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第二話 屋上と汐風

我が校の最上層である3階の、その上。


俺の知っている中では、この先が彼女の要望に応えられる最適の場所だ。少なくとも校内ではベストだろう。


階段を上がりきった先にある、屋上の入口。一部が錆びている、見る者すべてににアンティークを感じさせるドア。ただ、わざわざ見る人がそれほどいるのかはどうだろうか。


慣れた手つきで解除したのは、勝手な立ち入りを防ぐためのダイヤル式の錠だ。


グイッとノブを回して、ドアを押す。

開扉。

外の光が、少し、また少しと、漏れ出るように薄暗い廊下に差し込んでいった。


「昨日のメール見たけど、ここで大丈夫?」

「まぁ、はい。別に生徒会室でもよかったですけどね、私としては」


若干不服そうなのは、外で日に焼けるからとかいう女子的な理由によるものなのか。


「先、入って」

「じゃあ、どうも」


先に行かせた斎藤に続き、自分も屋上に出る。

紳士でありたいのならば、レディファーストの精神は常に大切にするべきだ。


ドアをくぐる、と外の寒さに身が包まれる。


空の下。

自殺の防止か、事故の防止かのために作られたであろう柵に囲まれた屋上は、閑散としている。

ある物と言えば、防災倉庫がいくつか。それと、遠目でも使用されていないことが分かるほどに壊れている木の椅子が複数放置されているだけだ。


汐風が、俺の前が開いたブレザーを揺らめかせては駆け抜けてゆく。それは初冬の冷たいものでも、俺をなんとなく海側の端まで歩かせた。

鉄柵に体を、ブレザーを押し付けて、ゆらゆらとしないようにする。


「相変わらず、空が広いな」


目に映った景色に、思わず声が出た。

始めてではないはずなのに。


波寄せる浜の向こう、蒼く広がる海。

その奥に見られる、伊豆の影。

そんな海を挟み、江を成しているは緑の山々。

橙と空色の混色。ところどころに浮いている雲をアクセントに、どこまでも広がっている空。


「はい、広いですね」


斎藤が隣まで歩いてきた。潮風で髪が少し乱れて、眼鏡に髪が被っている。髪を整える素振りを見せないのは彼女らしいところだ。


「まぁ、リュックでも下ろすか」


足元に、とても重いリュックサックを下ろす。

一挙に腰、いや体全体が軽くなった。


斎藤も「そうですね」と、黒の四角いリュックを足元に下ろした。

女子というのは皆、ザ・リュックタイプの、丸みを帯びたリュックサックしか使わないものだと思っていた。だが、外れ値というものはどんなものにも存在するわけだ。


そうして、再び二人揃って、鉄柵前で隣り合ったタイミングで俺は尋ねた。


「で、斎藤」

「はい、何でしょう」

「昨日のメールで今いるわけだけど、どうした?」

「逆に聞きますが、分かりませんか?」


ーー23:57

夜分に失礼します。お久しぶりです、斎藤です。明日の放課後、どこか人目につかないところで、相談したいことがあります。よろしくニキー。('ω' 人)♡


ちなみにこれが、彼女が昨日寄越したメールである。

なんなんだね、此奴は。


俺は、空に浮いている雲を見つめながら答えた。


「いや、分からんね」


そうだ、俺は分からない。

あぁ、うん。

分からない。


「そうですか」

「あぁ」

「さいですか」


斎藤の、溜息と深呼吸の間くらいの音が聞こえた。


「じゃあ、単刀直入に聞きます」

「あぁ」


彼女は、俺の方に体を向けて、今までより冷たい声で言った。


「先輩は…」

「俺が?」

「いえ、はぃ」


おそらく戸惑い、震えを含んでいた。だが、意識の下に発せられる、確かに澄んだ声だったように思う。


「草野、草野桜先輩の思いを継いで、生徒会長になってくれませんか、蒼井先輩」

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