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愛が重いだけじゃ信用できませんか?  作者: 歩く魚
第3章

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カフェ

「……それで辿り着くのがここなのか」


 広いとも狭いともいえない、二人掛けの席が7〜8つほど並んだ店内。

 日曜日のため家族連れも多く、俺たちを入れて満員となった。

 これだけだと普通のカフェのように思えるのだが、一般的なそれとは確実に違う点が二つある。

 まず一つ目は、店の壁際が凹んでいて、多くのキャラクターグッズが並んでいる点。

 そして二つ目は、店の最奥に等身大のフィギュアがある点だ。


「なんでそんなに不服そうなんですか? かっこいいじゃないですか、『ウェアヒーロー』」

「いや、かっこいいけど……」


 ウェアヒーローとは、俺が生まれるよりも前からテレビで放映されている特撮ドラマだ。

 一年ごとに新しいヒーローに代替わりし、現在進行形で新たなウェアヒーローが街の平和を守っている。

 自分が身につけている服やアクセサリーを鎧に変換させたり、それを用いて能力を発揮して戦うという設定は多くのちびっ子の心を掴み、彼ら彼女らが大人になった今、老若男女から支持されるシリーズとなった。

 もちろん俺も小さい頃は親の目を盗んでウェアヒーローを視聴していたし、今でも変身アイテムを見ると心が疼く。

 だが、七緒もこのシリーズが好きだとは思わなかった。


「先輩が行きたい場所でいいって言ったんですよ?」


 拗ねたようにそっぽを向く。


「いやいや、嫌だって言ってるわけじゃないよ。ただ意外だったんだよ。こういうの子供っぽいって言いそうなイメージがあったから」

「そんなことないですよ。私、ヒーローが好きなんですよね」


 すぐに機嫌が治してこちらを見る。

 話をする雰囲気から、ウェアヒーロー好きは本当なのだと理解した。


「少年漫画とか特撮とか、強大な敵に負けて、でも諦めないで努力して、それで最後に勝つ。そういうのに憧れがあって」

「確かにかっこいいよな。王道ものって飽きるかと思いきや、いつ見ても熱く感じるし」


 思えば、七緒は意外と漫画の話とか乗ってくるタイプだったな。


「ちなみに、俺は最近のウェアヒーローは知らないんだけど、あの等身大のはいつのやつなの?」


 身長は190くらい。

 全身が白銀の鎧で包まれているが、胸の辺りに特徴的な十字架のネックレスがかかっているため、これが変身アイテムなのだろう。

 俺が観ていた時にはいなかった戦士だし、最近のなのかもしれない。


「これは最新作のですね。胸の辺りにあるネックレスで変身するんです」


 ここまでは俺の予想が当たっていたようだ。


「このネックレスを手に持つとビームソードになったり、胸のくぼみにはめるとそこから破壊光線が出せます」


 随分と物騒な能力だな。

 彼女はメガネを持ち上げながら得意気に解説を続けていたが、自分を客観的に見て恥ずかしくなったのか、黙りこくってしまった。


「どうしたんだ?」

「……いや、私ばっかり熱弁するのは迷惑かなって……」

「そんなことないよ。もっと教えてほしい。どの戦士が一番好きなんだ?」


 俺が聞くと、七緒は壁際に飾られているヒーローのフィギュアの中の一体を指差した。


「あの黄色いやつです。平成の最初の方に出たヒーローで、シンプルに見た目が好きなんです」

「あぁ、ヘラクレスか! 俺も一番好きなヒーローだよ」

「そうなんですか!?」


 ばっとこちらに身を乗り出す七緒。

 興奮して目が見開かれている。

 でも、不思議と嫌な気持ちはせず、微笑ましく感じていた。


「終盤で闇落ちしてツノで相手を刺すシーン、怖かったなぁ」

「わかります。最終的に正義の心を取り戻して鎧が白くなるのもカッコいいですよね」

「それな? ライバルがその強さに近づくために紫外線を浴びるんだけど、強さと引き換えに寿命が縮まるんだよな」

「二人の戦いは涙なしでは見れませんよね……私未だに泣いちゃいます」


 いつになく二人の話が盛り上がっている。

 七緒もそれに気付いたのか、ぷっと吹き出して笑った。


「流石の私でも、先輩がヘラクレス好きだっていうことはリサーチできませんでした」

「七緒がそこまで知ってて連れてきたんなら驚きだよ」

「ですよね。でも、先輩の好きな音楽とか漫画とか、そういうのは一通り勉強してますよ?」

「なんだそれ。試験とかないから勉強しなくていいよ」

「わからないかもしれないけど、好きな人の好きなものは知りたくなっちゃうんです。それより……」

「ん?」


 何か気になることがあるのだろう。

 それにしては表情に疑問より喜びが浮かんでいるように見える。


「いつのまにか、私のこと呼び捨てで呼んでますね」

「…………確かに」


 言われてみれば、俺はいつからか七緒のことをちゃん付けで呼んでいない。

 どのタイミングだったかも分からない。


「これって、少しは先輩が心を許してくれてるってことになりますよね?」

「さぁ、どうだろうな」


 真実がどちらであれ、そうだと思われてしまうのは癪だ。

 だからはぐらかしてみたのだが、向かい合わせの顔を見る限りバレバレみたいだ。

 カフェで注文したドリンクが届き、それを飲み干したタイミングでタイムアップとなった。

 俺たちは紫との待ち合わせ場所に向かったのだが、その間も七緒は上機嫌なままだった。

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