若気の至り
大学生というのは良い。
大抵のことは「若気の至り」とかいう魔法の言葉で許されてしまうからな。
だから今、このKLの教場がパーティグッズで飾り付けられていることだって罪には問われない。
もちろん大学側にここでの講義がないことは確認しておいたから余計な横槍が入る心配は皆無。
「…………ふぅ。こんなもんか」
暑くなってきたから少し動くだけでも汗ばんでしまう。
額を拭いながら教場を確認する。
普段は白一色の机には可愛らしいテーブルクロスが敷いてあり、紙のコップが既に準備してあった。
ホワイトボードには大きく「メイドカフェ〜KL〜」というセンスのないネーミングが……これは俺が書いたものだったな。
そして最も目を引くのは、教卓付近に置かれているホットプレートだろう。
まさかここまで気合を入れるとは、今日が文化祭のような気分である。
お分かりだとは思うがこのプレートを用意したのは俺ではない。
どうせやるならリアルにした方が面白いとか言って、これからやってくるあの男がわざわざ持ってきたのだ。
ちなみに調理をしているのはKLのメンバーでもなければ加賀美やアイツのチームメイトでもない。
まぁ、これは後で説明することになるだろう。
「はいは〜い! こっちは準備できたよ〜!」
教場内の端に設置してある仮設更衣室から加賀美が出てくる。
彼女は自前のメイド服を持ってきたようで、着こなしから何まで慣れているようだった。
「こっちも準備できたぞ」
「りょうか〜い! それじゃあみんな出てきていいよ〜!」
もう仕事用のスイッチが入っているのだろう。
テンション高めの加賀美は「みんな」とやらに呼びかける。
「それで、なんでお前たちもやってるわけ?」
更衣室から出てきたのは七緒と紫。
今日は加賀美の接客の様子を見るはずだが、何故か二人もメイドとして参加するようだ。
「先輩にご奉仕したいと思うことに何か問題でもありますか?」
そう言った七緒を見てみると、思いの外シンプルなメイド服姿だった。
黒と白の色使いに腰から下がふわりと広がっているクラシカルなメイド服。
背中ほどまである黒髪や毛先の巻き具合、普段通りの眼鏡も格好にマッチしている。
「問題だらけだろ」
「そんなことないですよ。気持ちよくしてあげますよ?」
「ご奉仕って言葉をエロい意味で使うんじゃない」
「え、マッサージしてあげるって意味だったんですけど。まったく、先輩は考えが淫らですね……」
「おうぶっ飛ばしてやるからな。しかももう一人いるし」
「ん? もう一人って私のこと?」
紫も七緒と同じくメイド服……だと思うのだが、丈が短かったり胸の辺りにハート型の穴が空いていたり、無駄に露出の多い。
色味はシンプルなモノクロではあるものの、赤と青という髪色のおかげで芋っぽい印象はなく、似合っていた。
「紫ちゃん以外に誰がいるんだ?」
「もう一人いるけど……まぁいいや。私も古庵くんにアピールするチャンスだと思って参加することにしたんだ。楽しみ」
「そんなフェスみたいな気軽さかで…………もう一人?」
俺の聞き間違いじゃなければ、彼女は今「もう一人いる」と言ったはずだ。
だが、目の前にはすでに加賀美、七緒、紫の順で役者が揃っている。
そのためもう一人なんているはずがないのだが、一体――。
「私の出番のようだな!」
更衣スペースのカーテンがシャッと勢いよく開き、最後の一人の姿が顕になる。
「ま、まさか……!?」
輝くような銀髪と、メイド服姿でも堂々とした立ち姿。
最近は負けている様子しか見ていない気がするが、明らかに登場は強者のもの。
そう、彼女は――。
「凛先輩!?」
「あぁそうとも! 待たせたな、瑠凪!」
ホットプレートで焼きそばを作っているのが劇団サークルのメンバーだというのが疑問だったが、これで合点がいった。
経緯こそ不明だが、西堂凛もこの混沌極まるメイド合戦の参加者だったのだ。
「いやなに、風の噂で今日のことを聞いてな。そこの小娘に話を通してもらったというわけだ」
「小娘って言わないでもらえます? 私としても知らしめておかないといけないことがあるので参加を認めました」
「はぁ…………」
早速ばちばちしているな。
それにしても、凛の姿はこれまた一段と魅力的だ。
これまでの流れを崩さぬメイドスタイルだが、そのデザインがチェック柄というところで若干の差別化を図っている。
しかし、スラリと伸びた細くて白い手足に、強調せずとも大きさがわかってしまう胸部。
いわゆる「強い女性」が可愛い服を着るという矛盾にも似た属性のぶつかり合い。
なんというかこう……。
「………………エロいな」
「はぇ!? な、何を言っているんだ瑠凪!?」
あ、やばい。
自分が発したと気付くのが遅れるほどナチュラルに言葉が漏れてしまった。
天下の西堂家を継ぐお方に舐めたことを言ってしまったのだ。
明日の朝日を拝めないなんて事態になりかねない。
急いで謝罪だ。場合によっては靴を舐めるのも覚悟しておこう。
「すいませんでした! どうか命だけは助けてください!」
「え、エロいだなんて…………何処の馬の骨とも知らないやつに言われたなら切り捨てるところだが、瑠凪は私にせ、性的な魅力を感じてくれているということだよな……? なら、これはむしろ喜ぶべきことであって、つまり……」
だめだ、小声で何か言っていて俺の言葉が全く耳に届いていない。
おそらくどうやって俺を処刑しようか考えているのだろう。
「…………終わりだ」
「終わってるのは先輩の頭ですよ。絶対大丈夫ですから、早く席に着いてください」




