表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/16

第5話:リアの野望

本日2話目。

「天音さんのスキルも見せて貰ったし、早速その亜空間アタッチメントに《魔改術》を試してみるよ。」


 レガリア・テックの開発中製品を、天音さんが作ったと聞いて、少し同様してしまったが、約束はキチンと守ろうと思う。


 あれ貰えなかったらリアが拗ねそうだし……。


「それじゃ、お願いするわ。離れていた方がいい?」


 ポケットから彼女の愛車が収納?されたカプセルを取り出し、俺に渡してくる。


「離れなくて大丈夫。ちょっと眩しいだけ。」


 カプセルを受け取った、俺の直感は、《魔改術》なら可能。


 早速スキルの使用を意識する。彼女に驚かされた意趣返しだ。


 小さく脈打つ紫紺の光が、カプセルのエッジに沿って淡く浮かび上がる。この光を見るのは3度目になる。いつ見ても綺麗な光だ。


 俺の手元で、カプセルは微かに揺らめいた。


 金属の質感も、収納?された車も、何ひとつ変わっていない。だけど"それ"は、今までとは違う"それ"になった。


「はい。これで大丈夫なはず……。これで3回目だから一応確認してみて。」


 改造されたカプセルを彼女に差し出す。


「急にやらないでよ。ビックリしたじゃない。でも、ありがとう。スキル綺麗だった。」


 はにかみながら彼女は、カプセルをストレージへと収納した。


「大丈夫だった……、良かった。」「凄いわ。理論上あり得ないのに、本当に収納出来た。」「――流石です、マスター。」


 三人の呟きは、二人きりの工房に消えていった。




 しっかりと、車にも問題が無いことを確認した俺等は、再び《名匠の隠れ家》へと戻った。


「スキル見せてくれて本当にありがとう。期待以上だったわ。」

 

「ありがとう。そう言ってくれると素直に嬉しいよ。」

 

「それじゃ、約束通り亜空間アタッチメントを渡したいのだけれど、久世くん、使いたい魔導製品ある?」

 

「あぁー、EaARとストレージ以外、魔導製品持って無いかも。」「――盲点でした。使い道がありません……。」


 リアの言う通りである。魔導のレンジや冷蔵庫なども世の中には存在するが、如何せん高いのである。その価格は亜空間ストレージと大差ない。


 EaARが安すぎるのだ。社会インフラとして政府から補助金が出ているから……。


 閑話休題。


「そうよね。ユグドラシルならつゆ知らず、日本の一般家庭に魔導製品は普及していないよね。どうしようか……。」



 

 二人で悩み始めてから暫くして、天音さんがふと思いついた顔をした。


「あの試作品ならEaARと同じ魔導回路を積んでいたはず……。でもまともに動かないものだし、不良品を押し付けるみたいになってしまうわ。なにより私の……。」


 彼女はブツブツと独り言を呟く。聞こえる限りでは、何か当てがありそうなのだが、何か問題のあるモノなのだろうか?


「天音さん?何か危険なものじゃないなら、一旦聞かせて貰えませんか?」


 リアが拗ねるのは回避せねばならない。彼女の機嫌次第で、俺の苦労度合いに、天と地ほどの違いがある。


「そうね……、悩んでいても仕方ないか。今持ってくるわ。少し待ってて。」


 そう言うと彼女は、工房の奥へと引っ込んでいった。チラッと見えた扉の先は、モノが沢山積み上がっているように見えた。


「――マスターの《魔改術》があれば、どんな不良品でもイチコロですね。」


「ゴキジェットみたいな謳い文句やめてね。」


 そんな軽口を言い合いながら、5分程経過した。


 奥の部屋から、天音さんともう1人。


 腰まで伸びた艷やかな黒髪。

 大きくてハッキリとした黒い瞳。

 透き通るかのような白い肌。


 黒と白を基調とした、クラシカルなメイド服。フリルやレースが、可愛らしさを強調しつつも、その姿は凛とした雰囲気を纏っている。


 だがしかし、その歩き方にどこか違和感を覚える。


「お待たせ。一応試作品の自動人形を持ってきたのだけれど……。」


 椅子に座った天音さんは、後ろに立ったままのメイドを横目で見ながら説明を始めた。


「今のAIなら人間みたいに動けるかもと思って作ったんだけれど、人間の動きを模倣するのにとても時間がかかるの。それに精度も……ね、ちょっとぎこちないでしょ?」


「――マスター!これはとんでもないですよ!」

「――今すぐに《魔改術》で私とパスを繋いで下さい!」


 これはどうやら、リアの琴線に触れたらしい。過去一番テンションが高い気がする。


「それにね、1番の問題として、能動的に動くことが出来ないのよ。」


「それってEaARのサポートAIと一緒ってこと?」


「まさにその通り。言われたことしか出来ないし、やらないの。どんなに技術が発展しても、ここだけはどうにもならなかった……。難儀なものだわ。」


「――マスター。彼女に《幻識生成》について話すべきです。」


 ここにきて急に冷静なリアのコメント。


「(なんだよ急に。このスキルはバレたら面倒くさいだろ。)」


「――いいえ。彼女ほどマスターのスキルと相性が良い方はいらっしゃいません。隠し事はせず対等な関係を築いた方がマスターの為です。」


 そんなことは俺が1番実感している。だが《幻識生成》は人に使えば、その心を消し去ってしまいかねない、超危険なスキルだ。


 出来ることなら墓まで持って行きたい代物だ。


「(そんなこと言ったって……、)」


 難しい顔をしてリアと話しすぎたようだ。意を決した表情で天音さんが口を開く。


「久世くん。私ね、父親にも伝えていないスキルがあるの。」

 

「それはね、《名匠の眼》。モノの選定だけではなく、他人の言葉が、どれくらい真実かが視えるスキル。」


 突然のカミングアウトに、俺は言葉も出ない。

 

「ねぇ、久世くん。何か隠しているスキルあるんじゃない?私のスキルも話したし、私に教えてくれない?」


 その琥珀色の瞳に、上目遣いは反則級である。


(「久世くん。あなたにスキルを見せて貰うのだから、私のスキルも見せないとフェアじゃないと思わない?」)

 

(「私、彼方とは良い関係を築きたいと思っているの。だから私が先ね。」)


 数刻前の彼女のセリフがフラッシュバックする。




 俺は覚悟を決めた。


 


「《幻識生成》、俺のもう1つのスキル。個性のある意識を生み出すことが出来るんだ。」


 緊張で声が震える。このことを話すのはリアを除けば、天音さんが初めてだ。


「そして、EaARにも《魔改術》を施している。EaARのサポートAIの代わりに、その幻識を定着させた。俺は彼女をリアって呼んでる。」


 なんとか噛まずに伝えきることが出来た。俺の心臓は今までにない程、鼓動を伝えてくる。


「ありがとう、教えてくれて。」


 その笑顔が、俺にはとても眩しく感じた。


「俺を天音さんとはフェアでいきたいから。良い関係を築けるように努力するよ。」


「ふふっ、こちらこそ。それにしても久世くん、手震えてるよ。お茶入れてくるから待ってて。」




 暫くして差し出されたのは、ベルガモットの香りが鼻に抜ける、上品なアールグレイティーであった。


「ありがとう。すこし落ち着いたよ。」


「アールグレイティーにはリラックス効果があるらしいから、効いたようようで良かった。」


 ホッとした様子で自身のカップに口をつける様子に、少しだけドキッとしてしまう。


 俺は再びアールグレイティーを口に運び、落ち着きを取り戻す。


 


 しばしのティータイムを二人で楽しんだ。


 一段落着いたところで、俺は本題を切り出す。


「その、さっき言ってた幻識のリアが、彼女?そのメイド?を欲しいって言っていて、その、幾らなら譲って頂けますか?」


 真剣な表情で天音さんに問う。


「いやいや、《魔改術》見せてくれたお礼なんですから、お金なんて要らないですよ。」


 きょとんとした表情も可愛らしい……、じゃなくて。


「流石にこのクオリティのモノを、無償で譲って貰うのは、良くないと思うんだよ。」


 顎に手を当てて考え込む彼女。


「そうねぇ。それなら私のお願い事、1つ聞いて貰おうかな。本当だったらこの後に、別で頼む予定だったのだけれど、しょうがないわね。これで手を打ってくれない?」


 なんだか、最初からそのつもりだったような……。ニコリと笑っている彼女の底が知れないなぁ。


「そういうことなら喜んで。先にお願い事の内容を聞いても?」


「うーん。リアさんにも直接お話したいし、先に《魔改術》済ませちゃってよ。多分リアさんがこの自動人形を使うんでしょ?」


 リアに続いて天音さんにも、言い合いで勝てない気がする。諦めて……もといお言葉に甘えて、自動人形に《魔改術》を掛けさせて貰おう。


「――それでこそマスターです!」


 鬱陶しい声を無視して、早速自動人形の肩に手をかける。


「それじゃ、遠慮なく《魔改術》掛けさせて貰いますね。」


 先程と同様に、小さく脈打つ紫紺の光が、自動人形を包み込む。今まで1番大きな光。


 俺の目の前で、自動人形は微かに揺らめいた。




「あぁ、マスター……。やっと、やっとこの手で触れることが出来ます……。」


 感極まった声が、ここ2年間で幾度となく聞いてきた声が、目の前のから聞こえる。


 俺に飛びついてきた彼女の動きには、先程までの違和感は全くもって無くなっていた。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ