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喪女のわたしにどうしろと?~前世の記憶が戻ったのは結婚式の直前でした~  作者: Alicia Y. Norn


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16/17

番外編:クリスマスの奇跡・前編――異世界での再会!?

クリスマス、奇跡が再び頼子とオリビアを引き合わせる――

現世の幸せ(旦那さま・彰)と共に、異世界へ!

いったい何が起こるのか……。




 「頼子。」


 彰の優しい声がする。

 わたしの旦那さまは、時々こうして甘えモードになる。

 夫婦になる前、付き合う前に、大きな事故にあったわたしが、また突然どこかへ行ってしまうような不安に駆られると言った。


 「どうしたの?」


 ソファで後ろから回された腕をギュッと抱きしめる。

 もたれかかった胸元で、小さな鼓動が聞こえる。


 「どこにも行くなよ。」


 不安そうな声に、心が締め付けられる。




 ある日突然、ウエディングドレスで別人になっていたわたし。

 その女性に転生したと理解して、異世界で幸せな結婚生活を送る努力をした。


 夢のような異世界の生活……


 けれど、転生ではなかった。

 借り物の身体には、ちゃんと持ち主がいた。

 だから、身体を返すことにして、わたしは異世界の夫に別れを告げて姿を消した。

 現世のわたしは死んだと思っていたから、異世界で消えたらどうなるのか不安だったけれど、現世のわたしは、一命をとりとめて入院していた。


 目が覚めたら、そこに彰がいてくれた。


 終わったはずのわたしたちは、そこから新しく二人であることを選んだ。

 そしてもうすぐ、結婚して初めてのクリスマスを迎える。

 

 「戻りたいって思うか?」


 多分、異世界の生活のことを言っているんだろう。

 少しだけ抱きしめる腕に力が入る。


 「戻りたいとは思わないよ。でも、二人がどうなったかは、やっぱり気になる……かな。」


 彰には包み隠さず異世界での出来事をすべて話した。

 結婚していたことに酷くショックを受けていたけれど、それでもわたしを受け止めてくれた。


 「彰が一番だよ……まだ、心配?」

 「信じてるけど、時々どうしようもなく不安を感じる。異世界がどんなところだったのか、頼子がどんなふうに生活していたのかさえ、想像できないんだ。」

 「クリスマスの奇跡でも起きればいいのにね。」

 

 彰にわざと笑ってみせる。


 「なんだよ、それ。」

 「だって、クリスマスなら、神さまが願いをかなえてくれそうじゃない?」

 「何を願うんだよ。」

 「それはもちろん、彰と一緒にオリビアやジオにもう一度会いに行きたいですって言うの。」

 「いくらなんでもそれは無理だろ。」

 「いいのよ。クリスマスくらい、叶うとか叶わないとか関係なく、自分の一番のわがままを言ったってかまわないでしょ?」


 笑い飛ばしながら、少しだけ切なさを感じる。

 あの時間は夢だったのか、妄想だったのか、現実味だけがどんどん薄れていくからだ。


 時間って残酷――。


 そんなことを思ったときだった。突如、閉めきった部屋に風を感じる。同時に、ストロボライトのような真っ白な光に包まれた。


 「えっ……何だコレ!?」

 「ちょっと待って、なんかおかしいよ?」


 彰の焦った声が聞こえた。

 異変が起こっているのは、わたしにだけじゃないようだ。

 抱きしめる彰の腕にしがみつく。


 「大丈夫だ、絶対離さない。」


 彰の声が、耳元で響いたのを最後に、わたしの意識が途絶えた。


***


 「頼子、大丈夫か?」


 良く知っている声が聞こえる。ずっと奥深くに沈んでいた意識が、ゆっくりと浮上する。


 「あれ?ここ……」


 見覚えのある風景だった――現世で……ではなく、異世界で。


 「あっ、彰?」


 見知った世界に、でもいないはずの彰がいて混乱する。




 「やあ!」


 突然、聞き覚えのないさわやかな声が聞こえてきた。

 慌てて声の主を探すと、『いかにも』という風体の人……?がにこやかに立っていた。


 「君は聡いね。ここがどこだか、理解できているようだ。」


 まるで、昔から知っているご近所さんのような気軽さで、わたしの直感を肯定した。居場所に見覚えがあるのは当然だ。今、わたしたちのいる場所は、オリビアと意識下で会っている時の風景と酷似してるのだ。


 「じゃあここは、異世界じゃなくて、精神世界?」


 目の前のその人は、ふふふっと笑った。でも、それは小馬鹿にした笑いではなく、正解を見つけた子供に感心した……そんな笑いだった。


 「あなたは、神さま?」

 「君たちの世界でいう、()()が一番近い存在だね。」


 あっけにとられて言葉を失くした彰の横で、わたしたちの会話はどんどん進んでいく。


 「なぜここへ?」

 「だって、君が望んだでしょ?」

 「へっ?」


 間抜けな声が出る。


 「わたしが神さまに願ったから?」

 「まぁ、そんなところだね。」


 いやいや、願ったら叶うって、おかしいでしょ。


 「あっ、ちなみに、わたしは君たちの気持ちが直接届いてしまうから、気を付けてね。」


 えっ?まさかのプライバシーゼロ再びですか!?


 「まぁ、そうなっちゃうね。」


 わたしの考えに、神さまは気まずそうに、でもハッキリと答えた。


 「君が異世界に呼ばれた『魂の召喚』。あれね、わたしの弟子のミスだったんだよね。」

 「ミス!?」

 「そっ、あの子に悪気はなくってね、オリビアを助けようとしたんだ。」

 「はぁ。」

 「本当に、申し訳なかった。でも君はとっても優しくて、巻き込まれたあの世界で二人の人間を救ってくれた。だから、お礼とお詫びができるチャンスをうかがってたのさ。」


 ノリが軽すぎやしませんか?


 「そんなふうに言わないでよ。シリアスで仰々しいのって苦手なんだからさ。」


 彰が正気を取り戻して、大笑いを始める。


 「神さまって、そんなノリでいいの?」


 わたしの旦那さまは、意外と適応能力が高いらしい。


 「頼子の願いをかなえてくれるってことは、俺と一緒に、もう一度異世界に行けるってことであってる?」

 「彰、そんな言葉遣い……」


 神さまと聞いて、相手にしり込みするわたしの横で、素早く状況を把握しだした彰が、えらく軽いノリで言葉を交わす。


 「さすがは、異世界帰還者の旦那さまだね。寛大で理解も早い。」

 「いいんですか?そこって、気軽に行けない……行っちゃいけない場所ですよね?」

 「そうだね。だから、今回限りの限定だけどね。」

 「頼子の話だと、俺たちの世界と時間の進み方も違っていたから、その心配もないってことで?」


 わたしが異世界から戻ったとき、現世ではそんなに時間が経っていなかった。彰はその確認をしたかったのだろう。こういうところは、本当にしっかりしている。


 「君たちが話していた、ほら、何だっけ?」

 「クリスマス?」

 「そう、その日限定になるから、問題ないよ。」


 神さまと違和感なく会話する彰を、今度がわたしが唖然と見つめていた。


 「チャンスをありがとうございます。頼子、行こうぜ!」


 彰の笑顔を見たら、行かない選択肢はなくなった。


 「よろしくお願いします。」


 思わず神さまに頭を下げてしまったら、お詫びとお礼なんだからと苦笑いして神さまが送り出してくれる。そんな姿に、わたしたちもつられて苦笑いしてしまった。


***


 再び眩しい光に包まれる。

 彰と手をつなぎ、笑いあう。


 霧が晴れるように視界がハッキリしてくると――


 「ちょっと、ここ寝室っ!神さま、何考えてるのよ。」

 

 辺境伯家の寝室に転移したわたしは、赤くなっていいのか青くなるべきなのか……とにかく激しく動揺してしまった。


 「頼子姉さま……?」


 寝室の横にある夫人の執務室からそっと入ってきた女性が、小さな声でつぶやく。


 「オリビア?」


 この世界で、わたしを姉さまと呼ぶ人物はたった一人だ。

 わたしが知るオリビアよりも年月を重ね、上品な貴婦人になったオリビアがそこにいた。


 「久しぶりね。」

 「姉さまっ!」


 大きく見開いた瞳から、ポロポロと涙を流しながら、オリビアが駆け寄ってくる。

 そんな彼女を抱きしめて笑う。


 「辺境伯夫人が、いいのかしら?」


 オリビアは、感極まって何も言葉にならないようだ。

 わたしの目尻にも、あたたかな涙があふれてきた。



 「オリビア、こちらがわたしの夫、河野彰。彰が彼の名になるわ。」

 「初めまして。」


 この世界の時間の進みは早い。わたしが去ってから、すでに十年以上の時が過ぎ、オリビアは、わたしと変わらない年齢になっていた。異世界に動揺……というより、目の前に立つ貴婦人に緊張した様子の彰が、かしこまってお辞儀をする。


 「初めまして、ジオヴァンニ・エスコバル辺境伯が妻、オリビア・エスコバルと申します。」


 あのころと変わらない、もっと洗練された優雅なカーテシーで、オリビアが挨拶を返す。彰の耳が少し赤い。確かにオリビアは綺麗だから、見とれてしまうのも無理はないかもしれない。


 「ジオは?」


 彰がその名前にピクリと反応する。


 「先ほど早馬を出しました。お仕事の調整をしてお戻りになると思いますわ。」


 さすが、想定外の出来事に強い辺境伯領だ。オリビアの異変に即座に気づき、ジオへの連絡はすでに指示済みというわけだ。


 「オリビア、わたしとあなたの仲よ。堅苦しい言葉遣いはやめない?」

 「よろしいのですか?」

 「そんなの、寂しいじゃない。」


 困ったように笑うと、オリビアが花が咲くように笑った。


 「サロンにお茶を準備したの。ジオが戻るまで、あちらで待たない?」


 大きく頷き、キョロキョロとあたりを見回すのに忙しい彰の手を引いて、わたしはさっさとサロンへと移動を始めた。




 家令を筆頭に、突然屋敷内にあらわれた異国の不審人物……もとい客人に、大きな戸惑いを見せることなく誰もが完璧な対応をして見せた。わたしが覚えているままの、優秀な辺境伯家の使用人たちだ。残念なことに、彼らが知っているわたしは、オリビアの姿だったのだから、間違っても名前を読んだりしてはいけないのだけど……少しの緊張感をもったまま、それでも、さぞや驚くほど珍妙な姿をしている二人の客人を、心地よくもてなしてくれることに最大限の感謝を示した。


 「オリビア、幸せそうね。」

 「お姉さまも。」

 「わたしの方は、ここを去ってからまだ二年もたっていないのよ。」


 時間の経過の違いに苦笑いしかできない。


 「だから、お変わりないのですね。」

 「あなたは……より一層、美しくなったわ。」 


 そんな褒め言葉に、頬を染める。

 純粋さは、変わっていないらしい。


 「お母さま!」


 オリビアのもとに、わたしが覚えているジオの髪色よりは少し濃く黒に近い瞳の色と、オリビアと同じ髪の色をもつ小さな男の子がやってきた。


 「あら、ヨリ。お稽古は終わったの?」

 「はい。」


 利発そうな男の子だ。


 「お客様ですか?」


 わたしたちの様子に気づき、瞳をキラキラと輝かせる。

 オリビアが静かにうなづいた。


 「エスコバル辺境伯が嫡男、ヨーリック・エスコバルと申します。」


 きれいな貴族の礼を尽くすこの少年は、あの王都旅行の時の体調不良の原因だったと、オリビアが教えてくれた。


 「だから、ヨリはお姉さまの子でもあるのですよ。」


 彰に聞こえないように耳打ちする。

 確かに否定はできない……あの頃のわたしたちは、二人ともジオに……


 こほん、と小さく咳払いをして、これ以上は考える必要はないと思考を打ち切った。


 ほとんど無意識に、隣に座る彰の手を握る。


 「どうした?」

 「なんでもない。子供ってかわいいなって……」


 これはこれで、綺麗に地雷を踏んだかもしれない。

 言葉の意味をそのまま受け取ったのか、彰の顔が真っ赤になる。


 「あっ、えっ、そういうことじゃなくて……いや、そういうことなんだけど……」


 彰の反応に動揺したわたしも、多分耳まで真っ赤だ。


 剣術の稽古を終えたヨーリックがサロンに顔を見せたことに合わせて、オリビアの子供たちがみんな集まった。


 「長女のソフィア、次男のニコラス、次女のレイラよ。」


 まだ四歳だというレイラを抱きながら、オリビアが子供たちを紹介してくれる。


 「お母さま、こちらはどなたですか?」


 まだ九歳だというのに、長女のソフィアはオリビアに似て、とてもしっかりしている。

 古くからの友人だと説明されれば、お茶会に同席したいと許可を求めた。

 小さくても淑女。彼女の所作は、とてもきれいで彰が感嘆のため息をついた。


 長男のヨーリックは、剣術の稽古が終わると、復習も兼ねて弟のニコラスと鍛錬を始めるのが日課らしく、少し離れたところで木剣を使った打ち合いをしている。


 「すごいな……ここがお前の言っていた世界か……」


 目の前で繰り広げられる異世界の風景に、彰はただただ感心するだけだった。




 「オリ、頼子が来ているって、どういうことなんだい?」


 懐かしい人の声がして、無自覚に心臓が跳ねる。

 一瞬で、あの痛い別れを思い出して胸が軋む。

 珍しく慌てた声を追いかけるように、足音が近づく。


 「オリ。」


 扉に、美しい銀髪をなびかせた男性(かれ)が立っていた。

 ――()()()は、記憶に眠ったままの姿で、胸の痛みと一緒にわたしの前にあらわれた。

読んでくださりありがとうございます。


クリスマスの奇跡が運んでくれた再会は、

二人が幸せを確認し合う大切な時間になりましたね。

後編では、いよいよジオ(異世界の元・旦那さま)が登場します。

現夫・彰の運命やいかに!?


ブクマ・感想・リアクション、どれもとても励みになっています。

いつもありがとうございます。


複雑に絡んだ二組のカップルの行方――

波乱の後編、お楽しみに!!

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