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#014 ふわふわな男達

 

 


(――最悪だ)


 やさぐれながらティーカップに口を付ける。

 花の香りのするお茶も、ずらりと並んだ美味しそうな焼き菓子も。

 そして、わたしを遠巻きにするイケメンの群れでさえも、この気持ちを癒せはしない。

 何もかもウンザリだ。

 アドレナリンは出尽くした。

 もう家に帰りたい。

 今はただそれだけだ。


(それが無理なら、せめて少しの間だけでも放っておいてほしいのに)


 しかし、今のわたしには、そんなささやかな望みすら叶わぬらしく……。



「ふ。ふふふ。あははははははは!」



 不機嫌なわたしの横で、延々と笑い続ける男――その名はアルベール。

 ちょっと、この人さっきから笑いすぎなんですけど!

 こっちは恥ずかしすぎて泣きたい気分なのにっ。


「いいねぇ、アルベールは楽しそうで……」

「ああ、これは失礼。実は私、笑い始めるとなかなか治まらない質なもので」

「ふ~ん。そりゃ難儀なことだねぇぇぇ」

「いえいえ。少々呼吸が苦しいくらいで、それ以外は特に問題ありませんから、どうぞお気遣いなく。それにしても……まさかあのタイミングで、あなたがクリス様を突き飛ばすとは……。ふ……ふふふ。ふふふふふふ! あははははは!!」


 またもや笑い始めたアルベールに、わたしは不貞腐れながらソファーの背もたれに沈み込んだ。

 もういいよ。

 笑いたければ笑えばいいじゃん。

 ちょっとイラッとくるけれど、こんなの無視すればいいだけの事だし。


(まぁ、アルベールは放っておくとして……問題はこっちなんだよね)


 憂鬱な気分で足元へ視線を移すと、わたしは小さく溜息を吐いた。

 そう。

 目下最大の悩みの種は、笑い続ける男の横で、土下座せんばかりに深々と頭を下げ続ける二人の男――ミゲル・ロドリーゴ・ピンタードにリゲル・ロドリーゴ・ピンタード。

 ふわふわした金色の巻き毛に碧い目をした双子の兄弟だ。

 二人ともスルタン付きの小姓だったところを、クリスの勅により、本日付でわたしの護衛になったらしい。

 “らしい”と言うのは、わたしが気絶している間にクリスが勝手に決めた事だからなんだけど。

 ていうか、問いただそうにも、命令した本人は怒ってどこかに行っちゃったし。


「……ねえ、二人ともいい加減顔を上げて。ここに座って、ちょっと落ち着こう?」


 恐る恐る声をかけたら、二人は揃って首をふった。


「そうは参りません! 偉大なる魔女様とは知らず、先程は大変ご無礼仕りましたっ!」

「そんなに謝らないで、ミゲル。あれはほら、いきなりクリスに摑みかかったわたしが悪かったんだし……」

「いいえ、簡単に許されることではありません! この通り伏してお詫び申し上げますっ!」

「リゲルも、もう気にしないで。あの場合、あなた達のした事は正しかったと思うし、わたしだって別に怪我したわけじゃないんだから」

「いいえ、それは違います!」

「全部オレ達が悪いんです!!」


 どんなに宥めすかしても頑なに頭を下げ続ける二人に、わたしはどうしたものかと途方に暮れていた。

 上背はあるけれど華奢な骨格にまだ幼さの残る顔立ち。

 正確な年齢は聞いていないけれど、ぱっと見16・7といったところだろうか。

 揃いの青い外套に身を包み、小さな四角い帽子を頭に乗せた二人は、天使顔負けの可愛らしさだ。

 ていうか、こんな可愛い二人組から延々と土下座されるなんて、めちゃくちゃ居心地悪いんですけど。

 端から見たら完全わたしがヒールだし……。


「いいから二人とも頭を上げてよ。今回の件に関してはわたしが軽率だったってのもあるし、そもそも前もってわたしの事をあなた達に説明しておかなかったクリスだって悪いんだからさ……」

「そんなっ、クリス様のせいだなんて!!」

「そんなっ、とんでもありません!!」


 クリスの事を非難したとたんに慌てふためく二人を見て、わたしは無性に腹が立ってきた。

 だって、一体何が違うというのか。

 いくらわたしの内廷行きが急に決まった事だったとしても、クリスは事前にわたしのことを小姓の皆さんに知らせておくなり、その場で紹介するなりするべきだったのだ。

 それなのに、あいつがした事といえば……

 人の話に聞く耳持たず、強引にここへ連れて来きて。

 驚く小姓の皆さんに事情を説明するどころか、いきなりわたしに喧嘩を吹っかけてくるような真似をして。


「そうだよ……全ての元凶はクリスじゃん! ていうかアイツ人の話をぜんぜん聞かないうえに説明もしないってどういうこと? おまけに事あるごとに喧嘩売ってくるし、性格に問題ありすぎ! アルベールもそう思うでしょう?」


 わたしが怒りに任せて話を振ったら、アルベールは漸く笑い止んだ。

 そして、クッションから身体を起こすと、少し考えるように首を傾げる。


「そうですねぇ。英乃に対するクリス様の振る舞いは、確かに少々行き過ぎの感が否めませんが……」

「ほら二人とも聞いた? やっぱりアルベールもそう思うでしょ?」


 わが意を得たりとばかりに、わたしが勢い込んで言ったら、アルベールはふふふと笑って。


「ええ。ですが、それは仕方の無い事のように思います。今までクリス様の身の周りには、あなたのような女性は居りませんでしたからねぇ。恐らく私が思うに――」


 クリス様は英乃のことが気になって仕方が無いのでしょう、と。

 アルベールの思わぬ言葉に、わたしは驚いて目を丸くした。





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