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攻めの盾

「……さて、最後はアレン。お前だ」

ガンツが作業台の端にある、最も大きな包みに歩み寄る。

フィンは自分の世界に入り込み、カイは新しい剣の感触を確かめている。

俺は静かに一歩前へ出た。


「お前の注文は、師匠バーンズの技……『カウンターインパクト』を再現するための盾、だったな」

「ああ」

「正直、難題だったぜ。盾ってのは本来、衝撃を『殺す』もんだ。それを殺さずに『流す』なんざ、盾としての在り方を否定するようなもんだからな」

ガンツが苦笑しながら、バサリと布を取り払った。


そこに現れたのは、俺が長年愛用してきたあの大盾だった。

だが、その姿は大きく変わっていた。

表面の無数の傷跡はそのまま残されているが、その縁や裏面が、鈍く銀色に輝く金属で幾重にも補強されている。


「表面の装甲はあえて張り替えなかった。お前の戦いの『癖』が染み付いた傷だ。下手に直すと感覚が狂うからな」

「ありがたい。……だが、中身は別物か?」

「ああ、裏を見てみな」

言われて盾を裏返す。

俺は息を呑んだ。 持ち手の周辺から盾の端に向かって、血管のような複雑な銀のライン――ミスリル銀の回路が張り巡らされていたのだ。


「以前入っていた衝撃吸収材は全部引っこ抜いた。代わりに、振動伝導率の高いミスリルで『衝撃の通り道』を作ってある」

ガンツが真剣な眼差しで説明する。


「敵の攻撃を受け止めた瞬間、そのエネルギーはこの回路を通って一度中心の『核』に集束される。……そこでお前がタイミングよく盾を押し込めば、溜まったエネルギーは倍になって相手に跳ね返る」

「……つまり、タイミングを誤れば、吸収されなかった衝撃がすべて俺の腕にダイレクトに来るということか」

「そうだ。失敗すれば腕の骨が粉々になる。……まさに『諸刃の防御』だ」


俺は黙って盾を持ち上げ、左腕に通した。

守るためだけの重さではない。

敵を砕くための、攻撃的な重さだ。


「……いいな」

軽く構えてみる。

不思議と、師匠の背中が近くに感じられた。

あの人が命を削って体現していた「守りながら攻める」という境地。

この盾があれば、今の俺でもそこに手が届くかもしれない。


「礼を言う、ガンツ。これなら、あいつらの無茶な攻撃に合わせて、俺も前へ出られる」

「へっ、死んだバーンズに笑われねぇように精々気張るんだな」

ガンツは照れくさそうに顔を背けた。


これで、全員の武器が揃った。 フィンは「魔導抜刀術」の刀。 カイは「重力操作」の剛剣。 そして俺は、「衝撃転換」の大盾。


一週間前、ボロボロの状態でこの店に来た時とは、纏っている空気が違う。

俺たちは顔を見合わせた。言葉はいらなかった。

「行くぞ」 「はいっ!」 「了解です」


俺たちはガンツに向かって深く頭を下げ、店の出口へと向かった。

「おい」

扉に手をかけた時、背後からガンツの声が飛んできた。


「……壊したらまた持ってこい。次はもっと凶悪に直してやる」

振り返ると、偏屈な鍛冶師はニヤリと笑い、親指を立てていた。

俺たちも笑って頷き、扉を押し開ける。


武器屋を出た俺たちは、近くの酒場に腰を落ち着けていた。

テーブルには冷えたエールのジョッキと、さっき受け取ったばかりの新しい「相棒」たちが置かれている。




「……さて、カイ。祝杯の前に少し真面目な話をしよう」

団長がおもむろに懐から羊皮紙の束を取り出し、テーブルに広げた。


「今後について、だ」

「今後、ですか?」

俺は眉をひそめる。


「俺は冒険者、2人は騎士団だ。今回は調査の流れで共闘したけど、一通りの区切りは出来たしここら辺でお別れじゃないの。……正直、名残惜しくはあるけど」

この二人との連携は心地よかった。だが、住む世界が違う。

騎士には騎士の規律があり、俺には俺の自由な生活がある。

これ以上一緒に行動すれば、互いに不都合が出るはずだ。


「本来ならな。だが、状況が変わった」

団長が羊皮紙の一枚を俺の方へ滑らせる。

そこには王家の紋章と共に『特務遊撃隊・結成命令書』と書かれていた。


「特務……遊撃隊?」

「ああ。最近、各地で通常の騎士団では対処しきれない『異常個体』の目撃例が増えている。……前回戦ったドラゴンもその一つだ。そこで、身軽に動ける少数精鋭の部隊が必要になった」

団長はニヤリと口角を上げた。


「そこで俺が、お前をスカウトしたってわけだ」

「俺を? 騎士団の上層部が、素性の知れない冒険者を隊員にするのを認めたんですか?」

俺が尋ねると、横でフィンが「プッ」と吹き出した。


「そこが面白いところなんだよ、カイさん。団長ったら、タヌキみたいに上手く上を丸め込んだんだ」 「丸め込んだ?」

団長は肩をすくめ、声を潜めた。


「上層部はお前の力を恐れている。駆け出しの冒険者が騎士団の団長クラスと同等に肩を並べて戦っていたから国としては『まだ』野放しにしておくのが怖いのさ。……だから、こう言ってやったんだ」

フィンは咳払いをし、堅苦しい団長の口調を真似てみせた。


『カイ・ロウガはまだ得体の知れない存在です。彼を監視下に置き、万が一暴走した際には即座に処断するためにも、私の部隊に同行させる許可をいただきたい』

「……なるほど」

俺は苦笑した。

つまり、表向きの名目は『不安因子の監視』というわけか。


「ひでぇ言い草ですね。俺はいつ処刑されるか分からない囚人扱いですか」

「それはあくまで『建前』だ。俺の『本音』は違う」


団長の目が、鋭く、けれど真っ直ぐに俺を射抜いた。


「俺は見たからな。お前がその力で、仲間を守るために戦う姿を。……監視なんざ知ったことか。俺はただ、背中を預けられる『最強の矛』が欲しいだけだ」

「僕も大賛成だよ! カイさんみたいな面白い人がいないと、退屈で死んじゃうしね」

フィンが身を乗り出し、俺のジョッキに自分のジョッキを軽くぶつけた。


「それに、この『特務隊』の権限はすごいよ。面倒な手続きなしで高ランクのダンジョンに入れるし、報酬は騎士団の特別予算から出る。……冒険者としての自由を維持したまま、美味しい汁だけ吸えるってわけ」

「……悪党だな、お前らも」

俺は呆れたように言いながら、契約書に目を落とした。

『特務遊撃隊 外部技術顧問』。

監視対象などではなく、対等なパートナーとしての待遇。


俺の中の『冒険心』が疼いた。

この二人となら、この退屈な世界でもっと面白い景色が見られる気がする。


「……いいでしょう。その『監視任務』、協力してやりますよ」

俺はニヤリと笑い、契約書にサインをした。


「だが、俺が暴走した時は容赦なく斬ってくださいよ? ……ま、その新しい盾で俺の剣が防げればの話ですが」

「望むところだ。その時はきっちり倍にして返してやる」

団長――いや、隊長が、嬉しそうに俺の手を力強く握り返した。


「よし! 契約成立だ!」

フィンが声を上げ、改めてジョッキを掲げた。

「新生『特務遊撃隊』に!」

「「乾杯!!」」

グラスがぶつかり合う音が、酒場に響いた。

重力使いの冒険者、抜刀術の魔法使い、そしてカウンター使いの騎士。

いびつで、だからこそ最強のパーティが、ここに正式に誕生した。

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