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愛が重いだけじゃ信用できませんか?  作者: 歩く魚
第3章

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大した依頼

 大した内容の依頼は来ないという俺の予想は、翌週粉々に打ち砕かれることになった。


「…………メイド?」

「うん、メイド」


 KLの教場には、俺の他に七緒と紫、そして依頼人がいる。

 俺と依頼人は向かい合わせで机に座っているが、残りの二人は少し離れた場所からそれぞれ様子をうかがっていた。


「あんまり人気なくて、助けてもらえないかと思って」

「人気の出し方って職場の子とかオーナーに聞くもんじゃないのか?」

「いやぁ、それは……」


 至極真っ当であろう意見を述べると、目の前の女子は苦々しく笑った。

 彼女の名前は加賀美蜜柑。文学部英文学科の二年生だ。

 身長は155〜156センチほどで、長い黒髪を巻いていて、その内側にピンクの染色をしている。

 記念すべき――といっても依頼人は知る由もないが――紫の入部試験としての依頼内容は「メイドとして売れたい」というものだった。

 エクステで無理やり伸ばした髪も、ピンクと黒のフリルのついた服も似合っているから人気だってすぐに出そうなものだが、彼女曰く、この格好は流行りに合わせて寄せたものなのだそうだ。


「でもでも、ここのサークルは基本的にどんな依頼も断らないんでしょ? 私、人気キャストになりたいの」

「別に断るつもりはないよ。ただ、もっと適任がいると思っただけだ」


 流石に、どうすれば売れるかという戦略的な知識は持っていない。

 おそらくそれは紫も同様だろう。

 彼女の方へ視線を向けてみると……真顔でよくわからないが、自信はなさそうだ。


「どうしてメイドになったんだ?」


 本筋には関係ないが、一応聞いてみることにした。

 依頼を受けるのはほぼ確定しているから、情報を集めておくに越したことはない。


「うーんとね、お金が欲しかったから……かな?」

「お金?」

「私実家住みでさ、夜職やると親にバレた時面倒だと思って。その点メイド……っていうかコンカフェは昼過ぎからシフト入れるし、うちはどっちかっていうとガルバみたいな形態だからバック入るんだよね〜」

「そういうことか……」


 思考している間に、後ろから紫が近付いてきた。


「ねぇ、全然分からないんだけど、どういうこと?」


 彼女は俺にだけ聞こえるような小さな声で問う。


「えっと、順を追って説明すると……」


 コンセプトカフェには、大きく分けて2種類が存在している。

 まず一つが、一般人が「メイドカフェ」と認識しているような店。

 アイドルに求められているような、推しの清純さが売りのタイプだ。

 ここではキャストと客の肉体的接触は御法度で、最悪の場合出禁になることがある。

 次に、ほとんどガールズバーと変わらないタイプ。

 もちろんお触りは禁止だが、感覚的には前者よりも緩いというか、「夜」の雰囲気が強い。

 厳密には違うとはいえ、どちらかというとキャバクラに近いだろう。

 2種類の違いといえば、どちらも賃金はなかなかに高いが、後者には追加でバックが入ることが多い。

 わかりやすく言えば、客がドリンクを頼むとキャストにも少額の収入が入るのだ。

 少額とはいえ、塵も積もれば山となるという言葉がある。

 人気がある子は言葉巧みに客を誘い、ドリンクのバックだけで大金を稼ぐことも可能。

 とはいえ、当然本職……というか、キャバクラなんかの給料と比べると差は出てしまう。


「ならキャバクラをやればいいんじゃないの?」


 そう、紫が言ったように思う人が多いだろう。

 しかし、キャバクラは基本的に19時から24時までしか店を開けていないのだ。

 正確にいえば、売上のために風営法を掻い潜って26時まで営業している場所もあったり、最近では朝キャバなんていうのも存在しているらしいが、ともかく営業時間が遅い。

 そのため、実家住みの場合は親バレする可能性が高いのだ。

 俺は夜職に偏見はないが、流石に自分の娘がキャバクラで働いていたら心配になってしまうと思う。

 子供憎しではなく、安全のために禁止する。

 加賀美はそれを防ぐため、妥協案としてメイドをやっていると、俺はそう解釈した。


「まぁ、全部人に聞いた話だから、実際にどっちが稼げるとか店の形態がどうとかは分からないんだけどな」

「……うん、理解した。ありがとう」


 紫が再び離れていく。


「時間をとって悪いな。ちなみに、金を稼いで何に使うとか、目標なんかはあるのか?」

「まぁ、強いていえば一人暮らしの資金かな」

「稼ぐ子は稼ぐけど、基本的にコンカフェの給料だけで家賃と生活費を賄うのは厳しいんじゃないか?」


 大学生なんて遊びどきだし、毎月予想以上に出費がかさんでしまうものだ。

 それに家賃が加わるとなると、ひもじい生活になってしまう恐れもある。


「私物覚えも悪いし他にできることが少ないんだよね。だからできればこのまま売れたいなーって」

「他のバイトを探す気は?」

「……ちょっとなぁ」


 七緒を見てみると、「全く舐めたことを言ってるな」という目をしていた。

 俺もそう思わないでもないが、彼女の依頼は人生相談ではない。


「じゃあ、とりあえずやるだけやってみるか。加賀美さんが売れっ子メイドになれるよう、頑張ろう」


 目には目を、歯には歯を、ストーカーにはストーカーをという作戦が早くも瓦解しかけている気がするが、ここから立て直せるよう努力しよう。

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