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愛が重いだけじゃ信用できませんか?  作者: 歩く魚
番外編

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弟子2

古庵先生の講義を受けて、明るい春を迎えよう!

 1時間は経過しただろうか。

 あれから8人ほど会話をしてみたが、誰も彼もが浮かれた顔で悩みなどないと言う。


「……普通の人間は悩まないのか?」


 自分という人間が面倒臭い性格なだけなのかもしれない。

 ……それは間違っていないだろうが、かといってそこまで悩まないものなのか?

 しかし、自分の方針に疑問を持ち始めた頃、ついに転機が訪れた。

 前から歩いてくる男子。

 身長は俺より高く、モサモサした黒髪を揺らして歩いている。

 いや、揺れているのは髪の毛ではなく頭のほうだった。

 酷く落ち込んでいるようなのだ。


「……ツキが回ってきたな」


 春は出会いと別れの季節だ。

 多くの人間にとっては太陽が微笑む素晴らしい時期だが、ごく稀に北風に吹かれる者もいる。

 出会いとは、別れがあるから起こるものだ。

 この男子生徒を一目見て理解することができた。彼は北風に吹かれる側の人間だと。


「……あの、大丈夫ですか?」


 気を落としてはいるものの足の向きは一定。

 彼は一年生ではないのだろう。

 であれば、迷っているという導入は速攻で解決されてしまう可能性が高い。

 そんな時に有効なのは一次的な反応……心からの心配だ。


「……僕ですか?」


 彼が顔を上げて初めて、四角いメガネをかけていることに気がついた。


「はい。なんていうか、すごく落ち込んでいるように見えたので」

「……そうなんです。よ、よかったらちょっと聞いてもらって良いですか?」

「俺でよければ。ちょっと座って話しましょうか」


 言い方は悪いが、釣り上げることができた。

 彼と二人で空いているベンチを探す。



「……ははぁ、そうだったんですね」


 ちょうど空いているベンチを見つけて座り、話を聞くこと15分。

 まず前提として、予想通り彼は一年生ではなかった。

 聞いてみると俺の一つ上、今年の春から2年生だ。

 次に、彼の名前は来島。最後に、悩んでいる理由だが――。


「せっかく気になる子と会話できたのに、彼氏がいるかどうかどころか、好きな食べ物すら聞けないなんて……辛いですね」

「そ、そうなんです……ははは……」


 いま俺が口にしたことが全てだ。

 彼は、スイーツを楽しむ、とかいうよくわからないサークルに所属しているらしいのだが、そのメンバーに意中の相手がいるらしい。

 二人は一年時からサークルに加入していて、活動日もかなり被る。

 しかし、来島はその子とほとんど会話したことがなく、名前が佐藤ということしか情報がないのだと。

 今日は朝からその子と会話する機会があったようだが、来島は適当な相槌を打つだけでまともな会話もできず、結果このように落ち込んでいる。


「いやもう、情けないですよね。本当どうしたらいいのか……」


 彼の表情を一言で表すなら、泣き笑いというのが一番近いだろう。

 第三者である俺からしても状況は絶望的だし、本人の精神的ダメージは半端じゃないはずだ。

 俺が抱いている「佐藤って名前でスイーツサークルは面白いな」という印象と、来島の持っている情報量は大差ないのだから。

 しかし、これはKLからするとチャンスだ。

 恋愛は多くの大学生が興味を持つジャンルであり、しかも一見無茶に見える案件を片付けることができれば、きっと生徒たちからの評判や知名度は上がる。

 青天の霹靂。

 いや、自分で依頼者を探していたから気候変動装置を使ったようなものだが、ともかく大チャンス。

 先は長いだろうが、なんとしてでも彼を満足させて華々しい一勝を――。


「――やっぱり諦めるしかないのかなぁ」

「…………え?」


 突然の言葉に耳を疑う。


「今、なんて?」


 来島は下を向いたまま力無く答える。


「もう一年も進展がないんだし、諦めるべきなんじゃないかなって――」

「馬鹿野郎!」


 しまった、と思った時にはもう遅い。

 大学生なんて浮かれているだけの馬鹿ばかりだと日頃から思っていたが、どうやら自分もそのうちの一人だったらしい。

 周囲に聞こえるほどの声量で上級生を叱咤してしまう。


「え……えっ?」


 ほらみろ。来島だって鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。

 とはいえ、声量に関しては反省しているが、その他のことに後悔はない。

 今だって身体の芯が熱くなるような感覚がある。


「それくらいで諦めるんですか?」


 できるだけ冷静に、語気を強めないよう来島に問いかける。


「そ、そうしようかな……って。だって、一年も何もできなかったんですよ? これからだって、きっとなんの進展もないですよ……」

「……あんたは先輩だけど言わせてもらう。一年間、一途に想い続けられるその精神力は並大抵のものじゃない。自分を過小評価しすぎだ」


 また怒られるんじゃないかと身構えていた来島だったが、俺の気持ちが伝わったのか、柔らかな表情になる。


「そう……ですか?」

「むしろ、その継続できる力を活かせば彼女くらいいくらでも作れる」

「いくらでもっていうのは……あんまり誠実じゃない気がするかな」

「たとえだよ、たとえ。そのくらいイージーってこと」


 そういうことかと来島は頷く。

 頃合いだろう。俺の正体を明かす時がきた。


「実は俺、何でも屋みたいなサークルに所属してて、先輩が望むなら、彼女作りをサポートさせてもらう」

「ほ、本当ですか?」


 先輩が望むなら……と言ったところで二人の社会的な関係性と言葉遣いが逆転していることに気付いたが、もうこのまま進むことにした。


「まかせろ。俺の名前は古庵瑠凪。……来島、今日から俺のことは古庵先生と呼べ!」

「こ、古庵先生! よろしくお願いします!」


 こうして、白髪の一年生と黒髪ひょろながの二年生という、魔法少女ならコンビになりそうな二人は知り合ったのだ。


 ・


「……というのが俺たちの出会いだな」

「つまり、あの人がKLの最初の依頼者にして、無事に佐藤さんを射止めた――あれ?」

「気付いたか」


 七緒は頭に疑問符を浮かべている。


「それについてはこれから話すよ。俺たちがどうやって、恋愛という大海原に漕ぎ出して行ったかを……な」

「……あのブログの口調がうつってきてません?」

「……確かに」

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