あの子が可哀想だ
あの子が可哀想だ。
生まれる前に父親が離婚して出て行った。
生まれた直後に母親はそのまま死んでしまった。
生まれた頃から独りっきり。
あの子が本当に可哀想だ。
あの子が可哀想だ。
親が居なくて独りきり。
友達も出来ずに独りきり。
いつも宙を向いて独り言。
あの子が本当に可哀想だ。
あの子が可哀想だ。
独り言を言っていることを面白がられ、同級生に虐められ。
抵抗しないから殴られ、蹴られ。
だけど、翌日には同級生は皆、死んで。
気味悪がられて独りきり。
あの子が本当に可哀想だ。
あの子が可哀想だ。
口を開けば「お母さん、お母さん」
もうとっくに死んでいるのに繰り返す。
「お母さん、お母さん」
頭が狂ってしまったのだと言われている。
あの子が本当に可哀想だ。
あの子は可哀想だ。
嫌がっていたのに偉いお坊さんの前に連れられて行き。
お坊さんはあの子の言い分を何一つ聞きもせずに。
「この子の母親が悪霊となりこの子にとりついている」
だから、不幸と決めつけて。
勝手にお祓いをしてあの子から全てを奪った。
あの子が本当に可哀想だ。
あの子が可哀想だ。
何を言われても無視をして。
宙に向かって言い続ける。
「お母さん。お母さん」
誰も答えてくれないのに言い続ける。
あの子が可哀想で仕方ない。
偉いお坊さんは子供を救ったと満足気に語っている。
曰く、悪しき霊にとりつかれたままでは必ず死に至るから、これが最善なのだと断言する。
確かにそうなのかもしれない。
だけど、私はあの子が可哀想で仕方ない。
今日も空を見つめて母を求めるあの子が。
偉いお坊さんはあの子の予後を気にしたりしない。
いや、誰だってあの子の予後を考えたりしない。
だから、あの子は今日も独りきりだ。
あぁ、あの子が可哀想だ。