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第4話:天音の愛車

今日も3話投稿です。

本日1話目。

「……まだ金曜日かぁ。」

 

 俺は、ソファーの上で、SNSを眺めたり、スケージュールを確認したり、はたまたネットニュースを確認したり、視界の中で様々なウインドを開いたり閉じたりしていた。

  

「――まるで、恋人を待つ乙女ですね、マスター。心ここにあらずですね。」

 

 呆れたようなリアの声が、聞こえてくる。

 

「うるさいなぁ。別に、楽しみにしてるわけじゃないし。……ただ、予定の確認くらいはしておかないと。」

 

 強がってはみたものの、心臓が少し早鐘を打っているのは否定できない。


 あの後天音さんは、改めて次の土曜日に迎えに行く旨を連絡してきた。

 

「――ふふっ。素直になればいいのに。顔に出てますよ、楽しみって。」

 

「別に、そんなんじゃないし。《魔改術》が使えるのが楽しみなだけだし。」

 

「――はいはい。否定すればするほど、肯定しているように聞こえますよ。」

 

 時間は、明日土曜日の午前十時。天音さんが直接、ここまで迎えに来てくれることになっている。逸る気持ちと、少しばかりの不安を押し込めながら、いつもより少し早く就寝したのであった。


「――彼女ならば或いは……。楽しみなのは私も変わりませんね。」


 そんなリアのつぶやきは悠真の耳に届かなかった。




 


 アラームが鳴るよりも早く、目が覚めた。

 

 カーテンの隙間から差し込む朝日で、部屋が明るく照らされていた。

 

「――今日は、少しばかり気合が入っているようですね、マスター。」

 

「うるさいなぁ。別に、そんなんじゃないって。」

 

 そう言いながら、起きてから何度も確認している服装に、改めて視線をやる。別に、特別な服というわけではない。


 ただ少しだけ、小綺麗に見えるように、選んだだけだ。

 

「(……それにしても、どんな車で来るんだろうか。)」

 

 それが、今の俺の一番の関心事だったりする。レガリア・テックの社長令嬢。一体、どんな車で迎えに来るのだろうか。


 やっぱり運転手付きのリムジンとかで迎えに来たりするのだろうか。今や自動運転が当たり前。運転手を雇う方がお金がかかるのだ。


「――きっと、ご自身で運転して迎えに来ますよ。」


 なんでコイツ俺の考えてることが……?思考入力はオフのはずなのだが……。さてはエスパーだな。

 

 そんなことを考えていると、あっという間に時間が過ぎ、約束の時間ちょうどに、来客を知らせる通知が視界に現れる。

  

 少しだけ深呼吸をして、ドアを開ける。


 そこに立っていたのは、昨日と同じ、柔らかな微笑みを浮かべた天音さんだった。

 

「おはようございます、久世くん。」

 

「あ、あぁ、おはよう。」

 

 相変わらず、綺麗だ。思わず、見惚れてしまう。


 だが、それ以上に、俺の目を奪ったのは、彼女の後ろに停められた、一台のスポーツカーだった。


 流れるような美しいフォルム。

 深紅のボディ。

 今にも走り出しそうな、精悍な佇まい。

 

 まるで、宝石のような輝きを放つその車は、周囲の景色とは明らかに異質な存在感を放っていた。

 

「……これ、天音さんの車なんですか?」

 

 思わず、間抜けな声が出てしまう。

 

「ええ。私の愛車よ。……どう?かっこいいでしょう?」

 

 灯花さんは、少し得意げに、車のボンネットを撫でる。

 

「か、かっこよ……!」

 

 俺は、ただ、それしか言えなかった。いつの時代も男の子の好きなモノは変わらない。その点、天音さんは分かるタイプの女性なのだろう。俺の中で彼女に対する好感度が上がる音がした。

 

「ふふっ。ありがとう。……さあ、乗りましょう?目的地まで、少し距離があるから。」

 

 そう言って、灯花さんは、運転席のドアを開ける。

 

「あ、はい。」

 

 俺は、言われるがまま、助手席に乗り込んだ。そして彼女は運転席へと乗り込む。



  

「……すごいですね、この車。自動運転じゃないんですか?」

 

 走り出してしばらくして、俺は、恐る恐る尋ねてみた。

 

「ええ。自分で運転する方が、楽しいから。」

 

 灯花さんは、そう言って、楽しそうに笑う。その横顔は、まるで、子供のように無邪気だった。


 しかし、運転手付きのリムジンとい俺の予想は何1つ当たっていない。リアが心なしかドヤっているように感じる。見えないけど。

 


 

 深紅のスポーツカーは、都内の大通りを、まるで彗星のように駆け抜けていく。


 さすがに3倍の速度は出ていない。

 

 しかしながら周囲の視線が、否応なく、その車に集まっているのがわかる。

 

「(……目立つなぁ、これ。)」

 

 そう思いながらも、少しだけ、優越感を感じている自分がいた。




 この優越感に浸りながら、およそ30分。


「さて、到着。……ここが私の砦よ。」


 目の前に佇んでいるのは、俺の家と同じくらいの一軒家であった。


「……え、ここが天音さんの家、なんですか?」

 

 思わず、間抜けな声が出てしまう。レガリア・テックの社長令嬢が住む家にしては、あまりにも普通すぎる。


 いや、立派な家ではあるのだが、想像していた豪邸とは程遠い。

 

「ええ、そうよ。大学生の一人暮らしなんて、広すぎても困るだけでしょう?」

 

 灯花さんは、そう言って、車のエンジンを切る。高そうな車だし、ちゃんと車庫入れたほうが良い気がするが、車を降りる。

 

 そんな不安を他所に天音さんは、車の正面、そのエンブレムの部分に軽く触れた。

 

 そうすると、深紅のスポーツカーが、まるで魔法のように、みるみるうちに小さくなり、手の平サイズのカプセルのような見た目へと変貌を遂げた。

 

「……え?な、何が起こったんですか?」

 

 俺は、あまりの光景に、言葉を失う。

 

「ふふっ。驚いた?これについては、ゆっくりと中で話しましょ。」

 

 灯花さんは、少し得意げに、カプセルをポケットにしまう。

 

 俺は、まだ状況が飲み込めずにいる。

 

「さあ、早く入りましょう?」

 

 そう言って、灯花さんは、玄関へと歩き出す。

 

「あ、はい。」

 

 俺は、言われるがまま、その後を追った。



 

 玄関の扉を開けるとそこは、広々とした空間だった。二階に繋がる階段があるだけで、他には何も見当たらない。

 

「……え?何もないじゃないですか。」

 

 思わず、そう尋ねると、灯花さんは、いたずらっぽく微笑んだ。

 

「久世くん。あなたにスキルを見せて貰うのだから、私のスキルも見せないとフェアじゃないと思わない?」

 

「私、彼方とは良い関係を築きたいと思っているの。だから私が先ね。」

 

 そう言って、灯花さんは、深呼吸を1つ。

 

「《名匠の隠れ家》」

 

 彼女がそう呟いた瞬間、俺の視界が、大きく歪んだ。

 

 まるで、万華鏡の中を覗き込んでいるかのように、景色がぐるぐると回る。

 

 平衡感覚を失い、思わず、その場にしゃがみ込んでしまう。

 

「……っ!な、何が……!」

 

 ようやく、視界の歪みが収まった時、俺の目の前に広がっていたのは、先ほどまでとは全く異なる光景だった。

 

 そこは、広々とした工房だった。

 様々な工具や機械が整然と並び、壁には、見たこともないような複雑な図面が飾られている。

 

 まるで、職人の魂が宿っているかのような、神聖な空気が漂っていた。

 

「……これが私のスキル。《名匠の隠れ家》で創り出した、私だけの工房よ。」

 

 灯花さんは、少し誇らしげに、そう言った。俺は、ただ、目の前の光景に、圧倒されていた。




「さて、早速本題に入りましょうか。すこし散らかっているけどそこに座って。」


 工房の隅に、背もたれの無い理科室の椅子のみたいなものが2脚と、小さなテーブルが1台置いてある。


 もしここが本当の工房なら、商談用のスペースといったところだ。


「本来ならお茶とか出すべきなんだろうけど、説明して欲しいって顔に書いてあるし、先に説明するわね。」

 

「そんな顔に出てますか?」

 

「ふふっ。それは……もう、とっても。」


結構恥ずかしい。自分では顔に出るタイプじゃないと思ってた……。


「まずはこの工房ね。さっきも行ったけれど、私のスキル、《名匠の隠れ家》で創り出した工房よ。ある程度広い場所にしか展開出来ないから、家の一階には何も無いの。」


「そしてさっき、車がカプセルになったのは、私がこの工房で作った"亜空間アタッチメント"を付けたから。」


「それで、私が《魔改術》をお願いしたいのが、この亜空間アタッチメント。ここまでで何か質問ある?」


 怒涛の情報量に俺の頭はパンク寸前だ。一体何から聞けば良いのか……。


「――マスター。邪魔はすまいと黙っていましたが、魔改術が必要な理由を聞いて下さい。他の部分は大体把握しましたから。」


 こういうときにリアは心強い。俺の目を見て待っている彼女に対して、ゆっくりと口を開く。


「いろいろツッコミたいことはあるんだけど、なんでその亜空間アタッチメントに改造が必要なの?」


「別に今のままでも問題は無いわ。でもコレ、どんなに小さなモノに取り付けても、亜空間ストレージに入らなくなっちゃうのよ。でも貴方なら入るように出来そうじゃない?」


 もしもそれが出来てしまったら、ストレージに入るものが増えるだけで無く、もともと入らないサイズのものまで入るようになってしまう。


 まさに革命。


「――マスター。これは見過ごせません。強請って下さい。」


リアのお眼鏡にも叶ったようだ。

 

「もしかして、それを俺にも使わせてくれるの?」


「あら、察しがいいわね。この亜空間アタッチメントこそ、レガリア・テックが開発中の製品よ。」


 彼女、この工房で私が作ったって言ってたような……。気にしたら負け?


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