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愛が重いだけじゃ信用できませんか?  作者: 歩く魚
第3章

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歌

 足早に進む紫の後に続く。

 今までの道のりを戻っていき、ショッピングモールを出る。


「外に出ちゃったけどいいのか?」

「うん。もうすぐ着くよ」


 どこにいくのか疑問に思っていると、やがて彼女は足を止めた。


「ここ」


 指差す先にはカラオケ店。

 カラオケを専門としている店は何種類かあるが、その中でもここは一番採点が正確とされているところだ。


「早速生歌を聴かせてくれるってことか」

「まぁそんな感じ。フードもあるしくつろげるし、良くない?」

「確かに」


 30分しかないのが不安店だったが、最近のカラオケ店は30分単位で時間を決めることができる。

 店に入ると、幸いなことに誰も並んでおらず、流れるように部屋に案内された。

 注文はタッチパネルで行ってほしいと言うと、店員は出て行ってしまう。


「ふぅ……疲れたな」


 ソファに腰を下ろして一息つく。

 向かいだったり離れたところに座ればいいのに、なぜか紫の体重がすぐ隣にかかるのを感じた。

 

「30分しかないし、早く歌を――」


 言いながら彼女の方へ身体を向けると、目と鼻の先に紫の顔があった。

 近くで見ると、くっきりとした二重幅や、肌のきめ細かさが良く分かる。


「……なんでそんなに近いんだ?」


 言葉は返ってこなかった。

 しかし、その代わりと言うように彼女は俺に身体を預けてくる。


「…………ん」


 ん。じゃなくて。

 疲れたならソファの背もたれがあるわけだし、わざわざ俺の方へ来る理由が思いつかない。


「……瑠凪くんに甘えたくなっちゃった。だめ?」


 今までの無愛想な様子からガラリと変わり、上目遣いで子犬のようにこちらを見つめてくる。


「いや別に、ダメじゃないけど。ただ30分しかないから歌を――」

「やった、ありがと」


 弾むような感謝をすると勢いよく抱きつかれる。

 香水の匂いが服についてしまうと考えながら、この事態について考えることにした。

 酔っているかのように性格が変わったわけだが、彼女がアルコールを摂取した覚えはない。

 二人きりになると甘えん坊になるタイプなのか?

 それにしては落差が激しすぎるが……いや、普段溜め込んでいる分が一気に放出されているのかも。

 身体が動かしづらかったが、とりあえずテーブルの上にあるタッチパネルを取ってタッチする。


「なぁ、何か飲みたいものとか食べたいものはあるか?」


 声をかけても反応がなかったので、とりあえず二人分のコーラを注文しておいた。

 カラオケの時にはコーラ。

 炭酸が喉を守ってくれるか破壊するかは定かではないが、生き返る気がするからだ。


「……もしや歌とか関係なくこうしたかっただけか?」


 つぶやくと、岩のように動かなかった紫の身体がピクリと反応する。

 まんまと彼女の術中にハマってしまったわけだ。

 ……だが、ずっとこのままというのもな。

 どうにかして彼女を動かすことができればいいんだが。

 その時、間伸びした「失礼します」という声とともに、部屋の扉がノックされた。

 瞬間、もはや俺の身体の一部かのように一体化していた紫が、目にも止まらぬ速さで行儀良く席に座る。


「失礼しまぁ〜す。コーラお二つお待たせしましたぁ〜」


 扉を開けた店員がテーブルにコーラを置く。

 少々雑な置き方に腹を立てそうになったが、何か言う前にそそくさと出て行ってしまった。


「すごい速さだったな」


 今思い返すと面白くなってきたので直接聞いてみることにした。

 しかし、返ってきたのは「……なにが?」という惚けているのかキレているのかわからないようなもの。

 先ほど考えた仮説は正しかったみたいだ。

 紫は、普段はツンツンしているが二人きりになるとめちゃくちゃ甘えてくる。


「なぁ、あと15分しかないから一曲歌ってくれないか?」


 残り時間全てを山になることに費やすのは嫌だったので、ダメ元でもう一度聞いてみることにした。

 すると、彼女はゆっくりとマイクを持ち、テレビ台に入っている機器で音量を調節し始める。

 俺の願いが神に通じたようだ。

 つまみを回して満足のいく調整ができたのか、紫はパッドを操作して選曲する。


「じゃあ、瑠凪くんのことを思ってラブソングを歌うね。聴いててくれると嬉しい」


 甘々モードは半分継続中。

 だが、歌を歌うからか、その表情は微かに真剣さを帯びていた。

 モニターに曲名が表示され、前奏が流れる。

 残念ながら俺は知らない曲だったが、その方が新鮮に歌を受け取ることができる。

 十数秒にわたる前奏が終わりそうなタイミングで、彼女は鋭く息を吸う。

 そして、マイクから発せられた透き通る歌声に心を奪われる。

 一分、二分と時間が足早に過ぎ去っていき、気付けば紫はマイクを置いていた。


「……すごく良かった。ここまで上手いとは思ってなかった」

「嬉しい。好きな人に好きなことを褒められるのって、こんなに嬉しいんだね」


 俺の手をぎゅっと握り、心底幸せそうに笑う。

 その美しさに気を取られて俺は、いつの間にか名前で呼ばれていることに突っ込むのを忘れてしまった。

 こうして紫とのデートも終わり、俺たちは七緒との待ち合わせ場所へと向かうことにした。


「楽しかった。ありがとう」

「こっちこそありがとう。古庵君の詩、楽しみにしてるね」


 二人きりでないと名前呼びにはならないみたいだ。

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