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喪女のわたしにどうしろと?~前世の記憶が戻ったのは結婚式の直前でした~  作者: Alicia Nish


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番外編:エイプリルフール――切ない嘘

小さな嘘が大きなすれ違いになる。

それは、どんなに想いあっているカップルでも

多分、愛し合っている夫婦にさえも起こりうる日常――




彰に秘密がある。


「言えないよなぁ。」


トントンと封筒の角をテーブルにあてながら、頼子は小さくため息をついた。

現世の日本で見るはずのない蝋印された封筒――それは、いきなり送られてきた異世界からの手紙だった。


>>>>>>>>>>>>>><<<<<<<<<<<<<<<


「で、いまだに言えずにいるわけだ。」


親友の和美が呆れたようにグラスを傾ける。


「だって、異世界からの手紙ですって……ふつう信じる?」

「あのねぇ、あんたたちの新婚旅行は『ぶっ飛び異世界、前世の旦那の会ってきました!』だったわけでしょ?いまさら信じるかどうかのレベルの話してる方がおかしいでしょ。」

「あれは新婚旅行じゃないって……。もう、和美ちゃん、冷たい!冷たすぎるわっ!!」

「酔って現実逃避しない。」


彰が出張で留守になった週末、頼子は親友の和美と久々の女子会を楽しんでいた。

お洒落なバーとか、気楽な居酒屋とかじゃなく、飲みを頼子の自宅にしたのは、この『手紙』の件があったからだ。


「読んだの?」


突然、核心をついてくるあたり、和美はやっぱり隙がない。


「まだ……」

「異世界からってことはわかってるんでしょ?」


頼子がこくりと頷く。


「だって、蝋印のある宛先のない手紙なんて、ふつう存在しないもん。」

「まぁ、そうよね。」

「しかも、いきなりわたしのナイトスタンドにあらわれたりもしないでしょ?」

「そりゃ……そうなのよね。」


この『手紙』は、突然、枕元に届けられていた。

あの()()()()()()()()で久しぶりに再会したオリビアからもらった、安眠効果のある香炉の横に、突然あらわれたのだ。蝋印は、オリビアだった頃に使用した記憶のあるもの――


「オリビアさんからかもしれないでしょ?」

「蝋印がね……微妙に違うのよ。」

「何それ!」

「蝋印は、エスコバル辺境伯家のものであることは間違いないんだけど、オリビアのものより少し小さい気がする。それに、どこか不慣れな感じなのよね。」


伊達に辺境伯家で執務をしてきたわけじゃない。蝋印の見分け方や筆跡、送り主の癖などを覚えるのも辺境伯夫人としての教育の一端だった。


「あんた、ホントに異世界で辺境伯夫人してたのね。」

「してたのよ。」


和美を呼んだのは、愚痴を聞かせるためではない。彰に打ち明けられない秘密を、このままにはしておけなくて、相談したかったのだ。


――違うな。一人で手紙を読むのが怖かったんだ。


突発的に逃げている理由に思い当たって、頼子は苦笑いした。


「開けるよ、今……」


息を詰めてゆっくりと手紙に手をかける。ピリリと痛いほどの緊張が、無意識に指先を震えさせる。この手紙がもたらすものの意味――この『手紙』が引き起こす出来事の重大さを、知らずに感じ取っていたのかもしれない。


>>>>>>>>>>>>>><<<<<<<<<<<<<<<


「ただいま!」


一週間ぶりに、愛する旦那さまが帰宅した。愛おしそうに抱きしめてくれるのが嬉しい。


「おかえり。体調は?疲れてない?」

「おかんみたいだなぁ。」

「ひどい。」


頼子はわざと大袈裟に膨れてみる。


「そういうことを言う人には、『おかえりカレー』食べさせませんからね。」

「あっ!ごめん、食べたいデス。頼子さんの優しさが照れくさくて、悪態つきました。」

「それも、嘘くさいんですけど」


じっとりと彰を見つめる。

お互いの目が合って、思わず吹き出す。


「温めるから、着替えておいでよ。」


彰が寝室に向かう。異世界から戻って、頼子が一番懐かしく感じた現世の料理がカレーライスだった。あまりに庶民的な料理で、彰には爆笑されたけれど、あの世界にはスパイス自体が希少すぎて、カレーを無味出すなど無謀すぎたのだ。そんな二人だけの思い出が、帰宅したら『おかえりカレー』という習慣を生んだ。


 もうはや、伝統だって。彰は本気で言ってるんだもんなぁ。


嬉しそうに笑う彰の顔に、頼子の頬が緩む。


「頼子……」


そんなしあわせな雰囲気を、一瞬で凍らせるような、彰の低い声が聞こえてきた。

驚いて振り向くと、彰の手元に封筒がある。


「これ、何だよ。」

「あっ……」


彰の帰宅に浮かれていて、頼子は寝室のサイドテーブルに置いたままの手紙のことをすっかり忘れていた。


「この蝋印って」


彰の言葉に、頼子の思考は真っ白になった。

その動揺が良くなかった。

一瞬、喉にひゅっと息が刺さる。


「びっ、びっくりした?この前、蝋印が自分で作れるって見つけたら、面白くなっちゃってオリジナルで作ってみたの。本物っぽいでしょ?」



とっさに出たのは、真っ赤な嘘――



彰がひどく傷ついた顔をする。


「悪い……俺、ちょっと出てくる。」

「えっ?」


鍵を素早く手にすると、彰は一瞥もしないでドアから出ていった。


「待って……」


その声を掻き消すように、ドアの閉まる大きな音がする。

波を打った静けさが、突然部屋を襲う。


気づいたときには遅すぎた。どうして嘘なんかついんたんだろう。頼子は後悔でいっぱいになった。ドクドクと嫌な音を立てて心臓が早鐘を打つ。

彰が落とした手紙を見つけ、ふらふらとしながらそれを拾う。


「絶対、勘違いさせたよね……」


手紙をもう一度、読み返す。


     突然のお手紙で、驚かせてしまうことをお許しください。

     今、学院で時空間魔法を使える魔道具の研究をしています。

     その過程で、母上から聞いた頼子さまの世界へ手紙を送る実験を思いつきました。

     果たして成功するか、たとえ成功したからと確認を取る方法もないのです未熟なものです。

     けれど、両親の想いが届けられればと挑戦するに至りました。

     お受けいただけたら、嬉しく思います。


                     ヨーリック・エスコバル


手紙は、オリビアとジオの息子――エスコバル家嫡男のヨリからだった。

和美はこの内容に感心し、異世界の存在を認めざるを得ないと笑った。でも、頼子はなんだか大事のような気がして、単純に笑い飛ばせなかったのだ。こちらでは、冬から春へと季節が一つ変わっただけだが、辺境領では、いくつかの季節が過ぎているだろう。懐かしさと、苦さと……頼子の気持ちにはまだ生々し感情が混ざってしまう。異世界のことは、どことなく彰に後ろめたい気持ちがある。頼子のそんな浅はかさが、最悪のカタチで彰の前にあらわれてしまった。


 


ばしっ


頼子が両手で両頬をひっぱたく。


「よし、行くっ!」


温めたカレーを片付けて、頼子も鍵を片手に部屋を飛び出した。


***


はあはあと肩で大きく息をする。


馴染みのバーのマスターから電話があったのは三十分ほど前のことだった。


「あっ、よりちゃん?彰くん、酔いつぶれっちゃったのよ。迎えに来てくれる?」


何があったのか聞かないあたりは、プロだなっと思う。

バーとは真逆の場所にいたこともあって、たどり着くには時間がかかった。


「マスター、すみません。」


カウンターでうつぶせになっている彰を見つけて、心底ほっとする。

声をかけると、何とか自力で歩けるくらいではあるようで、頼子が舵取りをするように、タクシーまで誘導する。


「大丈夫?」

「はい、今度二人でお礼に来ますね。」


お詫びというのはなんとなく違う気がして、『お礼』と告げた。


「元気になったら、顔を見せて。」


マスターはそう苦笑いした。


***


「はい、お水。」


差し出したコップを受け取り、一気に水を飲み干すと、彰が突然、頼子を抱き寄せた。


「あの蝋印、エスコバルのだ。」

「やっぱり気づいた?」

「お前が教えてくれたんだ。ボネットの花と鷹……」

「覚えてたんだ。」

「忘れるわけない。」


後ろから抱きしめる彰の腕に力がこもる。


「どうして嘘なんかついたんだよ。」

「エイプリルフール……だから……ってことにしてもいい?」

「……」

「ごめん、嘘……。どう説明したらいいかわからなくてテンパった。」

「…………」

「最低だったよね……ごめんなさい。」


回された彰の両腕をギュッと抱きしめる。


「やっぱり、許してもらえない?」

「それは、ズルいぞ。」

「彰、まだ怒ってる……」

「もう、怒ってない。」


頼子が彰の腕に口づける。


「俺はお前に甘いんだ、許すに決まってるだろ。」

「彰、優しすぎるよ。」

「俺は、誰よりお前を愛して甘やかすって決めてるんだ。」


頼子の顔を反転させて、彰が唇を重ねる。


「だから、俺だけを見ろ。」


多分、彰の中にはジオに対する嫉妬心がある。

普段は静かになりを潜めているが、今回ばかりは絶対頼子が間違えた。

一番繊細な傷口を、一番卑怯な手でさらに傷つけてしまった。


「ちゃんと、話を聞くよ。」

「酔いは?」

「冷めた。」


頼子は隣に座ると言い張ったが、彰は手放すつもりが一切なく、結局二人はそのまま話し合うことになった。彰を探すときに持ち出した手紙を、まず最初に見せることにした。


「ヨーリックから」

「ヨリくん?」

「そう。」


手紙にサッと目を通した彰が大きく息をつく。


「俺、情けねぇ。」


ぽすんと肩に彰の額が当たる。


「私、駄目だね。彰を安心させられない。」

「違うよ。俺が勝手に……男としてなんか負けてるみたいで勝手に嫉妬してるだけだ。」

「彰ほどカッコいい人いないのに?」

「ジオには負けてるだろ?」

「どこが?」

「全部……」


頑なに抵抗する彰の腕をほどき、頼子が向かい合う。


「彰は全部、ジオに勝ってるよ。」


強い眼差しで、彰の瞳を見つめる。


「私への想いも、大切に思う気持ちも……なにより、私だけを愛してくれる、でしょ?」


彰の頬を両手でつかみ、そっと唇を重ねる。

気持ちがちゃんと伝わるように……心がちゃんと通うように。


「信じて、私には彰しかいない。」

「俺ってこんな女々しい奴じゃなかったはずなのにな。」


彰が困ったように笑う。


「ジオのスペックと比べるからでしょ?」

「お前、またそういうことを」

「彰はジオじゃないよ。」

「えっ?」

「彰は彰なの――私の世界で一番大事な旦那さま!」


最後は照れくさくなって、おどけてみせる。

そんな頼子の手を取り、彰が破顔した。


「お前の一番が俺なら、それでいい!」


抱きしめ合ったまま、床に倒れ込む。気持ちを確かめ合うように、何度も口づけを交わす。

頼子のとろけたような顔を見つめ、彰が笑う。


「俺、頼子の『おかえりカレー』食べたい。」


ゆるっと空気を和ませる彰の笑顔に呆れながら、頼子もつられて大笑いする。


「やっぱり、彰は彰よね。」




そして、この『ヨリの手紙』が、二人と異世界との懸け橋になることは――もう少し未来(さき)の話。




『嘘をついても許される日』と思われがちなエイプリルフール

でも、たった一つの嘘が、未来を永遠に変えてしまうこともある。


想い合っていても、

夫婦でもすれ違うことはある――


大切なのは『二人で解決!』

これ基本w


本音は隠さないほうがいい。

わかっていると思い込んではいけない。

喧嘩をすると、つい意地を張ってしまいたくなるけれど、

大事な人には素直になれるといいですよね。


さて、五話完結の物語のほうも中盤。

今日が折り返し地点です。


興味がありましたら、お読みいただけると嬉しいです。

【新連載】

『顔だけ王子』と政略結婚~しっかり育てて溺愛させて、最強夫婦を目指します!~


ブクマ・リアクション・感想、本当にありがとうございます。

皆さまの応援が、何よりの励みになっています。


これからも楽しんで読んでいただける作品を目指して頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします!

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