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#001 有明 AM10:30

 


 そもそもわたしは小さくてふかふかしてて、丸っこくてキラキラしたモノが好きなのだ。

 こんなふうに硬くてカクカクしてて、無骨でゴツゴツしたモノは好みじゃない。

 

(なのに……なんでわたしがロボ担当……)


 この、いかにも正義の味方ですって感じのベタなカラーリング。

 超合金のボディはどこもかしこもカクカクしてて、こんなの全然可愛くない。


(これのドコが良いんだろ?)


 ショーケースにディスプレイされた新作フィギュアを前に、わたしは口を尖らせた。


 ――昨日中国、今朝日本。


 フィギュアの試作が間に合いそうにないとの連絡を受けて、現地ラインの視察がてらわざわざ中国まで受け取りに行き、とんぼ返りで成田に到着したのが本日早朝。

 正直、心身ともにくたくただけど、そんな弱音を吐いている暇はわたしには無いわけで。


「松井先輩! ポスターなんですけど、この辺りでいいっすかね?」

「ああ……ポスターはいいけど、上の吊り看板が若干斜めってるかも。業者さんに言って直してもらって」

「あっ、ホントっすね。すいません」

「そういえば増刷分のチラシは? ちゃんと届いた?」

「それなら奥に積んでありますけど」

「じゃ、ディスプレイの脇に並べとくね」


 そこかしこから聞こえる工事現場みたいな音と、大勢の人間のざわめき。

 広い会場内に乱立する金属製の足場。

 わたしは明日から始まる関東おもちゃショーの最終準備に追われていた。

 因みに初日はプレスデーで、ホビー誌のライターさんや問屋さん、大手玩具チェーン店の営業さんやらがやってくる、商談メインの一日だ。

 はっきり言って、ぐったりしている暇はこれっぽっちも無い。


 玩具メーカーに就職してはや二年。


 可愛いキャラモノが大好きで入社したにも関わらず、わたしの配属先はなぜか男児向け玩具のマーケティング事業部で、よりにもよってロボキャラ担当。

 そして、二年経った今も、希望していた女子向け玩具のふわふわキラキラ感からは程遠い仕事をしている。

 上司曰く、わたしは男向けのマニアックな商材が合ってるそうなんだけど。


(正直ロボとかお腹いっぱいだし。同じマニアなら、せめてドールが良かったよ……)


 心の中で愚痴りつつ、わたしは恨めしい気持ちで向かいのブースに目を向けた。

 これでもかってくらいに、ずらずら並べられた人気シリーズのヌイグルミ――


 その名も『豆ゾウ』。


 丸まっちいフォルムに『象』というにはちょっぴり短めの鼻が愛らしいこのキャラクターは、その独特のゆるーい感じがOLさんにウケて人気に火がついた、ライバル社一押しのヒット商品だ。

 最近ではアニメ化までされて、目下人気はうなぎのぼり。

 大きな声じゃ言えないけど、実はわたしも豆ゾウファンの一人だったりするワケで。

 ていうか、死ぬほど好きだったりするんだけど……!


(担当するなら、ああいうのが良かったのに! もー、あのつぶらな瞳がほんっと可愛いんだよなー)


 ふと見上げれば、ブースの上にまで巨大な豆ゾウがディスプレイされている。

 デカくても、ラブリーだ。

 いや、むしろあのデカさにあの丸さ。

 加えて、あのモフモフ感。

 マジ最高だ。

 あんなデッカイのが自宅にあったら、毎日さぞ癒されるに違いない。


(あのサイズって普通に売ってるのかな? 上に乗っかって癒されたい……)


 寝不足で心がささくれているせいか、視線が豆ゾウに釘付けになる。

 すると――目の錯覚だろうか。

 巨大な豆ゾウが、グラリと揺れた気がしたのだ。

 疲れ目かなぁ、なんて思いながら目をこすっていたら、次の瞬間、頭上から怒鳴り声がして。


「……へ!?」


 巨大豆ゾウが、ゆっくりとこちらへ傾ぐのを見てわたしはポカンと口を開けた。

 続いて聞こえてきたのは、足場の崩れる金属音と。

 女の人の悲鳴と、男の人の叫び声と。

 そして――スローモーションみたいに、こちら近づいてくる巨大な丸いフォルム。

 突然の出来事に成す術が無く、ただ呆然と立ち尽くしていたら、やがてわたしの全身にモフモフとした激痛が走って。


 ――そりゃ、死ぬほど好きとは言ったけど。


 意識を手放す直前にわたしが見たのは、視界一杯に広がる豆ゾウのつぶらな瞳だった。

初めての異世界トリップものです。ほのぼの・コメディ路線になる予定です。まったりのんびり更新になるかと思いますが、よろしければお付き合いください。

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