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第6話:彼女のお願い

本日3話目。

「天音様、このような素晴らしい身体をありがとうございます。」


 フッと急に俺から手を解き、凛とした佇まいに戻ったリアが、お礼述べる。


「え、えぇ。どういたしまして。でも、まだ終わりじゃないわよ。」


 少し困惑気味の天音さんは、先程とは違うカプセル、亜空間アタッチメントを取り出し、俺に渡してくれた。


 先程と同じ要領で《魔改術》を施した。今日だけで3回目。計6回の成功は、何れも初めての改造に対してだ。俺の仮説のどちらかは合っていそうな気がする。


「それで、このアタッチメントってどうやって取り付けるんでしょうか?」


 俺の質問に天音さんは"しまった"という顔をする。


「基盤に直接取り付ける必要があるから、そのぉ、一度開かなくちゃいけないんだけど……、リアさん大丈夫?」


「問題ありません。なんなら良い学習の機会です。こちらからお願いしたいくらいです。」


 すこし前のめりの返答に、天音さんが後退りする。


「そ、それなら早速やっちゃおうか。そこに仰向けになって貰える?」


 すこし離れた作業台を指さす天音さん。


「あっ!久世くんは一応を外出てて貰える?終わったら呼ぶから。」


 開くって……、そういうことか……。


 くっ、残念だが仕方がない。


 「マスターなら問題ないですよ?」


 からかうような声色に、俺は足早に外へ出た。



 

「――マスター、今ですね、丁度全部……、」


「うゃ!そんなこといいから、自分のことに集中してくれ!」


 驚きすぎて、変な声が出てしまった。


「ふふっ。マスター照れてますね。」

 



 それから数十分後、視界の端に天音さんから、"もう入っていいよ。"とメッセージが届いた。


 リアの顔を見て、目をそらす俺に、不思議そうな顔をする天音さん。


 リアのからかうような視線が、彼女のテンションの高さと喜びを物語っている。


 すこし大きめに息を吸ってから、ゆっくりと息を吐く。


「天音さん。使い方を教えて下さい。」


「はい!」


 不思議そうな、顔から一転何か楽しそうだ。もしかしたらリアと打ち解けたのかも知れない。




 使い方は簡単だった。リアのうなじ部分に小さなエンブレムが彫られており、そこへ軽く触れることでスポーツカー同様カプセルへと変化する。


 カプセルから戻す際は、カプセルのボタンを押し込んでから投げると、地面に着いた瞬間から、徐々に元の形へと戻っていく。


 ストレージにも入ることを確認すると、リアは大喜びであった。それを見て、天音さんも嬉しいそうにしている。





 そうこうしているうちに日が傾き始めた。なかなか濃い時間を過ごしていたため、お昼ご飯を忘れてしまった。


 ……ぐぅ。


 そのことを思い出させたの、俺の腹の虫のせいだった。二人に生暖かい視線を向けられる。


「ふふっ。お昼ご飯食べ損なっちゃったもんね。夕食には少し早いけれど、よかったら一緒に食べてく?お願い事も聞いて欲しいし。」


 否が応でも、断るという、選択肢は無い。


「天音さんが良いなら、喜んで!」


「マスター……。」


 力の籠もった返事をするご主人様と、呆れた様子のメイドを見て、笑いながら2階へと案内してくれるのだった。




 初めて入る女性の部屋?にドキドキしながら階段を登る。その先はリビングルームのようだ。


 綺麗に並べられた、上品な家具とインテリア。


 ふわっと香るアロマの香り。


 俺の家とは大違いだ。


「昨日の残り物しか無いけど、何か苦手なものとかない?リアさんも食べ物をエネルギーに変換する機構がついているから、一緒に食べましょうね。」


「ありがとうございます。苦手なモノとかは特に無いです。」「天音様、お気遣いありがとうございます。」


「ふふっ。じゃ、ちょっと待っててね。」


 そう言って、キッチンへと消えていった。


「リアも味分かれるのかな。」


 素朴な疑問をリアに投げ掛ける。


「私もこのアロマの香りを感じることが出来ています。なので味覚も再現されているかと。」

「それにしても天音様は、相当な技術力、相当な凝り性ですよ。」


 左右にユラユラと揺れながら、嬉しそうな返答。鬱陶しいこともあるが、こういった所は素直で可愛らしい部分だ。




 暫く人間と区別がつかなくなったリアとおしゃべりしていると、トレーを持った彼女がキッチンから戻ってきた。


「お待たせ。昨日の残り物だけど、よかったら食べて。」

 

 そう言って、天音さんが振る舞ってくれたのは、具沢山のクリームシチューだった。


 美味しそうな匂いが、食欲をそそる。

 

「「「いただきます。」」」

 

 それぞれスプーンを手に取り、クリームシチューを口に運んだ。

 

 濃厚なクリームの甘みと、野菜や肉の旨味が口の中に広がる。

 

 内側から体が温まっていくようだ。

 

「……美味しい。」

 

 思わず、呟いてしまう。


「食事って、こんなにも素晴らしいものなのですね!」


 リアも新しい楽しみを見つけたようだ。これからはもっと大変になりそうだ……。

 

「ふふっ。それはよかった。」

 

 天音さんは、嬉しそうに微笑む。


 俺たちは、クリームシチューと、一緒に添えられたフランスパンを交互に口に運びながら、他愛もない話に花を咲かせた。

 

 リアも、美味しそうにクリームシチューを味わっている。自動人形の体を手に入れた彼女は、まるで、本当に人間になったかのように、自然に食事を楽しんでいた。




 夕食も終盤、最後のフランスパンをリアが手に取ったあたりで、天音さんは切り出した。


「それで、お願い事についてなんだけど……、久世くん、異世界には興味ない?」


「異世界……、ゲートの向こう側ってこと?」


 なんというか、学生には中々縁遠い話だ。ゲートでの出入国には、三十年経った今でも厳しい制限がかけられている。


 特に日本では繋がったが先がとんでも無かった。下手な人間送り出して、先方を怒らせるわけには、いかないのだ。


 また、向こうからの来客も、ほとんどが国賓扱いだ。


「そうよ。日本のゲートのその先、龍の治める国、『龍王国アルカディア』。そこへの留学に着いてきてくれないかしら?」


「それは……、とんでもないお願いだね。」


 頬が引きつっているのが、自分でも分かる。一般常識的に言えば、あり得ないことだ。


 日本は偶々、アルカディアと同盟を結ぶことに成功し、他国よりも一歩抜きん出た事は事実だ。


 しかしながら、その実際はほとんど不干渉。ゲートの向こう側を知るものも、その住民たちとコンタクトしたことがあるものも、ほとんど存在しない。


 そんなところへ留学?あり得るわけないのだ。


 ……彼女がレガリア・テックの社長令嬢でなければ。


 アルカディアが同盟の条件として提案したのが、知識の供与。


 "唯一の善は知識であり、唯一の悪は無知である。"とはよく言ったものだ。


 強大な力を持った龍たちは、地球の知識を求めた。その点、半魔導工学は地球の科学知識なしでは実現し得ないものだ。


 龍たちがレガリア・テックに興味を持つのも不思議ではない。


「マスター、お受けしましょう。またとない機会です。」


 フランスパンを飲み込んだリアは、俺に行けと言う。


「いつ行くのか、どれくらいの期間なのか、そして、なぜ俺なのか、聞いてもいい?」


 もう少し判断材料が欲しい。


「そうね。そのへんは大事よね。」

「まず、期間は前期と後期の間、夏季休業中になるわね。準備もあるから前期の最後の方は忙しくなるね。」

「そして、久世くんを選んだ理由は、私の立場やスキルと、最っ高に相性がいいから。上手くやれば、手ぶらで向こうに行ける!」


 俺の目を見たまま、少しばかり腰を浮かして、前のめりに説明をする天音さん。


「マスター、お受けしましょう。またとない機会です。」「――マスター、お受けしましょう。またとない機会です。」


 正面と耳元から、リアの圧力がかかる。断れば機嫌を損ねてしまうのが目に見えている。それに自動人形の代金としてのお願い事だ。キチンと理由も教えてくれた訳だし、断る理由も無いか……。


「分かったよ、天音さん。俺も連れて行ってくれ。」


 明らかにホッとした様子が伝わってくる。


「そう言ってくれると思っていたわ。今日はもう遅いし、準備に必要な事とかは追って連絡するね。」


 安堵した彼女の表情。もしかしたらアルカディアへの留学は彼女も重荷に感じていたのかもしれない。


 できる限り、彼女の力になろうと、俺は心に決めたのだった。


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