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第8話:異世界の街並み

 ゲートを潜った瞬間、目に飛び込んできたのは、想像を絶する光景だった。

 

 広大な大地に広がるのは、中世ヨーロッパを思わせる、石造りの街並み。

 

 だが、そのスケールは、地球上のどの都市とも比較にならなかった。

 

 高くそびえ立つ尖塔は、雲を突き抜け、まるで天に届かんばかりだ。

 

 重厚な石壁に囲まれた街は、迷路のように入り組んだ路地で結ばれ、その全てが、精緻な彫刻と装飾で彩られている。そしてその中心部には、見たことの無いような立派な城壁。

 

 建物に使われている石材は、地球では見られない、淡い光を帯びており、陽光を浴びて、幻想的な輝きを放っている。

 

 空気は地球よりも澄んでおり、行き交う人々は、ローブなど、中世風の衣装を身につけている。


 そのローブからは尻尾が飛びし出しており、ここが異世界であることを強調している。


 遠くには、切り立った崖が連なり、その奥には、雄大な山脈がそびえ立っているのが見える。山頂には、雪を抱き、麓には、緑豊かな森が広がっている。

 

 まるで、絵画から抜け出してきたかのような、壮大で美しい光景。だが、どこか現実離れした、異質な雰囲気が漂っている。

 

 まさに、異世界。


 そうとしか言いようのない光景が、目の前に広がっていた。

 

 あまりの衝撃に、6人は呆然と立ち尽くした。




 1分もしない内に、目の前に3台の馬車が到着した。


 天音さんと俺の前に降り立ったのは、ピシッとした燕尾服のダンディ。整えられた頭からは特徴的な2本の角が生えている。特に目を引くのは真っ赤な鱗の尻尾だ。


「天音 灯花様、久世 悠真様、ようこそアルカディアへ。王城へご案内致します。」


 綺麗なお辞儀と、渋くてイイ声。ちゃんとEaARの翻訳機能は動作しているらしい。ほとんどノータイムで意味が伝わってきた。


「こちらこそよろしくお願い致します。」


 呆けていた俺と違い、天音さんは直ぐに復活していた。俺も慌ててお辞儀をする。


「――マスター。しっかりして下さい。記録はしていますから、あとで確認しましょうね。」


 リアに咎められてしまったが、彼に促されて馬車へと搭乗する。チラッと横を確認すると、他の4人も出発するようだ。


 馬車にしては揺れが少なく、酔うということは無かった。車内でイケオジから、今後の予定が説明された。


 今日はこれから過ごす、王城の客室を確認するらしい。王様との謁見は明日行われる。


「王城の客室、王様との謁見……。」


 緊張してつい口から出てしまった。


「はははっ。そう緊張されなくとも大丈夫ですよ。陛下は気さくな方ですから。」


 こんな小さな呟きも、しっかりと拾われて翻訳されてしまった。今後少し気を付けなければ……。


「そうよ。今回は私がメインだし、久世くんはドシッと構えておけば良いのよ。」


「――マスター。私もサポートしますから、安心して下さい。」


 温かい彼女らの言葉に、思わず涙が零れそうになった。

  

「2人ともありがとうございます。だいぶ落ち着けたみたいです。」


「(リアもありがとう。頼りにしてる。)」


 石畳の道を進む馬車。

 

 行き交う人々。

 

 立ち並ぶ店。

 

 全てが、地球とは異なる文化と技術で成り立っている。車窓から見える景色が改めて異世界であることを実感させられる。


 先程は遠くへ見えていた城壁は、もはや目の前だ。

 

 巨大な城壁が、目の前にそびえ立つ。その高さは、ゆうに10メートルを超えているだろうか。

 

 城壁は、重厚な石造りでできており、無数の装飾が施されている。


 そして、そこには巨大な門がそびえ立っていた。その鉄製の門には、重厚な装飾が施されている。

 

 門の前には、数人の兵士が立っており、厳重な警備体制が敷かれているのがわかる。


 馬車が門の前で止まると、兵士の一人が、こちらに近づいてきた。

 

「手形を。」

 

 兵士の声は、厳しく、威圧感があった。御者は慣れた手つきで、手形を渡す。


 兵士は通行手形をじっくりと確認した後、こちらに視線を向けた。兵士が満足したように頷くと、巨大な門が、ゆっくりと音を立てて開いていく。

 

 重厚な鉄と石の響きが、空気を震わせた。


 門の向こう側に広がるのは、これまた別世界だった。


 整然と敷き詰められた石畳の道、その両側には精緻な彫刻が施された街灯。馬車は再び静かに走り出す。すれ違う人々は、皆一様に俺たちへと興味深そうな視線を向けていた。


 目の前にそびえるのは、巨大な城。真っ白な壁面に金色の装飾、鮮やかな青い屋根。

 

 荘厳、という言葉すら物足りないほど、美しい城だった。


 「ご案内いたします。」


 イケオジ、正しくは王城専属の執事様が馬車を止め、俺たちを誘導する。


 案内されたのは、城の一角にある客人用の居住区。天井が高く、壁には美しいタペストリーが飾られている。床には絹のような光沢を持つカーペット。


 ただただ、圧倒された。


「こちらが、滞在中過ごして頂くお部屋となります。何かございましたら遠慮なくお申し付けください。」


 そう言って渡されたのは小さなハンドベル。これを鳴らすと執事さんかメイドさんが部屋まで来てくれるらしい。

 

 荷解き……といってもストレージから取り出すだけなのだが、をして明日の準備をする。一張羅のスーツを取り出してみれば、あのイケオジの燕尾服がどれほど上等なものだったか理解できた。


 「(なんでこんなことに……。)」


 そんな思考を巡らせながら、ベッドへダイブする。今まで使ったこともないような、ふかふかなベッド。冷暖房機器も見当たらないのに快適な室温。地獄の7日間で疲労が溜まっていたようだ。俺は深い眠りへと落ちてしまった。




 「――マスター、起きてください。来客ですよ。」


 「うん……、来客?」


 「――もうそろそろ夕食の時間です。そのことかと。」


 もうそんな時間か……。そういえば、他の4人はご飯とかどうしているのだろう。こちらの通貨とか持っていない気がするが。


 コンッコンッコン。


 「どうぞ。」


 ゆっくりと開かれた扉の先には、ワゴンに乗せられたパンを主食とする色とりどりの料理がズラリ。


 「慣れないところで、お疲れかと思いまして、本日の夕食はお部屋にお持ち致しました。何かございましたらそちらのベルでお呼びください。」


 綺麗なカーテシーをして退出したメイドさんをみて、少しだけ、本当に少しだけ見入ってしまった。


 「――……。」

 

 リア様ごめんなさい。ストレージから身体出しますので一緒に食べましょう……。


 


 当然のことながら用意されたカトラリーは1人分。ストレージから用意した食器を取り出そうとしたところリア様に止められる。


 「食べさせてください。」


 「はい……?」


 思わず聞き返してしまう。


 「食べさせてください。所謂、あ~んというヤツです。」


 恐らくこうなってしまったのは俺のせいだ。甘んじて受け入れよう……。


 何の肉かわからないステーキを1口サイズにカットして正面に座るリアの口へ運ぶ。女性?へのあ~んなど経験はない。さすがに恥ずかしくてリアの目は見られなかった。


 美味しそうに頬張る彼女を見て、俺もそのステーキを頂く。地球の肉では、牛肉が1番近いだろう。しつこくない脂が高級品であることを伝えてくる。ステーキソースは辛めで、鼻に抜ける独特な風味が特徴的だ。


 1度のあ~んで満足したのか、そのあとは勝手にカトラリーを出して食べ始めていた。

 

 ポトフのようなスープも絶妙な塩加減で、ごろごろと入ったジャガイモのような根菜類が甘くて癖になる。


 「「うまぁ……。」」


 俺もリアもアルカディアの料理の虜になってしまった。足りないということが無いように多めに用意されていたのであろう。二人でも食べきることは出来なかった。


 日本人として申し訳ない気持ちになったが、片づけに来てくれたメイドさんに、明日以降量を増やすか聞かれたので、慌てて断った。




 夜も更けて、知らない虫の声が異世界情緒を感じさせる。明日には謁見を控えているというのに、昼寝をかましてしまったので、全然眠くならない。何気なしに窓を開けて空を眺める。東京とは違い、ここの空気は澄み渡っており、星がきれいに輝いて見える。不思議なことに見覚えのある、月に似た天体が青白く光り、王城を照らしている。


 「――こちらの世界でも、"月がきれいですね"って言えますね。」


 冗談めかしたリアのセリフに、思わず笑ってしまう。


 

 「そうだね。ほんと、月がきれいだ。」

 「――……。」


 俺も冗談ぽっく言ったのに無言は気まずい。


 ふと視線を下せば、素晴らしく手入れの行き届いた中庭。その真ん中には噴水が鎮座している。


 そしてその噴水を眺める、人影が1つ。


 尻尾もなければ、角も生えているように見えない。アルカディアに来てから初めて人間を見た。


 その人の様子が気になってしまい、しばらく眺めていると、その人はこちらに気が付いた。少し驚いた様子で、こちらの方を向き小さくお辞儀をしてくれた。


 俺の両親と同じくらいの年齢にみえる男の人。なんだかとても馴染んでいるように感じた。


 こちらもお辞儀を返す。彼が向かいの建物に戻っていくのを確認してからカーテンを閉める。


 「なぁリア、あの人何者だと思う?向かいの建物って客間じゃないよね。」

 「――王城までの道中、人間は見かけませんでした。ゲートをくぐった地球の人間と考えるべきかと。」


 少しばかりの疑問を残して、俺はふかふかなベッドに入るのであった。

 

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