分も身をかがめる。


 車列が一斉にスピードを上げ、横からの襲撃を振り切った。銃撃は追いかけて来ない。


「バカな野郎が居たもんだ。敵討ちか?」


 フレデリックがぼやく。リザの目にも、一瞬だが襲撃者の姿は映っていた。銃を構えていたのは、これといった特徴のない青年であった。


 リザは座席の下部に手を伸ばし、アタッシュケースを開けて中身を取り出す。


 トンプソン・サブマシンガン──通称トミーガン。この時代を象徴する短機関銃である。


 頑強に作られたその銃は、弾薬を含めれば五キロを優に超える重量を誇る。だが、リザの腕力なら問題はない。むしろ重い分支えやすく、連射がしやすいくらいだった。


 防弾仕様の車体に守られている今、下手に迎撃に出るのは危険だ。応戦は真に追い詰められた時になるだろう。


 と、思った矢先。横の民家から突如車が発進し、車列目掛けて突っ込んできた。


「揺れます」


 ハワードの華麗なハンドリング。捨て身の特攻は難なく回避された。


 だが、捨て身の車両はリザたちの後ろを走る四両目と衝突し、共に横転した。


 その上、横転した車体と、更に後ろを走っていた五両目が衝突。スピンを繰り返しながら、煙を上げる五両目が停止した。


「リン……!」


 ボスが珍しく怯えた声を上げる。


 車列の五両目にはシャークリンが乗っていた。死んでいるとは限らないが、こればかりは祈るしかない。六両目も背後で停止し、車列は三台になってしまった。


「待ち伏せですね」


 ハワードが言うのと同時に、車列は進行方向を変えている。

 小型無線機や携帯電話のないこの時代において車両間の連絡は不可能の筈だが、そこは阿吽の呼吸というやつか。テクノロジーを抜きにした原始的な連携の妙である。


 残った三台は配置を変え、ボスが乗るこの車両を真ん中に配置する。


 周囲の景色は郊外の住宅地から、徐々に高い建物の並ぶ都市部へと戻りつつあった。


「リザ」


 必要最小限の指令。


了解コピー


 リザはサイドミラーの景色を確認しつつ窓を開放し、トミーガンを構える。


 背後では銃撃戦が始まっていた。いつの間にか現れた追手の車と、後ろの三両目がお互いに弾丸をバラ撒き合っている。


 リザは大胆に窓から身を乗り出し、迫り来る敵車両へと銃口を向けた。敵は左右に大きく蛇行を繰り返している。


 よく観察する。敵車両が左にグンと動き、右へとハンドルを切り直す、その瞬間。


 筋肉でしかと銃を固定し、引き金を引く。一分間に六百発の速度を誇る苛烈なフルオート連射が弾丸の集中豪雨を敵へと叩き込む。


 確かな手応え。運転手を貫かれた車は蛇行を繰り返した末、街灯に衝突して停止した。


「一台撃破」

「流石はウチのメイド!」


 ボスの声は外まで朗々と響いて来る。リザは顔をほころばせるが、緊張は解かない。


 追手はまだ続いていた。法令違反のスピードを出しながら、二台の車がこちら目掛けて弾丸をバラ撒いて来ている。


 今はまだ同朋が後ろを固めてくれているが、防弾とはいえ長くは保たないだろう。


 ──早々にケリをつける。


 弾丸の消耗を気にせず、リザはフルオートで掃射する。敵は防弾車を用意できるほど周到ではないらしい。フロントガラスが割れ、車体に穴が開き、運転手の頭が弾け飛ぶ。


「次!」


 追手は残り一両。弾倉の銃弾は残り少ない。どこを狙うべきか。運転手を殺すのが最も早い。


 その時、背後を走る三両目の後部で赤い飛沫が弾けた。背後の道路へトミーガンが落下し、去って行く。迎撃担当が撃ち殺された。


 それに呼応するように、三両目へと大量の弾丸が浴びせられた。硝子が割れる音。リザの視界で、椅子を貫いた弾丸が運転手の頭を吹き飛ばした。防弾ガラスに血飛沫と脳漿が飛び散る。


 三両目が横に逸れ、敵車両とリザが対面する。既にフロントガラスが割れており、青ざめた顔の運転手と拳銃を構える慌てた助手席の男が丸見えだった。


 ──この程度のチンピラに、私の同胞が。


 引き金を引く。男たちの体を銃弾が引き裂く。まだ息がある。


 そこで、銃撃が止まった。弾切れだった。


 残り弾数は把握していたが、頭に血が上っていた。このままでは撃たれる。


 だが、運転手が血のあぶくを吐きながら運転を誤り、横のビルへと突っ込んで行った。ひとまず、追ってくるような車両の影はない。


 ──敵に救われた。


 体を引き裂かれながらでも人間は銃を握れる。どんな時でも冷静に対処せねば。


 安堵してはならない。緊張を高めるよう己に言い聞かせる。ここが運命の交差点フェイタル・クロッシングだ。まずは弾倉を交換し、まだ来るかもしれない追手に備えなければ。


 その時、あのハワードが珍しく声を荒げた。


クソったれ(ファック)!」


 強い衝撃と共に、乗り出していたリザの身が車外に放り出される。


 宙に浮きながら、リザは車に何が起きたかを視認していた。


 車の前で、スーツをまとった恐ろしい巨女が吹っ飛んでいた。


 なぜ女とわかったのか疑問に想うほどの巨体。自ら道路に飛び出して来たそれと衝突した結果、防弾車の正面は大きくへこんでいた。


 猛スピードを出していた車は勢いままに左に逸れ、そのまま街灯と衝突して停止する。


 落下したリザの体を強い打撲が襲う。視界が色を失い、やがて白に染まる。


 〈To be continued〉

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