試験への招待
翌朝、依頼を探しにギルドへ足を運ぶと、昨日の受付係が俺を見つけて手を振った。
「カイくーん!ちょっといい?」
「はい?」
カウンターに近づくと、彼女は声を潜めて話す。
「昨日言い忘れてたんだけど、来週、中級冒険者への昇格試験があるの。受けてみない? 中級になっておいた方が色々楽よ」
「中級……」
受付嬢はにこりと笑った。
「中級になれば、依頼の報酬も上がるし、参加できる討伐任務の幅も広がるわ。それに、パーティーを組むときも信頼度が段違いよ」
確かに、メリットは大きい。けど――。
「……試験って、どんなことをするんですか?」
「そうね。基本はモンスター討伐ね。監督によって違うけど、中級モンスターを二、三人で討伐するのがスタンダード」
「げ……パーティーか……」
口から思わず声が漏れた。
パーティー――その言葉に、嫌な記憶が胸を刺す。
──『お前、足手まといだ。二度とついてくんな』
脳裏に蘇るあの冷たい声。あの日、仲間だと思っていた連中に背を向けられた瞬間。あの時の惨めさと怒りを、まだ完全には消せていない。
(……今さらウジウジしてどうする。受からなきゃ、また足止めだ)
「わかりました……受けます」
「うん、受かるといいね!」
軽い笑顔で送り出され、俺はカウンターを離れた。
ギルドを出てから、街の片隅で腰を下ろす。
(パーティー、ね……)
剣の刃を布で拭きながら、心の奥で小さく息を吐く。
(次こそ、絶対に足を引っ張らない。いや――引っ張るんじゃなくて、俺が勝たせる)
刃に映る自分の顔に決意を刻む。
一方その頃、静かな森の中。
木漏れ日が差す林に、1人の女性冒険者がいた。腰まで届く金の髪が陽を受け、淡く輝いている。
「……来たわね」
草むらの影から、ギシギシと足音を立ててゴブリンが現れる。一本、二本、三本……。全部で三体。汚れた刃物を握り、いやらしい笑みを浮かべていた。
「ゴブリンが……三体。問題ないわ」
女は腰の剣を抜く。細身の美しい剣。刃には淡い光が宿っていた。
『ふん、また雑魚か。退屈だな』
耳元で、少年のような声が響く。だが周囲に誰もいない。
「文句言わないの。手を貸して」
『ったく、仕方ねぇな』
風がひときわ強く吹き抜けた瞬間――
ヒュン、と鋭い音。先頭のゴブリンが真っ二つに裂けた。
ギィッ?!
残りの二体が驚愕する間もなく、剣閃が二度、三度。風を纏った斬撃が空を裂き、血飛沫が舞った。
「ふぅ……試験の練習に来たけど、練習相手になりそうな魔物なんて中々いないものね」
血を払うと、剣はまた清浄な光を放った。
『お前なら試験なんざ余裕だろ。つーか、相手が可哀想だな』
「どうかしら。……でも、久しぶりにちょっと楽しみかも」
金髪の女――セリス・リヴィアは微かに笑い、森を後にした。
彼女の職業は『精霊騎士』。精霊と契約し、その力を借りて戦う存在。しかし、それは人間には本来不可能なはずの職業。
だからギルドでは「職業不明」と記録されていた。




