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愛が重いだけじゃ信用できませんか?  作者: 歩く魚
第3章

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店名

 目の前が真っ暗になりかけた俺を席へ誘導し、七緒は凛の元へ歩いていく。


「おばさ……先輩、早く用意してもらえますか? 時間って有限なんですよ? あ、もしかしてそれを知らないから無駄に歳をとっちゃってるんですかね」

「…………なんだ、誰かと思えば瑠凪に付きまとう不届きものではないか。私の聞き間違いじゃなければ、無駄に歳をとったとか言っていたな?」


 俺への怒りは感じられないから処刑の心配は無くなったが、また新たな……もはやお約束の戦いが始まろうとしていた。


「逆になんて聞こえたんですか? 耳がおかしいなら良い病院紹介してあげますよ。ネット評価は星一つですけど」

「まさかとは思うが、私が瑠凪の性的欲望をかきたててしまったことに嫉妬しているのか? なに、そう落ち込むな。私と小娘とでは持って生まれた物が違うのだから――」

「はぁ? 私だって良い身体してますけど? むしろ私の身体にメロメロですけど?」


 そんな事実はない。


「胸の大きさは互角ですし、だったら肌年齢が若い私の勝ちじゃないですか?」

「ふっ、何を言い出すかと思えば、私は日々選び抜かれた道具で肉体のメンテナンスをしている。高いものが良いとは限らないが、正直言って小娘が使っているものよりは効果がある」

「そうやって道具に頼るのが年齢では勝てないと悟っている証拠ですよ。私は実技でも先輩を骨抜きに――」

「私は二人みたいにスタイル良くないから羨ましいな」


 突然降ってきた紫の言葉に二人の表情が固まる。


「……今なんて言いました?」

「え? ほら、私は胸も平均くらいだし、古庵くんは肉付き良い子の方が好きだからさ。何か変なこと言っちゃった?」

「…………いえ別に。それ、あんまり人に言わない方がいいと思いますよ」

「……?」


 確かに凛も七緒もスタイルが良い。

 出るところは出ているし、かと言って太っているわけでもない。

 二人だって自分の身体に自信を持っているはずだ。

 だが、だからと言ってコンプレックスを感じないとは限らない。

 男子は肉付きの良い女性のことをスタイルが良いという傾向にあるが、女子はむしろその逆で、ローキック一発でポキリといってしまいそうな細い女子に憧れるものだ。

 きっと彼女たちにも紫のような繊細さに惹かれる心があるのだろう。

 ……なんで俺が肉付き良い方が好きだって知っているんだ?


「それは先輩のことをストーキングしてたからじゃないですか」

「あぁ、確かに」


 そういえば俺がホテルに入るところも見ていたんだったな。

 であれば好みがバレるのも納得だ。

 ナチュラルに心を読まないでほしい。


「……このS極とN極のような髪の娘がストーキングの犯人!?」


 目を見開いて驚く凛。

 差し入れ問題が解決したことを伝えていなかった。


「そうなんですよ。まぁ、もう和解したから大丈夫です」

「大丈夫って……いや、瑠凪がそういうのならよそう。だが、だとするとお前も私の敵ということになるな」

「私もそう思ってたところです」


 敵……?

 あぁ、凛は先輩として、俺が良からぬことに巻き込まれないか心配してくれているのか。


「しかし、二対一とはいささか分が悪いな…………磯部!」

「はっ! ここに!」


 高らかな声で呼ぶと、先ほどまでホットプレートで焼きそばを踊らせていた男がこちらへ馳せ参じる。

 おい、プレートの電源切ってからこいよ。


「…………なら……が………………で……」

「はい……はい……そうだと思います」


 凛は呼び出した磯部という男と何やら密談している。

 そのまま十数秒ほど会話を続けた末、磯部は背筋を伸ばして声を上げる。


「ここで私から提案があります! 今回は各々の接客を見せるという内容でしたが、この中で誰の接客が良かったのかを投票し、最終的に一番票数の多かった者に賞品を与えるのはいかがでしょうか!」


 提案は全員に聞こえるようにされたものだったが、この場でのKLの実質的な長は俺であるため、個人に向けて言っているのと変わらない。


「はぁ……別にいいですけど、その賞品ってのはなんなんですか?」

「賞品とはズバリ…………古庵瑠凪様とデートできる権利!」


 俺とデートするのが賞品?

 何を言ってるんだこの男は、早く焼きそばを育てに戻れ。


「うちの二人は納得するかもしれないけど、凛先輩と加賀美さんは喜ばなくないですか?」

「いえ、座長はそれでいいと申しております。加賀美様には別途、何か用意させていただければなと……!」


 磯部は視線を加賀美に向ける。

 今まで蚊帳の外から小競り合いを見ていた彼女は、急に話を振られて少し驚く。


「え、えっと……なら新しいアクセサリーがいいで〜す! 土星みたいなやつ!」

「……KLのお二人は?」

「私は大丈夫ですよ。どう転んでも私の思い通りなんで」

「乗るよ。アタックもできて賞品も出て、こんなに良いことはないね」


 磯部はニヤリと口の端をあげ、三回転くらいしながら気持ち悪いポーズを決める。


「それではこれより、第一回メイドカフェ〜KL〜最萌メイドさん決定戦を開始します!」

「いいから早く焼きそば焼けや眼鏡坊主!」


 あまりにもイキイキしていたものだからつい突っ込んでしまった。

 誰があんなにダサい店名を定めたのかと問い詰めてやろうかとも思ったが、よくよく考えたら俺だった。

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