「は?」
母親からラインがきた。
「タカユキ元気?家が異世界になりました。
都会の忙しい生活はやめて、こちらで
一緒に暮らしませんか?お父さんは毎日ドラゴンや巨大化した昆虫、爬虫類といったモンスター退治で忙しいです。もし良かったら、お父さんを手伝ってあげて下さい、では。」
「は?」
とうとう母親はアルツハイマーにでもなったかと思いながら、俺は久しぶりに実家に帰ることにした。
首都高速バスに乗ってバスを乗り換え、8時間かけて実家に辿り着き、玄関のドアを合鍵で開けると、そこにはナーロッパの風景が広がっていた。
石で舗装された道に立ち並ぶ果物屋や八百屋、武器屋、防具屋、道具屋、パン屋、カフェ等など。そして、鎧を着た騎士やローブと帽子に杖を持った魔術師、だだの村人、さらに首から上が猫や犬の動物で、首から下は人間といった数多くの人が歩いていた。
「は?」
慌てて俺は玄関のドアを開けて外に出た。
いつも見慣れた実家の景色。
大きな柿の木があり、その側に植木鉢に植えられた鈴蘭や山椒、クリスマスローズが幾つか並べられている。
もう一度、玄関のドアを開けて入ると、やはり先程のナーロッパの景色が広がっていた。
とりあえず玄関のドアに鍵をかけて、石で舗装された道を歩いて、異世界の人々に混じって町中を進んだ。
「タカユキ、タカユキじゃないか!!」
銀色の鎧を装備した中年風の男が話しかけてきた。よく見ると、それは父親だった。
「よく帰ってきたな、タカユキ。今から裏山のダンジョンに行くところだ。家はそこの肉屋を左に曲がったところにある。昼飯時には帰って来るから、それまでのんびりしていてくれ。」
そう言って父親は、人混みの中へ消えて行った。
「は?」
「実家の中に家?」
様々な疑問を持ちながら、言われたとおり肉屋を左に曲がると、見慣れた庭がない建物だけの実家が現れた。
玄関のドアは鍵がかかってなく、中へ入って進むとお袋が台所で昼食の用意をしていた。
「あら、お帰りタカユキ。早かったね、もうすぐお父さんが帰って来るから、一緒に昼ご飯食べる?」
「ああ、食べる。それにしてもこれはどういうこと?なんでこんなことに?」
「私もよく分からないんだけど、お父さんが言うには、こないだ墓参りに行って帰って来たらこんなことになってたんだって。」
「墓参り?」
「お父さん仕事が何十年もうまくいってなかったから、ご先祖様からのボーナスステージじゃないのかなと私は思ってる。」
人のいい父親は何人もの保証人になり、借金地獄に陥り生活は貧窮していた。
しかし今は母親の表情を見る限り、生活にかなり余裕ができているようだ。
「はい、とりあえずステーキとホウレン草にジャガイモのポテト炒めね。それからタカユキの好きな鮭に若鶏の唐揚げもあるわよ。」
「こんなに!!」
どうやら父と母は実家が異世界になって大成功しているようだった。