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愛が重いだけじゃ信用できませんか?  作者: 歩く魚
第3章

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勝負

「とにかく、私はあの人がKLに加入するのは反対です」


 清楚系女子とギャルという真逆の二人に股をかけていた卑劣な男を成敗した数日後。

 我が憩いの場であるはずの教場では、戦いが繰り広げられていた。

 一人は艶やかな黒髪を持ち、同じく黒い半袖のシャツにアームウォーマーを付けている。

 薄いブラウンのスカートが、部分的に見えている腕の肌色と同系色のため、落ち着いた一体感のあるコーデだ。

 彼女の名前は日向七緒といい、ある日いきなり俺に付きまとい、半ば強引に実力を見せてサークルに入部してきた。

 今現在、七緒は目の前に立っているもう一人の女子に不満があるようで、俺の方を見ながら抗議しているのだ。


「なんで? 私は馬鹿じゃないし、古庵君のためならなんでもできるよ」


 口を開いたのはもう一人の女子だ。

 黒い厚底のブーツに黒いスキニーパンツ、身体にピッタリとフィットした黒いシャツに、黒いボブカット。

 ただ一つ目を惹くのは、彼女の髪のサイドの毛先がそれぞれ赤と青に染まっていることだろう。

 色で言えば左右非対称。それが、音羽紫の不思議な性格を表しているようだった。


「……別に、入れてもいいんじゃないか?」


 紫を入部させる利点はあるが、これは早く家に帰りたいという疲労からきた言葉だった。

 だが、七緒の顔がさらに険しくなったところを見るに、まだまだ靴を脱いでくつろぐことはできそうにない。


「どうして入れていいと思うんですか? この人はストーカーですよ?」

「いや、七緒ちゃんだって同じようなもんじゃん」

「一緒にしないでください! 私のは先輩に対するアプローチです!」


 カフェの中でいきなりキスをしてくるのはアプローチと呼べるのだろうか。

 付き合っているわけでもないのに、男がやったら一瞬でお縄だ。


「じゃあ、やっぱり多数決に……」

「私と先輩しかここにいないので、多数決は意味を成しません」

「なら後日、楽人を――」

「毎日頑張ってナントカってスポーツをしている親友の邪魔をするんですか?」

「……くっ。確かにその通りだ」


 いくらピチュランダとかいうマイナースポーツであったとしても、本気で世界を目指して取り組んでいる友人の手をくだらない理由で煩わせるわけにはいかない。


「むしろ、オートロックの先輩のマンションに無断で侵入したこと、私より先に部屋に入ったことを警察に通報されないだけありがたいと思ってください。今までは監視カメラに映らないように時期をうかがってたみたいですけど、私のスマホの中には証拠の動画があるんですよ?」

「……え、監視カメラなんてあったの? 全然知らなかった」


 いつも紫が俺の部屋に差し入れを持ってくる時、マンションの監視カメラには不具合が起こっていた。

 だが、それは本当にカメラの調子が悪かっただけのようで、彼女はその存在すら認知していないらしい。


「えぇ……。と、とにかく、今もサークル活動が停滞して迷惑です。速やかに出ていってもらえませんか?」

「でも私、古庵君と同じサークルに入りたいし」


 俺を巡っての会話だが、俺の感情など勘定に入っていないかのように話が続いていく。


「もちろん、これまでもKLに入りたかったよ。でも、古庵君に嫌われてるんだと思ってたからさ。今は本当のことも知れたし、古庵君に好きになってもらえるように頑張るんだ」

「残根をですけど、先輩があなたを好きになることはありませんよ。なぜなら、私こそが先輩の……お、お嫁さんにふさわしいからです」


 恋人じゃなくてお嫁さんまで見据えてるの?

 さすがに無謀すぎやしないだろうか。


「お嫁さんだったら私の方が適任だと思うよ。料理できるし、肩も揉めるし、色々満足させてあげられるだろうから」

「はいぃ? 私だって家事全般できますけど? スタイルも良いですし、あなたより若いから肌もみずみずしいですし、髪だって染めたことないからツヤツヤですし、先輩にダブルピースで満足してもらえます」


 俺は人前でダブルピースはしない。一人でもしない。


「じゃあ先輩クイズで決めますか? これで負けた方はサークルへの参加権を失うというので」

「いいね。どっちが先に問題出す?」

「私から行きます。先に2回間違えた方が負けということで。第一問、先輩がコンビニに行く際、一番最初に見る場所は――」


 いや、なんでそんなコアなクイズ出そうとしてるんだよ。

 しかも紫もなんで二つ返事で参加してるんだよ。

 ちなみに答えはプリペイドカード売り場だ。

 漫画雑誌を読むよりも先に――。


「プリペイドカード置き場。使用用途としては、楽曲の購入、ゲームへの課金が9割」

「……ちっ。正解です」


 どうして入金した後のことまで知っているのか、小一時間問い詰めたい。


「次は私だね。古庵君が最近観た映画で一番――」

「そんな簡単な問題で私に太刀打ちできるとでも? 答えはメル――」


 意気揚々と答えようとしていた七緒だが、作品を答え切る前に口を閉じた。


「どうしたの?」

「……これはひっかけ問題ですね? そんなに簡単なものが出るはずがない」


 え、そうなの?


「おそらく、『最近観た映画で一番面白いと感じたものは?』という思考に至らせるためのフェイク。実際には……『キャプテン・アボカド』。これが答えです」

「…………やるじゃん。一番面白いものじゃなくて一番感動したものを聞くひっかけ問題、よく気付いたね」

「舐めないでください。相手を陥れるための策はお見通しです」


 二人の戦いはこの後も1時間ほど続き、最終的に謎の友情でも生まれるんじゃないだろうかと思う、そんな激戦だった。

 決着はつかず、俺はドン引きしていた。

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