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魂の武器職人

「んで、そこの坊主とアレンはどんなのがいいんだ」

ガンツがぶっきらぼうに尋ねる。


「....俺、自分にどんなのが合うのか分からないんです」

「はぁ?今までなに使ってたんだよ」

「今まではただのありふれたロングソードを使ってたんですけど、これを機に自分に合った武器のタイプを見つけるのもいいかなって」

「なるほどなー、まあ冒険者始めたての奴らは何も考えずにロングソードを選びがちだからな」

そう言うとガンツさんが奥から3本の剣を取り出してくる。

3本とも見た目は同じで刃も薄鼠色で柄も皮で覆われていて前の俺のロングソードとほとんど変わらない。


「この3本の中で1番使いやすい奴を選べ」

そう言って俺の目の前にずらっと並ぶ。その中でまず1番右のロングソードを選ぶ。

剣先を立てゆっくり腕を上げる。


「おいおい!試し斬りは隣の部屋だ!こんなとこで振り回すんじゃねえ!!」

ガンツさんが焦って俺の腕を止める。

「あ、ごめんなさい....」


「ったくお前の周りのヤツはおっかねえやつしか居ねえな、肝を冷やすぜ」

「すまない、2人とも気をつけてくれ。一応古い付き合いなんだ」

「ごめんなさーい」


隣の試し斬り部屋に移動し、また構え直す。

軽く一振りをする。


ビュオォォ.......


空気を切り裂く音がする。だがこれじゃない。


次のロングソードを手に取り、一振り。


ピュゥゥゥゥ......


先程より鋭く空気が裂ける。けどこれも違う。


最後のロングソードを手に取る。

手に程よい重量感が伝わる。

スっと剣先が上がる。そして振り下ろす。


ヒュンッ......


前の2本よりも短く音も小さい。

だがこれがいい、力が音に逃げずに真っ直ぐ剣に伝わる。


「ガンツさん、これ、これがいいです」

「あぁ、そうだろうな」

ガンツがニカッと笑う。


「実はな、この3つの剣は素材や作り方はほとんど一緒だ」

「え、でもかなり違うように感じました」

「あぁ、坊主、あんたかなり感覚が鋭いな。普通の奴は違いにあんまり気付いてねえから俺が振り抜きの音で選んでやってんだよ」


ガンツが溜息を吐きながら呆れるように言う。


「これってなにが違うんですか、なんか重さが少し違うように感じたんですけど」

「あー、半分正解だな。こいつらは重心の位置が違うんだ」

「重心の位置??」


スっとガンツが3本の剣を手に取る。


「1番初めのやつが重心が柄寄りだな、軽く感じやすくて振り抜きや切り返しが早いが力を上手く乗せられねえ、剣が本職じゃなくてサポートとして使う奴が選びがちだな」

そう言って剣を持ってブンブンと振り回す。さっき自分で店で振り回すなって言ってたのに...


「んで、最後のが剣先寄りだ。小手先で誤魔化しが効かねえからこれを選ぶやつは基本剣職の奴だな、扱いが難しい分力が伝わりやすいから破壊力は抜群だ。2本目のはこの2つの間みたいなもんだから中途半端なやつには丁度いいだろうな。剣職でこれを選ぶやつにろくな奴は居ねえよ、ケッ」

なんか嫌な奴でもいたのかな......


「とりあえずお前の剣士としての才覚は分かった。あとは戦闘スタイルによるんだが」


俺は少し考え、拳を握った。

今の俺にあるのは、溢れ出る魔力と、強化された肉体だけだ。

小細工はできない。


「……前線で相手との距離を詰め、一撃で仕留めます」

「ほう、一撃必殺タイプか」

ガンツが髭をジョリジョリと撫でる。

その目が、値踏みするように細められた。


「悪くはねえ。……だが、その一撃が効かなかったらどうする?」

「え?」

「初撃を防がれたら? 避けられたら? 相手がその一撃より硬かったらどうするんだ」

意地悪な質問だ。

後ろで団長が心配そうに見ている視線を感じる。


だが、答えなら決まっている。

「……その時は」

俺はガンツを真っ直ぐに見据えた。


「相手に効くまで、斬り続けます」


「…………」

ガンツが真顔になり、沈黙が落ちる。

怒らせたか? と思った次の瞬間。


「……く、グハハハハハハ!!」

店が震えるほどの爆笑が響き渡った。

ガンツは腹を抱えて笑った後、涙を拭いながら俺を見た。


「いやぁー、お前みたいな奴は嫌いじゃねえ。いいねぇ、『効くまで斬る』か。最高に馬鹿で、最高に理に適ってやがる」

ガンツはニヤリと笑ったが、すぐに真剣な職人の顔に戻り、腕を組んだ。


「……だが、悪いな。お前のそのデタラメな要望に応えられる剣は、今の在庫にはねぇよ」

「えっ……」

俺は言葉を詰まらせた。

さっきの笑い方からして、何か奥の手があるのかと思ったのに。


「当たり前だろ。お前が求めてるのは、普通の剣としてのバランスを保ちつつ、規格外の耐久力と質量を持った剣だ。そんな都合のいいモンが転がってるわけねぇ」

ガンツは作業台の方へ歩き出し、無造作に置かれた鉱石――黒く光るグラビテントの塊を手に取った。

「だが、作ることはできる」

「作る?」

「ああ。このグラビテントをベースに、お前の重心の癖に合わせて一から打ち直す。最高の一振りを打ってやるよ」

ガンツの目がギラリと光る。

それは商人の目ではなく、己の技術をぶつける獲物を見つけた職人の目だった。


「本当ですか!?」

「おうよ。……ただし、時間はかかるぞ。素材の加工だけで三日は欲しい。焼き入れと研ぎも含めれば、最低でも一週間だ」

「一週間……」

俺は少し考え込む。

一週間、武器なしというのは致命的だ。

依頼が入るかもしれないし、いつ襲撃があるとも限らない。


「あの、その間の代わりの武器があればいいんですが……」

「分かってるよ。丸腰で帰すわけにはいかねぇからな」

ガンツはため息交じりに、店の隅にある樽から一本の剣を引っ張り出した。

鞘もなく、装飾もない。

ただ分厚いだけの、鉄の棒のようなロングソードだ。


「練習用の量産品だ。切れ味は期待するな。その代わり、分厚く作ってあるから頑丈さだけは取り柄だ」

俺はその剣を受け取る。

ずしりと重いが、バランスは悪い。


「……正直、使いにくいですね」

「文句言うな。それが嫌なら、早く自分の型を完成させておけ。新しい剣が出来上がるまで、そいつで我慢しな」

ガンツはニカッと笑い、俺の背中をバシッと叩いた。


「一週間後にまた来な。とびっきりのを仕上げて待っててやる」

俺は「代用品」の柄を強く握りしめた。

使いにくい。だが、だからこそ待ち遠しい。

この店の頑固親父が作る「俺だけの剣」が、どんなものになるのか。


「……分かりました。楽しみにしています」

「おう! 代金は完成した時でいい!」



俺が予備の剣を腰に差すと、ガンツの視線は最後に団長の方に向く。


「で、最後はアレン。お前はどうするんだ。いつものようにガチガチに補強して直すか?」

ガンツがボロボロの大盾を撫でながら尋ねる。

だが、団長は少し沈黙した後、意を決したように口を開いた。


「……いや、ガンツ。今回は少し、注文を変えてくれ」

「あん? 珍しいな。お前が守り方を変えるのか?」

「ああ。実は……師匠、バーンズからあるスキルを引き継いだ」

「バーンズ……って、あの『鉄壁のバーンズ』か?!」

ガンツが驚いて目を見開く。 俺たちもその名前に反応した。

団長もバーンズさんの技を受け継いでいるとは初耳だ。


「ああ、師匠の十八番の『カウンターインパクト』を受け継いだ」

団長が拳を握りしめる。

「相手の攻撃を受け止め、その威力を殺さずにそのまま相手に送り返す。だが、今のこの盾じゃダメなんだ」

「……なるほどな。今の盾の構造じゃ、衝撃を『吸収』しちまう。カウンターとして跳ね返すには、衝撃の逃げ場がねぇ」

さすがガンツだ。

団長の説明だけで瞬時に理解したらしい。


彼は顎髭を弄りながら、ニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。

「面白い。つまりお前は、ただ耐えるんじゃなく、守りながら敵を食い殺す『牙』が欲しいってわけか」

「……言い方は悪いが、まあそうだ」

団長がバツが悪そうに頷く。


「いいぜ、ならば設計をガラリと変える必要があるな。衝撃を吸収するクッション材を減らし、代わりに振動伝導率の高い『ミスリル銀』の回路を盾の裏に張り巡らせる」

ガンツが作業台のチョークを走らせ、盾の上に新たな構造を描き込んでいく。


「受けた衝撃を盾全体で増幅し、お前の技の発動に合わせて一点に集中させる機構だ。……これなら、ドラゴンのブレスだろうが何倍にもして返せるぞ」

「……そこまでいくと、俺の体が持つか心配だがな」

「なに、技を使うお前が鍛えりゃいいだけの話だ」

ガンツが淡々と話す。

団長も、仕方ないなといった様子だった。


「違いない。……頼んだぞ、ガンツ」

「おうよ」

急に会話が途切れる


「なぁ」

ガンツが団長に話しかける。


「バーンズからスキルを引き継いだって言い方をするってことはよ」

「あぁ、そういうことだ」

団長は短く、けれど否定せずに答えた。

二人の間に、俺たちには入り込めない沈黙が流れる。


「そうか、バーンズはお前らに未来を託したって事でいいんだよな」

「あぁ」

「それなら、こっちのジジィもお前ら為に一肌脱ぐしかねえな」

ガンツは静かに天井を見上げた。 その横顔には、かつての友を偲ぶような哀愁と、それを受け継ぐ者たちへの新たな決意が宿っていた。


「よっしゃ、お前ら。武器のことは任せろ」

ガンツが俺たち三人をゆっくりと見回す。


「俺が、お前らの120%を引き出せる武器を作ってやるよ」

静かに語られたその言葉は、どんな大声よりも重く、熱く、俺たちの胸に響いた。

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