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愛が重いだけじゃ信用できませんか?  作者: 歩く魚
第3章

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やる気

「加賀美さん、やる気ある?」


 ゆらりとやってきた紫が加賀美に対してそう問いかける。


「やる気……? あ、あるけど、ないように見える?」


 突然喧嘩腰にも思える言葉をぶつけられたためか、加賀美は困惑と苛立ちが混じったような口ぶりで答えた。


「いや、あるように見えたよ」

「だったらどうしてそう聞いたの? 普通、やる気なさそうだから聞くんじゃないの?」


 その疑問は間違っていない。

 俺も全く同じように考えていた。


「なんていうか、加賀美さんは自分がやる気あるって気付いてないように見えるんだよね」

「気付いてない?」

「正確に言うと、自分が思ってる以上に仕事に本気だってことに気付いてないと思うの」


 未だに彼女の言っていることにピンときていない俺と加賀美。

 紫は言葉を続ける。


「加賀美さんはさっき票を獲得できなかったのですごく悔しがってたでしょ? それって、少なくとも仕事を仕事としか捉えてない人の反応じゃないと思うよ」

「それは……」

「もちろん、楽に人気が出たらいいと思うし、それは甘い考えだとも思う。でも、加賀美さんはメイドとして接客する仕事に愛着にも似た気持ちを持ってるんじゃないかな。だから、もっと努力できるよ」

「確かに…………私が優勝するんだと思ってた。未経験の子よりは私の方ができるって自負してた」


 ようやく俺も、紫の言いたいことが理解できた。

 単に人気を出したいだけでメイドという職になんの気持ちもない人物なら、紫や凛に負けたところで少しのダメージも受けないだろう。

 言っちゃ悪いが二人の方が加賀美よりも見た目で勝っているし、そうやって自分を誤魔化してヘラヘラ笑っていることだってできた。

 だが、彼女は心底悔しそうな表情を見せたのだ。

 それは今まで努力してきたことに対する自信や、その職に対する熱意に他ならない。

 気持ちと技術が全く比例していなかったのが残念な点だが、まだここから挽回できる可能性はある。


「だったらもう一回頑張ろうよ。さっき古庵くんたちがくれた意見を見直すだけでも変わるんじゃないかな」


 ずっと浮かない様子だった加賀美は、優しく接する紫に意欲を触発されたのか、その目を見返す。


「……わかった。もう一回、練習に付き合ってもらってもいい?」

「うん。古庵くんは帰ってていいよ。また明日成果を見せるから」


 七緒と頷き合い、荷物をまとめて教場を出る。

 俺としてはこのまま見捨てても良かったが、紫が彼女の可能性を見出したのだ。

 加賀美がどのような成長を遂げるのか、大いに期待するとしよう。



「はぁ〜い! いらっしゃいませご主人様〜!」

「おぉ……元気だな」


 翌日、KLの教場に入った俺を迎えてくれたのは、太陽のように明るい笑顔の加賀美だった。

 そして、その後ろから紫がひょっこり顔を出す。


「おはよ。どう? 一目見ただけでも違うのがわかるでしょ?」


 言われてみれば、昨日とは違って変に身構えた感じがなく、自然体なのが容易に伝わってくる。

 だが、変わっているのは雰囲気だけかもしれない。

 軽く会話してみるとしよう。


「今日は曇っててあんまり気分が晴れないな」

「確かにじめっとしてて元気でないですねぇ。でもでも、そんなちょっとなぁ〜って時こそ明るくいた方がいいんですよっ!」

「そうなの?」

「はい! 私よく失敗しちゃうんですけど、そこで前向きになれば嫌な思いでも良い思い出になりますから! ご主人様は最近ちょっとなぁ〜って出来事ありましたか?」

「俺は……カバンに入れておいた雪スプレーの缶が爆発して一面真っ白になったことかな」

「確かにそれはちょっとなぁ〜ってなりますよね。繊維にまで入り込んじゃうからなかなか落ちないですし……でも、逆に考えると半年早く雪が見れたってことですよ! 最近暑くなってきたし、むしろハッピーかもしれません!」

「まぁ、確かに?」


 スプレー缶が爆発したというホラ話はさておき、確かに昨日との彼女とは違うようだ。

 相手の個人情報ではなく、どんな出来事があったかという部分に着目していて、それに対する返答も、まずは「あるある」で共感してから気分を上げるようなことを言う、というものになっている。

 また、一見するとキャラクターとしては変化がないように思えるが、彼女の口癖であろう「ちょっとなぁ」を主軸に据えたキャラ付けもなされている。

 表現が難しかったり返答に困る質問に対してはこの言葉で対応が効くだろうし、グッと会話の幅が広がった。


「すごいな。たった1日でこんなに変わるものか」


 こちらの様子を伺っていた紫に声をかける。


「一体何をしたんだ?」

「特別なことは特に。ただ、加賀美さんができるだけ自分でいながら接客できるように一緒に考えたんだ、無理して自分を偽る必要はないからね」

「そうだな。俺もそう思うよ」


 自ら変化を望むならまだしも、他人に言われて変わる必要はない。

 ありのままの性質を活かして成長するのが一番だ。


「夕莉にも同じようなこと言ったっけ。覚えててくれたのか?」

「……うん、そうだよ」


 一瞬視線を落としたが、すぐに俺の目を見つめなおす。


「これなら前より人気が出ると思うんだけど……どう?」

「素晴らしいと思う。加賀美さん自身はどうだ?」

「私も行ける気がしてきたかも。音羽さん、古庵くん、本当にありがとう」


 加賀美は深く頭を下げる。


「まぁ、まだ成果が出たわけじゃないし、依頼解決ってことにはしないでおくよ。だからいつでも気軽に訪ねてきて」

「うん! ありがとう!」


 ……とは言ったものの、その後、加賀美は順調に固定客を作れているようだ。

 まだ手放しで人気とはいえないものの、明るい未来は間近ということで依頼は完了となった。

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