助け合い
「皆様ありがとうございました。第二回大会でお会いしましょう。それでは〜!」
坊主主導の元、無事にメイド合戦は終了した。
次回大会なんてあってたまるかという感じだが。
凛は学祭に向けての練習があるとかなんとかで坊主と共に去っていった。
変わらず満足であり、誰が優勝したか間違えてしまいそうなくらいである。
楽人と蓮もそれぞれ用事なり講義なりに向かい、教場にはKLメンバーと紫、加賀美が残っていた。
七緒と紫は珍しく二人きりで会話しているが、遠いためその内容は不明だ。
もう一人、先ほどの戦いで一票も入らずに敗北してしまった加賀美はいまだに下を見つめたまま。
このまま落ち込んでいられても何も変わらないし、声をかけてみる。
「さっきはごめん。ちょっと言いすぎたかも」
「ううん。みんな正直に言ってくれたわけだし、気にしないで」
その通りだ。
「私、やっぱり向いてなかったのかな? 何にもできなくて嫌になっちゃう、はは……」
俺は迷っていた。
なんと言えば彼女が成長出来るのか分からなかったからだ。
正直、彼女の接客を見て売れるわけがないと確信していた。
顔は悪くないが、抜きん出て可愛いわけではない。
自慢できるような一芸があるわけでもなく、蓮や楽人への会話から他人に興味がないのも読み取れる。
それで人気になりたいというのだから、舐めているとしか思えない。
しかし、それをそのまま伝えるのが酷なことは俺にも分かっている。
向上心のない人間の願いを叶えてやるほどお人好しでもない……が、この依頼が失敗すれば紫はKLに加入できない。
そうなると俺の「化物には化物を」作戦も頓挫してしまう。
どうにかして加賀美にやる気を出させるなり、スキルアップする方法を授けたい。
「加賀美さん、やる気ある?」
思わぬ人物が、ナイフのように鋭い言葉を彼女に突き立てた。
「優勝おめでとうございます。先輩とのデート、羨ましいです」
「ん。ありがと」
瑠凪と加賀美が話していた時、教場の端では別の会話が繰り広げられていた。
七緒はにこやかに声をかけるが、その反応は芳しくない。
話しかけてきた相手が……というわけではなく、考え事をしているようだった。
「どうしたんですか? せっかく優勝したのに、試合には勝ったけど勝負には負けたような顔してますね」
全て見透かしているというような口ぶり。
事実、七緒は紫の思考を完全に読んでいた。
「……優勝して古庵くんを独り占めできるのは嬉しいけど、私に票を入れてくれなかったのが引っかかって」
不貞腐れるほどではないが、あの時フリップに書かれていた凛の名前が、喉に突き刺さる小骨のように残っていた。
「日向ちゃんは悔しくないの? 古庵くんのことが好きなら、彼が別の人を選ぶのは苦しいでしょ?」
「もちろん……でも、負けるのは分かっていました」
「分かってた?」
勿体ぶった口ぶりに紫は少しイラついていた。
しかし、次に七緒の口から放たれた言葉は、そんな一過性の気持ちなど簡単に吹き飛ばしてしまう。
「だって、先輩は西堂先輩に惹かれてますから」
「え……」
紫の瞳が見開かれる。
「先輩のこと、知らないわけじゃないと思いますから要点だけ言いますね。おそらく、私たちの中で一番先輩の心を射止める確率が高いのは西堂先輩です」
「…………綺麗だし、スタイルいいし、なんでもできちゃいそうだからね」
「できちゃいそうじゃなくて、多分あの人はなんでもできます。今、先輩が取られていないのは、西堂先輩がまだ恋愛に疎いからですよ」
大抵の場合、大学生にもなれば異性からのアプローチは少なからず受けるものである。
容姿の優れた女性であれば尚更。
しかし、一片の綻びもないような、誰が見ても高嶺の花だと理解できる人物に関しては例外だ。
「自分が釣り合うわけがない」という先入観から行動を控えてしまう。
故に、凛は二十年余りの人生で恋愛をしたことがなかった。
それには彼女が惹かれる異性がいなかったのも関係しているが、なんにせよ恋愛経験は皆無。
だからこそ、凛は瑠凪との距離を縮められずにいる。
「先輩があの人に票を入れた時に理解したはずです。このままだと、私たちは二人とも負けるって」
「…………何が言いたいの?」
鋭い視線が七緒に向けられる。
二人の目が合う。
「私たちの一人一人が戦っても勝率は低い。だから、ここは手を結びませんか?」
「協力するってこと?」
「はい。基本的に私たちが先輩を取り合うのは変わりませんが、西堂先輩が関わってきた時に限っては協力して彼女を倒す。あの人が脱落したあと、私たちはゆっくり決着をつければいいんですから」
「…………」
紫は考えていた。
果たして、七緒の言っていることは正しいのか。
彼女の提案に乗ってしまって良いのか。
目の前の相手が抜け目なく物事を進める人間だというのは、他人に興味のさほどない紫でも理解している。
だからこそ、そんな相手との協力関係は自らの身を破滅させる一因になりかねないが……。
「……あくまで西堂先輩が絡んだ時だけなら」
彼女は頷くことにした。
それは、戦いでの敗北感が大きかったからだ。
「疑ってますね。大丈夫ですよ、今回ばかりは本当に助け合いたいだけですから。よろしくお願いします」
「……よろしく」
二人は軽く握手をする。
「でも、ここであなたが依頼を解決してくれないとこの関係も無駄に終わってしまいます。行ったほうがいいんじゃないですか?」
「そうだね。行ってくるよ」
紫は瑠凪と加賀美の方へ駆け寄り、鋭い言葉を放つ。
「……別に、取るに足らない相手ならこのまま落としていたんですけどね。有象無象以上、私以下。二人になったら勝つのは私です」
遠くから様子を眺めながら七緒は呟いた。




