第4章:声なき声
夜になると、山田さんの不安は一層高まることがあった。暗闇の静寂が彼の中の孤独感を増幅させ、ベッドから起き上がろうとしてしまうことも珍しくなかった。里美はゆっくりと手を差し伸べ、身体を支えながら「大丈夫ですよ」と優しく語りかける。それだけで山田さんは小さく頷き、再び布団の中へと戻っていった。
言葉にできない不安を和らげるため、里美はスマートスピーカーを使って穏やかな歌声を流し始めた。懐かしい唱歌や童謡が、山田さんの心に優しく響き渡る。音楽が場を満たす中、二人は無言で互いの体温を感じあい、切れかかった信頼の糸を再び結び直していった。目を閉じれば、遠い記憶の中で誰かと過ごした温かな夜の情景が蘇るようだった。
その夜、里美は山田さんの枕元に小さなノートを置き、「何か書きたいことがあったら、いつでも使ってください」と伝えた。言葉にできなかった思いを文字として残すことで、少しでも安心へつながればという願いを込めて。翌朝、ノートの最初のページには小さな丸が描かれており、里美はそれを見つけて胸がきゅんとした。互いに見えない声を見つけ出し、受け止める時間が静かに積み重なっていった。