#002 熱砂の国へ
……こちらのロボットアクションフィギュアは、今から十五年前に発売された商品の復刻版となっておりまして、細部に改良を加えたうえ新たに金型からおこしなおしました。
改良いたしましたのは肘・膝・手首・足首等の主に関節部分で、ロケットパンチのギミックもそのままに、より多彩なポージングが楽しめるようになりました。
これによって、兼ねてよりファンの皆様から寄せられていた“アニメの名シーンを再現したい!”とのお声にようやくお応えすることができたかと存じます。
また、今回新シリーズの発売を記念いたしまして、同フィギュアのスペシャルカラーバージョンを限定100体、シリアルナンバー入りにて同時発売を予定しておりますので……
「――ご注文はお早めに!!」
力いっぱい寝言を言うと、わたしはボンヤリ目を開けた。
体が異常にダルかったので、しばらくの間ボーっとしていたのだけれど、意識が覚醒するに従って、自分の置かれた状況に違和感を覚える。
(ここ、どこ……?)
身体を起こすと、わたしはしげしげと辺りを見回した。
壁一面に施された美しいモザイクの装飾。
重厚な木製の家具は飴色に輝いていて、部屋のそこかしこに瑞々しい花が生けられている。
見上げれば、ドーム型の天井は遥か遠く、天辺にある丸窓から寄木細工の床に柔らかな日の光が落ちていた。
どうやらわたしは、やけに広くて無駄にゴージャスな部屋に一人寝かされていたらしく……。
というか、なんなのこの部屋?
自分なんでこんなところに?
(わたし、どうしちゃったんだろ……?)
混乱する頭を整理しながら、わたしは必死で記憶を手繰り寄せた。
……えーと。
確か、ついさっきまでイベント会場で最終準備に追われていて。
そのとき運悪くも向かいのブースから落ちてきたデッカイ豆ゾウの直撃を喰らったんだよね?
それで、その後の記憶が無いということは。
(恐らく気絶したかなんかで、ここに担ぎこまれたってとこなんだろうけど……)
……でも。
ここって会場の救護室にしては、ちょっと豪華すぎやしないだろうか?
救護室から大きな病院に搬送されたって可能性もあるけど、それにしたって無理があると思う。
だって、この内装。
病室の個室というよりも、むしろホテルのスイートって言った方が俄然しっくりくる感じだし……。
(それも普通のシティホテルじゃなくて、リゾートホテルみたいな感じ?)
なんだかアラビアンナイトに出てくるみたいな部屋だから、それっぽい雰囲気ではあるんだけど。
まあ、どっちにしても、なんか変だ。
さっきから人の気配がしないっていうのも薄気味悪いし。
(どうもよく分からないな……)
不思議に思いつつ改めて室内を見回すと、わたしは窓辺へと視線を彷徨わせた。
するとその時、窓に掛かったカーテンが、風に煽られてふわりと大きく捲れ上がったのだけれど。
「は……?」
ちらりと見えた外の景色に、わたしは愕然としてしまった。
夢か現か幻か。
わたしの目に飛び込んできたには、青々と茂る樹木の向こう、どこまでも続く真っ白な砂漠だったのだ。
「う、そ……」
馬鹿みたいに呟いたまま、一瞬思考が停止する。
この景色って……ホントに本物?
いやいや、あり得ないんですけど!
「なに、これっ……!」
転がるようにベッドから飛び降りると、わたしは窓辺へと駆け寄った。
窓から身を乗り出してよくよく見たけれど、やはり見紛う事なき砂漠が広がっている。
別にセットって感じじゃないし、かと言ってスクリーンに映写されてる訳でもない。
何より……頬に感じる乾いた風が、目の前の光景が本物であることを物語っている。
「な、なんで砂漠? てか、ホントここって一体何処なの!? まさか鳥取っ!?」
訳の分からぬ状況に取り乱しつつ絶叫したら、背後で人の気配がして。
「ここはオアシス都市、クミンシードだ」
驚いて振り返れば、衣擦れの音と共に現れた二つの人影。
艶やかな絹地のカフタンに派手なターバン飾りをつけた、もろアラビアンナイトみたいな格好をした目つきの悪い男と。
頭から黒いフードをスッポリ被った怪しげな人間と。
「我が国へようこそ。異界の魔女よ」
目つきの悪い男が偉そうに言うと、彼の背後に控えた全身黒ずくめの人物が、わたしに向かって深々とお辞儀する。
その光景に――やっぱりわたしはただ唖然とするばかりだった。