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愛が重いだけじゃ信用できませんか?  作者: 歩く魚
第3章

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遊園地

 世間的には20歳手前というのはまだまだ若者だが、本人が同じように思っているとは限らない。

 自分の身体の衰えというのは自分にしか分からない。

 スポーツ選手なんかは記録でわかるかもしれないが、俺は日々の行動の記録をとっているわけではない。

 つまり、何が言いたいかというと――。


「古庵くん、次はこっち行こ!」

「…………よくそんな元気あるな」


 朝っぱらから夕方までぶっ続けで遊園地を回る体力は俺にはない。

 飲み会の時に朝から予定を空けろと釘を刺されたが、その辺の認識をちょろまかして楽ができると思っていたのだが……。

 昨日紫から届いたメールには「明日フォトンランドのチケット取ったから行こうね」と、ご丁寧にハートマークの絵文字付きで書かれていた。

 チケットは安くないし、わざわざ取ってもらったのならば俺も早起きせざるを得ない。

 ということで前人未到の5時起きからの待ち合わせ、開園時間には到着なんていう爆裂多忙スケジュールをこなしたのだ。

 寝ぼけた頭は準備にかかる時間も増すし、多分何かしら家に忘れて来ている。

 それに対して紫は眠そうな顔一つせず、もしや徹夜明けかと思い聞いてみたが、「23時には寝たよ」だそうだ。

 生活習慣が整っていらっしゃる。


「次は何に乗るんだ?」

「えっと、アルティメットサンダーコースターmark2かな」

「週に二人くらい本当の楽園に送られてるだろ、そのジェットコースター」


 mark2ってなんだよ。

 初代が事故で稼働停止してるから二代目が作られてないか?

 だが、実際に乗ってみるとスリリングさと爽快感でかなり楽しめた。


「思ったより良かったでしょ?」

「あぁ、でも、ちょっと疲れたかも……」


 道の端に移動する。

 フォトンランドは国内でも随一のテーマパーク。

 子供から大人まで誰もが楽しめる夢のような場所として、光子のように淡く美しい思い出が作れる場所なのだ。

 ……いや、「光子のような」という部分からは俺の想像でしかないし、そもそも光子が目に見える物なのかも知らない。文系なのでね。


「はぁ……はぁ……」


 ともかく、最高に楽しめる場所であるのは間違い無いのだが、人間は何をするにも体力が必要。

 肩で息をしている自分が情けないけれど、これが現実だ。

 今日は平日、大学をサボって来ているので人は少ない。

 並ぶ必要がないのは一般的には喜ばしいことなのだろう。

 だが、ノンストップでアトラクションに乗り続けるのも相当に疲れる。

 視線を少し上げると、小学生くらいの兄妹がはしゃぎ回っていた。

 その体力が羨ましい。


「少し暗くなってきたし、最後にパレード見たら帰ろっか」

「つ、次はどこに……?」

「席とってゆっくりするだけだから安心して」

「そうか……よかった……」


 そろそろ座れと身体が危険信号を発していたところだ。

 パレードはのんびり見れるということで、遊園地に来て疲れて倒れた大学生という不名誉な称号を得ずに済んで良かった。


「はいこれ、広げてね」


 彼女は肩にかけていたトートバッグからレジャーシートを取り出して俺に手渡す。

 広げてみると、白地に丸い水玉模様のデザイン。


「用意がいいな」

「古庵くんにくつろいでほしかったから。お茶もあるよ。水とか麦茶より緑茶が好きだったよね?」

「なんで知ってるんだよ。その通りだけど」

 

 同じく手渡されたペットボトルのキャップを開け、緑茶を胃に流し込む。

 カラカラに渇いた身体に水分が染み渡るようだ。


「ありがとう。お陰で元気出たよ」

「良かった。あとはこのまま座って待ってようね」

「おう」

「肩揉んであげようか? 大丈夫?」

「じゃあお願いするよ」


 紫は何かと俺にマッサージをしようとしてくれる。

 これが俗にいう「尽くすタイプ」というやつなのだろうか。

 色々やってくれようとする子は今までにもいたが、深い関係になりたくないから断ってきた。

 しかし、意図せず関わることになってしまった七緒や紫に対しては、少しずつ警戒心が薄れているのかもしれない。

 だからこうして黙って肩への刺激を受け入れているわけだ。

 ……いや、飲み会の時のような行動に慣れすぎて感覚が麻痺しているのか?

 まぁいい。マッサージされて損することはないし、毎回彼女のテクニックが上がっていて普通に気持ち良い。

 尽くされるというのは存外良いもので、身を任せすぎるとダメ人間になりそうだ。


「……はい、こんな感じでどう?」


 最後にマッサージした箇所をほぐし、彼女は手を離した。

 

「大満足だよ。ありがとう」

「……ふふっ。また何かあったら言ってね」


 そう言って紫は俺の隣に並んで体育座りした。

 辺りを見回すと、俺たちと同じように場所取りしている人もちらほらいるが、まだ多くの入場者が目前を歩いている。

 その流れを目で追いながらぼんやり観察している。

 紫はどんな気持ちだったのか、それは定かではないが、口を閉じて静かに空を見上げていた。


「……そういえばさ」

「ん?」


 水中から昇ってくる気泡のような疑問。

 彼女は目だけを動かして俺を見た。

 

「俺たちってどんな出会い方だったんだ?」

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