別れ
視界の裏側で、無機質な文字の羅列が流れていく。
-カイのレベルが上がりました-
-カイのレベルが上がりました-
-カイのレベルが上がりました-
-カイのレベルが上がりました-
-カイのレベルが上がりました-
-スキル《縮地》のレベルが上がりました-
-スキル《縮地》のレベルが上がりました-
-スキル《縮地》のレベルが上がりました-
-スキル《縮地》のレベルが10に上がったためスキル《縮地・極》を入手しました-
意識がまどろむ中、情報の奔流は止まらない。
-デステニードラゴン個体名『リュウ』からスキル継承の権利を得ました-
-個体名『リュウ』から3つの選択肢が与えられました-
-《竜王の気》 《戦士の誉》 《次元破り》-
-3つの中から1つ##&$€%-
-システムを修正します-
-完了しました-
-3つの中から3つ好きなスキルを受け取れます-
-スキルの継承が完了しました-
そして、次に流れてきたログに、俺の思考は止まった。
-個体名『バーンズ』からスキル『決死の一撃』を継承しました-
「……隊長」 胸の奥が熱くなる。あの人の魂は、確かに俺の中に刻まれたのだ。
-スキル《剣士の誉》の影響でスキル《衝撃波》が進化します-
-スキル《インパクト》を獲得しました-
-属性『究極属性』 属性『ヴォイド』を獲得しました-
頭の中にどっと情報が流れてくる。
「新スキル3つに進化スキルが2つか、それに新しい属性も増えたし....」
ふと目が覚めた。 重い瞼を開けると、辺りは漆黒の闇だった。
「そういえば、まだ谷底か……。団長ー、フィンー」
返事はないが、近くで二人の寝息が聞こえる。生きている。
『属性変化(光属性)』
以前よりも遥かにスムーズに、息をするように光が灯る。 ふわっと周りが明るくなり、すぐ隣で大の字で寝ている団長と、杖を抱いて丸まっているフィンが確認できた。
「ん……? 眩しっ。……ってカイ? 怪我、大丈夫そう?」
フィンが目をこすりながら身を起こす。
「まあな。流石に全身痛いけど、団長ほどじゃないよ」
「そっか。団長も生きてるし……一旦は、一件落着?」
「だといいけどね」
「まだ一件残ってるだろうが」
低い声と共に、団長がむくりと起き上がった。
「うお、仏頂面っ」
「生まれつきだ。……それはそうと、あのエルフ族の連中は何者なんだ」
団長の言葉に、空気が少し引き締まる。
「さあ、僕も知らないよ。エルフなんて御伽噺かと思ってた」
「そうか……。まあいい、とりあえずここから脱出することが優先だな」
「あ、それは任せて!」
フィンが元気そうにニヤニヤしながら手を挙げた。さっきまで死にかけていたとは思えない回復ぶりだ。 「けど、さっきの戦いでほとんど魔力残ってないでしょ?」
「ふふーん、デステニードラゴンのギフトですごいの貰っちゃった。《魔導の叡智》! 魔力が自動回復するし、魔法の効率も前とは比べ物にならないよー」
「あ、そうか。みんな貰ってるのか」
「そうだよー。カイはどんなの貰ったの?」
「俺は……《竜王の気》《戦士の誉》《次元破り》の3つ貰ったよ」
「えっ、3つ!? 僕1つしか選べなかったのに!?」
フィンが目を丸くして抗議する。
「俺はレベルアップもしたから、その特典かもな」
「むぅ……僕も上がってるはずだけどなー? まあいいか。団長は何貰ったのー?」
団長は自分の掌をグーパーさせながら、不敵に笑った。
「俺は《絶対守護者》だ。盾がなくても魔力の盾が生成できるらしい。それに……」
団長が近くの岩に拳を構える姿勢を取る。
「『盾の構え』に入った瞬間、俺の防御判定は『不壊』になるみたいだ」
「なーにそれ、まじで動く要塞じゃんかよー」
フィンが呆れたように笑う。 みんな、問題なくスキルを継承できたみたいだ。 絶望的な戦いだった。多くを失った。 だが、俺たちはここで、確実に「最強」への階段を登り始めたんだ。
「じゃあ、いくよ! 舌噛まないでね?」
フィンがニシシと悪戯っぽく笑い、新しい杖(……はないので、折れた杖の先端を魔力で補強したもの)を掲げた。
『ウィンド・グラビティ』!!
その詠唱と共に、俺と団長の体がふわりと浮き上がった。 以前のフィンの飛行魔法は、風で無理やり体を持ち上げるような荒っぽいものだったが、今感じるのはまるで重力そのものが反転したかのような、不思議な浮遊感だ。
「すげえな……。体が羽根みたいに軽いぞ」
「へへーん、魔力操作の精度が段違いなんだ。今の僕なら、このまま城までだって飛んでいけるよ!」
フィンが指先を空へと向ける。 合図。
「掴まっててね……一気にいくよッ!!」
ドォォォォンッ!!
足元で空気が爆発した。 俺たちの体は、弾丸のような速度で垂直に上昇を開始した。 視界が流れる。 あんなに苦労して降りてきた、絶望の象徴のような岩壁が、ただの背景として猛スピードで下へと流れていく。
「うおおおおッ!?」
「はははッ! 最高だろー!!」
団長が目を白黒させ、フィンが歓声を上げる。 立ち込める霧の層に突っ込み、視界が真っ白に染まる。湿った大気が肌を叩くが、フィンが展開した障壁のおかげで、そよ風程度にしか感じない。
そして――。
バッッ!!
霧の海を突き抜けた瞬間、世界が色を取り戻した。
「……あ……」
そこには、眩いばかりの朝日が広がっていた。 地平線の彼方から昇る太陽が、眼下に広がる雲海を黄金色に染め上げている。 谷底の永遠の闇が嘘のような、あまりにも美しい夜明け。
俺たちはそのまま崖の上、かつてヒトガタと最初に遭遇した場所へと着地した。
「……着いた……」
団長が地面の感触を確かめるように、強く足を踏みしめる。 周りを見渡すが、エルフたちの姿はもちろん、あの激闘の痕跡さえも風化し始めているように静かだった。
ただ、崖の縁だけが、昨晩の怪物の暴走によって大きく崩落し、巨大な爪痕を残していた。
「……」
俺たちは無言で、その縁に立った。 この深い霧の下に、バーンズ隊長が眠っている。 そして、俺たちの弱かった過去も、そこに置いてきた。
「……行こう」
団長が、今までよりも一回り大きく見える背中で言った。 振り返りはしない。その目線はすでに、遠くに見える王都の方角、そしてその先にあるであろう「エルフたちの領域」を見据えていた。
「ああ」 「うん!」
俺たちは歩き出した。 朝日を背に受けて伸びる三つの影は、以前よりも力強く、長く大地に刻まれていた。




